「先生も大変なんです」(江澤隆輔著)を読んで

本日は読書感想文。

著者の江澤さんは、小学校の現役教師をやりながら、本の執筆活動や講演会等もやられているとても精力的な方。教師が置かれている現状をリアルに描いた所謂教師の暴露本。教育現場や学校の現状に対する問題提起に富む。

さて、今回は穿った視点でこの本について考えてみたい。「本当に教師は大変なのか?」という視点だ。

先に申し上げるが、決して教師や学校を否定する意見を述べるつもりはない。井澤さんのように使命感を持って取り組んでいる現役の先生をたくさん知っている。あくまでも教師という職業に対する傾向性という意味で、こちらもある種の問題提起である。私自身も教師と民間の両方を経験している。だからこその意見と思って頂きたい。

さて、教師はそんなに忙しいのだろうか?そんなに大変なのだろうか。

本書には延々と「教師はこんなに大変なんです・・・」というエピソードが連なっている。現行の教育制度、学校という組織体制、教師という職業の特殊性について、学校の光と影が描かれている。確かに、学校は文科省をトップとした巨大組織。その中で制約や決まりが多々あり理不尽なこともたくさんある。しかし、この本の中には、教師の知見や経験値、スキルや能力という視点が完全に抜け落ちていると感じる。本日はその点を指摘したい。

①時間意識の欠如が問題では?

本書には「教育は手間をかけたらかけただけ良し」や「深夜まで残ってこそいい教師」、また「子どもの成長のために帰れない」とった「教育=聖域」という偏った潜在意識が多数記載されている。教師は保護者ではない。保護者ならば無償の愛のもと、我が子を時間とは関係なく育てていくのは当たり前だ。しかし教師は仕事である。基本的に全ての仕事は、有限の時間の中で成果を出すことが求められる。時間は無限ではない。民間企業の感覚では、「時間がかかる=仕事ができない」だ。残業=コストでしかない。与えられた時間の中で成果を出してこそ、プロの仕事人ではないか、という普通の感覚がある。今では、会社でも上司や先輩よりも早く退社する若手の姿が当たり前の感覚になってきている。本書には「早く帰る教師は手を抜いていると思われる風潮がある」というニュアンスの文章があった。どうやら職員室という空間は何十年前の時間感覚、意識感覚が息づいている、いにしえの空間らしい。あまりにも世間との時間感覚がずれている。

私も教師の経験がある。たしかに、授業の空き時間にうたた寝をしている教師がいたり、無駄な雑談が聞こえてきたり、しまいには学年の会議はお菓子を真ん中に置いて食べながら議題を進行していく。あまりにも時間感覚がいにしえだ。おそらく意識の中に染み付いてしまっているのだろう。このような姿を見ているので、遅くまで帰れない、、、という時間感覚には甚だおかしな話だなと思わざるを得ない。勿論、この例は一部の先生に限った話ではあると思うが、それを許容している職員室の空間が組織としてどうなんだろうか、と感じる。

②実社会との断絶が問題では?

教師という職業は、就職システム上、一度も社会経験を積まずに教師になる人が大多数だ。教職が取れる大学を卒業するとすぐに学校(小・中・高校)へ就職をする。そして1年目から教壇に立つ。児童・生徒の大多数が近い将来サラリーマンになる現在の世の中で、全くサラリーマンのことを知らずに学校の先生になるのだ。社会のことを知っていますか?民間企業のことを知っていますか?と先生方へ問いたい。別に公務員と民間の優劣の話ではない。生徒の大部分が民間企業に就職するのに関わらず、民間企業の置かれている状況や企業を取り巻く環境を知らずして、どのように夢やキャリアを教えていくのか。しかし、この問題は教師自身に原因があるのではなく、日本の就職システムが根本の原因だ。

しかし、この話にはもっと大きな問題がある。それは、教師という職業しか知らない人間が集まり、自分たちの特殊な殻を作ってしまうということだ。学校は職員室という同質の教師が集まる空間で物事が決まり、運営されている。基本的に「教育=聖域」という勘違いを教師自身は、さも当たり前と思っている。そのため、外部の意見にあまり耳を傾けない。非常に縄張り意識が強い猫のような存在だ。学校運営は教師が行う。教育は我々教師が行うものだという偏った使命感を持っている。だから、本書に出てくるような時代錯誤の発言が多数出てくるのだ。職員室がガラパゴス化している。そして、ガラパゴスに気づいていない教師が最も大きな問題だ。

就職システムはなかなか変えられないまでも、このような教師の内弁慶意識は変えていかねばならない。昨今の教育改革では、「社会の開かれた教育課程」や「地域と学校の連携・協働」がさかんにうたわれている。そもそも教育は学校や教師だけで担うには限界がある。もっともっと地域や外部に頼っていい。もっと外のことを知り、社会を知り、積極的に活用する手立てを考えるべきだ。教師のガラパゴス化問題が、時間意識や聖域意識などの諸悪の根源になっている。


つづく。