薬制薬事の雑記(15) あの日、私は過酸化水素カートリッジを日本郵便で送れたのか?

過酸化水素ガスプラズマ滅菌に用いる過酸化水素カートリッジは毒劇法上の劇物に指定されていたりします。

これを何とかして別の営業所に送りたいという要望を受けたことがありました。

過酸化水素は、濃度によって法令の適用が変わる何ともややこしい化学物質です。

過酸化水素を含有する製剤。ただし、過酸化水素六%以下を含有するものを除く。
毒劇物指定令2条19号

ちなみに毒劇法における製剤とは、

【製剤】
(1)薬剤又はこれに類するもので、物質的機能を利用するもの
(2)希釈、混合、粉砕、ろ過等を含む調整行為が加えられたもの
(3)当該成分を利用する意図をもって調整されたもの
毒劇法Q&A 問2-4より

これを送る方法として、日本郵便で送ることを考えました。

2019年に商法が改正され、危険物の運送を依頼する場合、荷送人の運送人に対する通知義務が加えられ、その対応に苦慮したのです。

(危険物に関する通知義務)
荷送人は、運送品が引火性、爆発性その他の危険性を有するものであるときは、その引渡しの前に、運送人に対し、その旨及び当該運送品の品名、性質その他の当該運送品の安全な運送に必要な情報通知しなければならない
商法572条

これは行政法ではなく、行政処分などは生じませんが、これを根拠に民事上の責任を追及される恐れがあります。

ここでいう危険物は「消防法の危険物」ではなく、「航空法や危険物船舶運送及び貯蔵規則における危険物」のように、より広い概念です。

郵便法にはこのような規定があります。

(郵便禁制品) 
次に掲げる物は、これを郵便物として差し出すことができない。
一 爆発性、発火性その他の危険性のある物総務大臣の指定するもの
二 毒薬、劇薬、毒物及び劇物(官公署、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師又は毒劇物営業者が差し出すものを除く。)
三 生きた病原体及び生きた病原体を含有し、又は生きた病原体が付着していると認められる物(官公署、細菌検査所、医師又は獣医師が差し出すものを除く。)
四 法令に基づき移動又は頒布を禁止された物
郵便法12条

このように、過酸化水素(劇物)は郵便禁制品に当たるのですが、劇物としてであれば、薬剤師もしくは毒物劇物営業者が送ることは例外として認められると読めます。

そのため、この方向で調整していたのですが、過酸化水素は「一 爆発性、発火性その他の危険性のある物で総務大臣の指定するもの」はこちらにも該当していたのです。

五、 強酸化性の物
過酸化水素水(容量二○パーセント以上のもの

SDSにあるように、過酸化水素カートリッジは過酸化水素を50%以上含んでいますので、日本郵便を使って送付するという手段は断念せざるを得ませんでした

ちなみに、過酸化水素は第6類危険物(酸化性液体)にも分類されるのですが、この場合の濃度の閾値は35%を超える、のようです。

これは公的な根拠の記載を見つけることが出来ませんでした。

お分かり方は教えて頂けると嬉しいです。

まとめると、過酸化水素は
6%を越えると、劇物(毒劇法)
20%以上では、郵便禁制品(郵便法)
35%を越えると、危険物(消防法)
となるようです。




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