渦潮

行列かと思ったら複数の他人が一列に連なっているだけだった、とひどく酔っ払った女が言った。本当にそうであるのなら本当の行列がどこかに存在するのだろうか、と控えめに言ってみたのだが初めての平手打ちは昨晩の不確かな夢の続きのように思えた。
乗客の大半がそれぞれの酒に酔った下りの快速の一番端の車両にはその心地良さが滞留しているように思える。浮き足立って床に座り込む二人の男は髪の色を明るくしてそういうことを喋っていた。
前の前の駅でぶらりと下車したその男は次の次の駅のホームににこやかに佇みこちら側のドアが開くと再び乗車し、夜の森は窓の外が暗くて何も見えないけど確かにこの列車は動いているのか、と記憶の限り車掌を探そうとしている。
もうやっていないコンビニを見たことがない。男はそれを証明しなければいけないという、それは使命ともせん妄とも違う二つの瞳、もしくは一つの心を構えて平行する夜のレールを目で追っていた。
手に持った銃の冷たくて硬くて重い、恐くて遅くて目の眩むような、足が重く背筋が固く耳の冷たい、明日が恐く時間が遅く目の眩むような頭痛の果てに男は引き金を引いた。憤激の後、今日と明日が互いの視線を避けてどこかへ、誰にも探し出せない成形された視界の遙か頭上へとあなたが想像した通りになった。
紙パックにストローを挿す前に片手で振った時のあの空にも名前を付けて、不能感と名付けたそれは人々の頭上にも、腹痛のトイレと壁の色のようにいつまでも変わらないままの有様。
気が付くと、ポップコーンのMサイズのドリンクセットでポップコーンは塩味でドリンクは生ビールでパンフレットってまだ売ってますかじゃあ一冊ください来月のトークイベントはもう予約できますか、エレベーターの重い揺れに揺られながら夜の街に息を吐き出す。バス停の長い行列を見ながら歩いた。

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