薬制薬事の雑記(7) 毒劇法は読みづらいから嫌いだという話

私は毒劇法があまり好きではありません。なぜなら、ひどく読みづらく感じるから。いくつか例を書いてみます。

<毒物劇物取扱責任者の設置>

(毒物劇物取扱責任者)
 毒物劇物営業者は、毒物又は劇物を直接に取り扱う製造所、営業所又は店舗ごとに、専任の毒物劇物取扱責任者を置き、毒物又は劇物による保健衛生上の危害の防止に当たらせなければならない。ただし、自ら毒物劇物取扱責任者として毒物又は劇物による保健衛生上の危害の防止に当たる製造所、営業所又は店舗については、この限りでない。
(2項以降は略)
毒劇法7条

直接取り扱わない(商流のみ)のであれば、毒物劇物取扱責任者を置く必要はないということになります。これは「ただし書」を使って記載して欲しいですよね。

ちなみに薬剤師国家試験でも問われています。

問144. 毒物及び劇物取締法に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。

2. 毒物劇物営業者は、毒物又は劇物を直接に取り扱わない営業所についても毒物 劇物取扱責任者を置かなければならない。
(選択肢1, 3, 4略)
第97回薬剤師国家試験より

<譲受譲渡の手続き>

(毒物又は劇物の譲渡手続)
 毒物劇物営業者は、毒物又は劇物を他の毒物劇物営業者に販売し、又は授与したときは、その都度、次に掲げる事項を書面に記載しておかなければならない。
一 毒物又は劇物の名称及び数量
二 販売又は授与の年月日
三 譲受人の氏名、職業及び住所(法人にあつては、その名称及び主たる事務所の所在地)

2 毒物劇物営業者は、譲受人から前項各号に掲げる事項を記載し、厚生労働省令で定めるところにより作成した書面の提出を受けなければ、毒物又は劇物を毒物劇物営業者以外の者に販売し、又は授与してはならない。
(3項以降は略)
毒劇法14条

これは譲受書に関する規定で、
 ・相手が毒物劇物営業者 --- 譲受書不要
 ・相手が毒物劇物営業者以外 --- 譲受書が必要
ということになります。
ここも「ただし書」を使って上手くまとめられないのか?と思いますね。

また、麻向法と覚取法では「譲渡」、「譲受」と言い、毒劇法と薬機法(毒薬・劇薬)では「譲受」と言います。後者の法令に「譲渡書」のようなものはありません
この用語の不統一感もねぇ。

<届出不要業務上取扱者の義務>

流し読みをしていると毒劇法において、義務を定められているのはほとんど毒物劇物営業者であり、業として毒物劇物の製造・輸入・販売を営んでいなければ義務の対象にならないのではないか・・・と思ってしまったりしないでしょうか?

毒劇法において、義務の対象となっている者には次のものが挙げられます。
・特定毒物研究者/使用者(毒劇法3条の2)
・毒物劇物営業者=製造業/輸入業/販売業(毒劇法4条)
・毒物劇物取扱責任者(毒劇法7条)
・要届出業務上取扱者(毒劇法22条1項)
・届出不要業務上取扱者(毒劇法22条5項)
このうち、最後の一つは対象が広いにも関わらず、条文の中に埋もれており、大変分かりづらいのです。

(業務上取扱者の届出等)
5  第十一条第十二条第一項及び第三項第十七条並びに第十八条の規定は、毒物劇物営業者、特定毒物研究者及び第一項に規定する者以外の者であつて厚生労働省令で定める毒物又は劇物を業務上取り扱うものについて準用する。この場合において、同条第一項中「都道府県知事」とあるのは、「都道府県知事(第二十二条第五項に規定する者の業務上毒物又は劇物を取り扱う場所の所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長)」と読み替えるものとする。
(1〜4, 6, 7項略)
毒劇法22条5項
(法第二十二条第五項に規定する厚生労働省令で定める毒物及び劇物)
 法第二十二条第五項に規定する厚生労働省令で定める毒物及び劇物は、すべての毒物及び劇物とする。
毒劇法施行規則18条の2

このように毒物劇物を業務上取り扱う者は全て、準用の結果として、
・盗難等防止措置/飛散流出等防止措置/運搬時の措置/容器の制限(11条)
・容器および被包の表示/貯蔵陳列場所の表示(12条1項、3項)
・事故時の届出等/盗難紛失時の届出(17条)
・立入検査等(18条)
について義務が課されることになります。

対象範囲を省令に委任して、その結果として全ての毒劇物が対象になるのであれば、法律にもう少し分かりやすく書けば良いのに・・・

<委任の分かりづらさ>

毒劇法にもSDSの提供義務の規定があるのですが、その根拠条文は政令である毒劇法施行令に置かれています。法律には一見してこれに関係する記載は見受けられません。

政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない(内閣法11条)とされています。
ということは、毒劇法のSDS提供義務の規定は、国民に義務を課したことにはならない、無効で無意味な規定なのでしょうか?

これはこういう構造なのでしょう。

(政令への委任) この法律に規定するもののほか、毒物又は劇物の製造業、輸入業又は販売業の登録及び登録の更新に関し必要な事項並びに特定毒物研究者の許可及び届出並びに特定毒物研究者についての第十九条第四項の処分に関し必要な事項は、政令で定める。
毒劇法23条の4
 毒物劇物営業者は、毒物又は劇物を販売し、又は授与するときは、その販売し、又は授与する時までに、譲受人に対し、当該毒物又は劇物の性状及び取扱いに関する情報を提供しなければならない。ただし、当該毒物劇物営業者により、当該譲受人に対し、既に当該毒物又は劇物の性状及び取扱いに関する情報の提供が行われている場合その他厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
2 毒物劇物営業者は、前項の規定により提供した毒物又は劇物の性状及び取扱いに関する情報の内容に変更を行う必要が生じたときは、速やかに、当該譲受人に対し、変更後の当該毒物又は劇物の性状及び取扱いに関する情報を提供するよう努めなければならない
(3〜4項略)
毒劇法施行令40条の9

法律の「政令への委任」の条文を根拠として政令に「SDS提供義務」規定を置いたということです。うーん、こんな委任の仕方で良いのか・・・

等々、不満があるのですよね。読みやすく解釈しやすくして下さい・・・

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