鎖~繋がれた絆~ chain1-3

「じゃあ終わったら行くわ。」

「おう!お疲れ」

ヤザはヘルメットをかぶって工場に戻った

ヤザと店を出てから今日の晩に和泉のバーに行く約束をした。

それまで時間のある俺は事務所仕事を終えてからバーに向かうことにした。

25歳にもなるとみんなで遊ぶ数もグンと減った。
仕事で忙しくなるやつも居れば、地元を離れたやつ
結婚したやつもいる。
昔の様に集まれる訳が無い。

昔は毎日の様に決まったメンツで集まって。
特にやることも無いけど集まって。
それでも楽しくて。馬鹿やって。

ただそれだけが俺らの生きがいだった。

「たまには集まりてぇ〜なぁ。みんなで。」

ブーーーーーン キキー ガチャ

事務所の前に明らかな高級車が止まり、スーツ姿のヒゲ面でいかにもお偉いさんという人が俺の小さくて汚い事務所のドアをゆっくりガラガラと開けた

「すみません、便利屋さんですか?」

「はい!便利屋ですけど…」

俺は少し戸惑った。こんな下町にこんな車にこんな偉そうな人が来る事はほぼ無い。

「いやー今日の夜に丁度こっちで打ち合わせがあるので少し早めに伺ってみたんですけど良い町ですね〜なんか落ち着きます!」

そのヒゲ面は優しそうな笑顔を見せた。いかにも”社長”という雰囲気が漂っている。優しい笑顔が余計に怖さを増す。

「でね!ちょっと〜考え事をしていましたらたまたま便利屋さんの前を通りまして。相談させて貰いたいなぁーと。」

俺はとりあえずとその社長みたいヒゲ面を茶色のソファーに腰を下ろさせた

「あ!すみません申し遅れました。私こういうものです。」

胸ポケットから名刺を取り出して俺はそれを受け取った

「松井プロダクション…代表取締役…
松プロ!!!?……なんでですか?」

俺は思わず声が特大に出てしまったが、すぐにボリュームを小に戻した

松井プロダクション
通称”松プロ”
超有名芸能事務所である。しかもその代表。予想を遥かに上回ったが見事に的中した

「ご存知ですか?ある依頼をね。菊池笑業さんにお願いしたいんですよ。」

「ウチなんてこの町でもちっちゃい便利屋ですよ!松プロの社長が来るなんて!絶対なんかありますよ!怖いですよ!!嫌です!怖い!怖い!」

一瞬でバリアを貼る様に警戒した。俺は子犬の様に懸命に鳴きまくる。犬の鳴く気持ちが分かった。

「すみません。無理もないですよね、ただね。こういう商売をやっていますから。目だけは良いんですよ。見る目だけは。」

俺はその言葉に何故か嬉しくなってしまって黙り込んでしまった。

「まぁ単刀直入に言いますとね。お金を届けて欲しいんですよ。先程も言いましたが今日はこのあと打ち合わせでね。期待の新人くんが所属するんですよ。そこで明日は取材やらなんやらでバッタバタで。そこで菊池さんにお願いしたいんですよ。」

「お金ですか…どちらに…?」

「”高比良”という人物の元に。」

「高比良…お金…」

俺は頭の中でフル回転させた。松プロ お金 高比良このワードが脳内を駆け巡る

「まぁこの業界ですから。察しはつくと思います。狙われたりそういう事はありません。明日の昼までにお渡しして頂ければオッケーですから」

「失礼ですが…お振込みとかいかがでしょうか?」

「ダメなんですよ。額が違いますからね」

「おいくらですか?」

「一億。」

「いちおくっ!!!!!!?」

声が超特大に出てしまった。慌てて口を塞いだ

「ちょっと待ってください!!そんな大金…やばいですって…だって!もし!もしですよ?僕がそのお金を持って!もし逃げたらとか…どうするんですか?」

「大丈夫です。おーーい!!!」

松プロが突然車の方に向かって叫んだ。すると逃走中のハンターの様な奴がごっつい黒のカバンを優しく机の上に置いてまた車に戻った

「こちらには一億が入ってます。それとGPSも付けてありますので私が場所は把握出来ます。そして無事に届けてこちらに戻ってきた時にはですね。報酬の”1000万円”をお渡しします。」

「いっ!!!…いっぜんばん!!?」

俺はまた特大に出そうになった声を素早く両手で押さえつけた

「頼りにしてますよ。菊池さん…こちらの紙に私の電話番号と宛先の住所が書いてあります。、よろしくお願いします。」

「ちょ、ちょっと待ってください!!まだ俺は…!!!」

「それと!!!一つだけルールがあります。
“絶対に開けない事”。こちらだけ守ってくださいね。それでは健闘を祈ります。」

松プロ社長の松井はそのまま車に乗って走り去って行った
俺はおとぎ話の世界にでも入り込んでしまったのかと思った。しばらく呆然と立ち尽くす

「一億…1000万円…。。。。」

このお金が最悪の事態の


引き金となる。


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