個別原価計算の基礎的な理論(総合原価計算との相違)

個別原価計算は、計算自体はシンプルなので慣れるとそこまで難しくないため、試験で出題された場合は得点源にすることが出来ますが、そもそも個別原価計算はどのようなものなのか、総合原価計算とどう違うのかという点を意識できていない方は少なくないように思われます。

そこで、本当に基礎的な部分から押さえていただきたいため、個別原価計算の背景にある基本的な理論を、総合原価計算との違いに触れながら記載していきたいと思います。基本となる理論も押さえてより深い理解を作り上げていきましょう!

なお、本当に基礎的な部分のみを扱いますので、1級や会計士等を勉強されている方には物足りないと思いますのでご了承下さい。

また、こちらに部門別原価計算についてまとめたnoteも載せておきますので、興味があれば是非ご覧いただけると嬉しいです!


まずは前提として原価計算の大まかな流れを見ておきましょう。基本的には、①原価を費目別(形態別)(材料費・労務費・経費)に集計→②製造間接費を部門別に集計→③原価を製品別に集計という3つのステップを経ることになります。個別原価計算では、③のステップ(部門別計算を行っている前提)の計算を行うことになります。

なお、製造間接費の部門別計算を経た個別原価計算を「部門別個別原価計算」、部門別計算を行わない個別原価計算を「単純個別原価計算」と呼ぶこともあります。


ここで、③のステップでは個別原価計算と総合原価計算がありますが、両者はどう違うのでしょうか。


<ポイント①>個別原価計算は「オーダーメイド(≒受注生産)」、総合原価計算は「見込大量生産」の場合に適用される。


個別原価計算と総合原価計算はそれぞれ適用される環境が異なります。たとえば同じスーツを生産している工場であっても、たとえばオーダーメイドのスーツを受注生産している場合は個別原価計算、汎用的なスーツを大量生産している場合は総合原価計算が基本的に適用されます。

このような違いから、個別原価計算と総合原価計算の最も大きな違いは、それぞれの「原価の集計方法」となります。

ざっくりと言えば、集計した原価を、個別原価計算は「製品(指図書)別」に、総合原価計算は「期間生産量」にそれぞれ集計します。前者は製品別に個別に集計するから個別原価計算、後者は一定期間の生産量に総合的に集計するから総合原価計算、といったイメージでしょうか。

ちなみに、個別原価計算のように製品を一つ一つオーダーメイドで受注生産している場合の原価集計対象を「特定」製造指図書、総合原価計算のように見込大量生産している場合の原価集計対象を「継続」製造指図書といいます。余裕があればおさえておきましょう。



<ポイント②>製造直接費は製造指図書別(それぞれの製品別)に賦課(直課)、製造間接費は一定の基準(比率)を元に製品別に配賦する。



製造直接費は、その発生を製品に直接跡づけすることができる費用であるため、直接費を製造指図書別に求めて、原価計算表にストレートに集計します。このように集計することを賦課(直課)といいます。
また製造間接費は、その発生額を製品に直接跡づけすることができず、いくつかの製品に共通的に発生する費用であるため、一定の比率に基づいて製品ごとに配分します。
このように集計することを配賦といいます。

この流れは計算でもイメージがついていると思うので、あらためて以上の理論を意識しながら問題を解いてみてください。


<ポイント③>仕損および作業くずの処理は、その発生原因や発生状況を具体的にイメージしながら処理していきましょう。


正直なところ、仕損の処理に理論的な背景はありません。要は、仕損がどれだけ発生したか、仕損の分だけ原価を加えるか、新しく指図書を発行して代品を製作するか、計算の際にしっかりとイメージすることが大切です。

一応、仕損の処理における原価計算基準を載せておきますので、計算問題を解きながら参考にしてみてください。

【基準三十五 仕損の計算および処理】
個別原価計算において仕損が発生する場合には、原則として次の手続きにより仕損費を計算する。
一.仕損が補修によって回復でき、補修のために補修指図書を発行する場合には、補修指図書に集計された製造原価を仕損費とする。

二.仕損が補修によって回復できず、代品を製作するために新たに製造指図書を発行する場合において

1旧製造指図書の全部が仕損となったときは、旧製造指図書に集計された製造原価を仕損費とする。
2旧製造指図書の一部が仕損となったときは、新製造指図書に集計された製造原価を仕損費とする。

三.仕損の補修又は代品の製作のために別個の指図書を発行しない場合には、仕損の補修等に要する製造原価を見積もってこれを仕損費とする。
代品製作の場合において、仕損品が売却価値又は利用価値を有する場合には、その見積額を控除した額を仕損費とする。

軽微な仕損については、仕損費を計上しないで、単に仕損品の見積売却価額又は見積利用価額を、当該製造指図書に集計された製造原価から控除するにとどめることができる。

仕損費の処理は、次の方法のいずれかによる。
一、仕損費の実際発生額又は見積額を、当該製造指図書に賦課する。
二、仕損費を間接費とし、これを仕損の発生部門に賦課する。この場合、間接費の予定配賦率の計算において、当該製造部門の予定間接費額中に、仕損費の予定額を算入する。


また、作業くずも理論的な背景はそこまで重視されませんが、理論的な話がないこともないので、少しだけ触れておきます。余裕がある方のみ読んだいただければ結構です。

個別原価計算において、作業くずは原則として、発生部門の部門費から控除することなっています。たとえば材料を切ったり削ったりする切削部門において木くずが出た場合、その木くずの売却額分だけ、切削部門の費用から差し引くことができます。ただし例外として、必要ある場合には、作業くずを当該製造指図書の直接材料費又は製造原価から控除することもできます。

これ、実はよくよく考えてみると、原価計算の目的の一つは製品原価の算定であるため、作業くずの本来あるべき厳密な処理という観点からは、例外処理である「作業屑評価額を当該指図書の直接材料費から控除、もしくは、当該指図書の製造原価から控除」という処理をすべきといえます。
しかし、①厳密な計算は手数がかかりすぎること、②作業くず評価額は量的重要性が乏しい、つまり作業くず単なるくずであるため影響は微々たるものであるといった理由から、簡便的な処理である発生部門の部門費から控除することを原則としています。

一応、作業くずの処理における原価計算基準も載せておきますので参考にしてみてください。

【基準三十六 作業くずの処理】
個別原価計算において、作業くずは、これを総合原価計算の場合に準じて評価し、その発生部門の部門費から控除する。
ただし、必要ある場合には、これを当該製造指図書の直接材料費又は製造原価から控除することができる。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!簿記2級では個別原価計算の理論的背景まで聞かれることはないですが、知っておけばより計算問題を解きやすくなるし、なにより今後1級や会計士といった資格に挑戦する際に必ず役に立ちます!是非理論も押さえておきましょう!

なお、「簿記3・2級に合格するために知っておくべきこと」についてまとめたnoteを載せておきますので、簿記を学習中の方はもちろん、今後学習予定の方も是非ご覧いただけると嬉しいです!






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