市場を変えろ 既存産業で奇跡を起こす経営戦略(読書メモ)

本書は成熟産業の中小企業が勝ち残るためのノウハウが詰まっている。

成熟産業にITやテクノロジーを組み合わせ、新たな価値を生み出す手法をレガシーマーケット・イノベーション(以下、LMI)と命名し、「生産性向上×イノベーション創出」の切り口で、実践的手法が纏められている。

本書はAmazonのレビューが高かったことがきっかけで読み始めたが、成熟産業の後継者として他業界より入社したことなど、自分が著者と共通点が多いこともあり、著者が考える成熟産業の問題点に納得しかなかった。

ディスラプターが登場してから対応策を考える会社は多いが、そこに大きなリスクがある。
見積書や案件のデータが個人のエクセルや手書きで属人的に管理されている、顧客とのやりとりや営業の活動履歴が共有化されていない、受注前の営業活動フェーズでは個人の裁量に任されすぎていることなど、中小企業には非効率な部分が多い。
変化がないことを楽観的に捉えると「自分たちは安泰 」という危機感の欠如になり、悲観的に捉えると 「何をしても変わらない」という諦めの意識になる。

次にLMIの第1ステップとなる生産性向上のためのデジタル化は、目的や留意点などがわかりやすく整理されている。また中小企業でデジタル化の導入が進まない一因となっている抵抗勢力についても言及しており、非常に共感を覚えた。

デジタル化が優れているのは、仕事に関わるあらゆることを数値化、蓄積、可視化、分析できること。
データの量は基本的には戦略の精度と比例するため、より多くの社員がデータを入力できるようにしたほうがいいし、蓄積したデータ、分析した結果を全社で共有できるのが望ましい。
会社に対して批判的な人や悪口ばかり言っているようなローパフォーマーは 、データの取得や共有に反感を持つことが多い。成績が伸び悩んでいる事実や、営業活動の細かな内容までを可視化されるのを嫌がるからだ。

そして第2ステップとなるイノベーション創出では、創出プロセスの説明を通じて、実はスタートアップよりレガシー企業が高確率で成功することを実証しており、チャレンジするハードルが良い意味で下がった。

イノベーションは、まったく新しいものをゼロから作り出すことではなく、すでに存在している何かと何かを効果的に組み合わせること。
イノベーションは、「価値」と「手段」の組み合わせで整理する。
ITと無縁の経営者がゼロから勉強するよりも、ITリテラシーが高い世代に任せたほうがスピード感も出るし、良いアイデアも浮かぶ。
リスクを抑えるために、最初から全力投球するのではなく、まずは小さくスタートする。
MVPの効果は、LMIが着実に進んでいく様子を社内に見せることにより、協力者を増やし、自分たちにもイノベーションが起こせるという自信を高める。
レガシー企業は、プロトタイプを作れる設備や知見があり、プロトタイプの反応を見るマーケットとの接点を持っている。

成熟産業の中小企業は、経営者が大株主の一族経営が多く、従来のやり方を変えない傾向がある。ただその中で、現状に危機感を抱きながらも改革の手法がわからない企業も多いように感じる。本書はそういう企業にとって少なくとも改革のヒントは得れる内容だ。
個人的にも定期的に読み返したい一冊となった。

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