[応募作品]『三匹の竜と荒天の庭』:1話

私の父は村の外れで果物を育てている農夫だ。
父と言っても生物学上の父ではない。幼い頃に拾われ育ててもらっている。
果物は売り物で、毎日毎朝街の中心部の八百屋に届けている。
私はまだ街へ連れて行ってもらったことがない。父が私が街へ行くことを許さないからだ。「どうしてダメなの?」と尋ねたことがあるが、「お前は少し人と違うところがあるから」と返されるだけで取り合ってもらえない。
人と違うところ。実は、私は火を操ることができる。
何もないところから火を起こすことができるし、暖炉に火種があればそれを小さくも大きくもすることができる。でも、他の人間にはできないことらしい。それが私の人と違うところだ。父はこの能力を決して人には見せてはいけないと言う。
見せてしまったらどうなるのだろう?
考えてはみるけれど、それを父に対して口にしたことは無い。
あ、父が呼んでいる。
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ホーガン)「おい!ヴェル!いつまで寝てんだ!さっさと手伝いに降りて来い!」
ヴェル)「うるさ、、、」
ホーガン)「おい!聞こえてるぞ!」
ヴェル)「ねえ、今日は何の日?」
ホー)「知らん
ヴェル)「ねぇ、なんの日?ねぇ。」
ホー)「忙しいんだ」
ヴェル)「誕生日じゃん!女子にそんなこと言わせる男はモテないよ!誕生日だから街に連れてってくれるんだよね?ね?」
ホーガン)「まぁな。だが、街には人も多い。お前、約束を覚えているか?」
ヴェル)「知らない人と喋らない。一人でうろうろしない。絶対に火を見せない。楽勝だよ!」
ホーガン)「心配になってきた、、、」

馬車の荷台に乗って街に行く。

ヴェル)「建物がいっぱいある!」
ホーガン)「あんまり大声出すな!迷惑だろうが!」
ヴェル)「そっちの方がうるさいわ」
ホーガン)「とにかく、あんま目立つな。お前みたいな奴を毛嫌いする連中が多いからな。」
ヴェル)「お前みたいってどんなよ、、、なんで嫌われるの?まだ何もしてないのに。」
ホーガン)「複雑なんだ、難しいことがたくさん絡まりあっててな。」
ホーガン)「あの店に届けてくるからちょっと外で待ってくれ。分かってるな?絶対に、、」
ヴェル)「うろうろしないよ!」
ヴェル)「せっかくきたのに、どこも行けないじゃん。はぁ、、」

路地裏から声が聞こえてくる。

いじめっ子A)「おい!なんで持ってこないんだよ!言ったろ、持ってこいって」
黒人の少年)「ご、ごめん、だけどお金なんてもってないよ、、」
いじめっ子B)「親から盗ってくるんだよ!それが出来なきゃどっかから盗んでこい!そんなんも分かんねぇのか?!」

黒人の少年がいじめっ子に蹴飛ばされて転んで頭を打ってしまう。

黒人の少年)「うぅぅ・・・ごめんなさい」
いじめっ子B)「お前お金に困ってなくね?なんで必要なんだっけ?」
いじめっ子A)「渡さなきゃなんねーんだよ。俺らもカネ作れなきゃ、ボコボコにされるぞ。」
いじめっ子A)「そりゃ不味いな。ほら起きろよ。早く。もう一発だオラ。」
ヴェル)「おい!やめろ!何やってんだ」
いじめっ子B)「誰だ、お前。」
ヴェル)「あぁ!?んーー、正義の味方だ!」
いじめっ子A)「なんだよ、邪魔すんな。邪魔するならお前も!」

ヴェルがいじめっ子に殴られ、吹っ飛ぶ。

ヴェル)「おい、やったな!この野郎ぉぉ、、」

ヴェルの拳はいじめっ子にかわされ空を切り、いじめっ子には当たらない。

いじめっ子A)「おい見たか。こいつマジで弱えぇぇぇぇぇ。」
いじめっ子B)「くそオンナ。お前も金出せ」
ヴェル)「クッソォぉぉ、こんな奴らに負けてたらジジイになんて勝てねぇ」
いじめっ子B)「おいおい、余計なことに首突っ込むなって教わらなかったのか?弱いのにご苦労さん。」

ヴェルはいじめっ子二人から一気に攻撃され倒れ込んでしまう。

ヴェル)「ぐぅぅっっつ、テメェら調子に乗りやがって」

ヴェルは尻餅をついた。路地に座り込んだ状態で、いじめっ子たちを見上げた。ヴェルは大きく息を吸い込み腹に力を込め、口から紅い炎を吹き出した。ヴェルは手加減したつもりだったが、いじめっ子の頬が焼け、髪は焦げた。

いじめっ子A)「あち!あちちち。なんだ!何しやがった?」
いじめっ子B)「うわぁぁぁ!焦げてるぞ!ヤベェ、こいつヤベェ!」
ヴェル)「黒焦げ顔面野郎!ざまぁみやがれ!」
ヴェル)「大丈夫だった?あっ、このことは内緒にして。ジジイがうるさくてさ、、」
黒人の少年)「だ、大丈夫。何も見てないよ。でもさっき火を吹いてたよね。こ、こっちにこないで!」

黒人の少年が慌ててヴェルに背を向けて駆け出していく。

ヴェル)「おーい、カバン忘れてるぞー。なんだよ、助けてやったのにさ。」
ヴェル)「やべっ、そろそろジジイが戻ってくるころじゃん。早く戻ろう」

ホーガンの元に戻ろうとしていたヴェルをさっき逃げたはずのいじめっ子が見つけた。横には、体躯の大きな男が構えている。

体躯の大きな男)「あいつか、お前に炎を吹いたってやつは?」


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