屋上のカラス

屋上の旗下ろしをしてたら二羽のカラスが嫌なガラガラするダミ声みたいな濁った鳴き声で威嚇してきた。
×××ここは俺らの場所だ、なんだお前は、クソがクソが、オレのオレのナワバリ、お前、クソがクソが、おれらのばしょ、クソが、がー、がー×××
みたいな感じで、その辺の鉄のワイヤーをくちばしでガツガツ突っついたり食いちぎろうと乱暴に引っ張ったりして威嚇してくる。二羽は羽がボロボロで新宿っぽいなと思った。人間にも同じような奴が地上を歩いてる。
二羽はお互いに声をかけ会うときは、すっきりした優しく透き通る鳴き声でコミュニケーションをとる。仲が良さそうだ。俺の時は濁った濁音のダミ声。
その声で威嚇されると体がぞわぞわする。怖い気持ちとなめんなよくそガラスが死ねボケという気持ちが昂ぶって神経を逆撫でして体が慄えてくる。
Tさんに聞いたらやっぱり知ってて、二匹いるよね、と言われた。Tさんに、どうしてますか?って聞いたら、無視してるよ、と言われた。
こないだまたきたので旗をしまうための袋を振り回して追いかけたら逃げていって、またきたのでまた振り回して追いかけてまた逃げたけど今度は少し距離をとってこちらを観察するようになった。頭いいだろうから学習するだろうな、こいつは袋を振り回すだけでそれ以上はないと。
大声出すわけにもいかず、何か物を投げつけるわけにもいかなかった。そこで動物が舌を出したり歯茎をむき出しにしたりする行為を思い出して、口を思い切りぐわっと開けて舌をベーっと出してみたらカラスがびっくりして隣のビルまで飛んで逃げてった。
それから距離を置いて観察するようになり威嚇しなくなった。
たぶんカラスにも内臓を見せたらビビるのではないか、動物も同じ感覚を持つてるのではないかな、舌は外に出ている内臓と言ってたのは三木成夫だ。
その後そういえばよしもとばななが、動物にもちゃんと話しかければ通じる、みたいなこと言ってたなと思い出してちょっと距離を置いて観察するようになったカラスにフランクな感じで、よう!と声をかけてみたがすぐにパッと逃げられてしまった。まぁ、そうだよな、逃げるよな。
日頃から自分をアイデンティファイするときに、男女や虹色の性の他にも動物や植物や風物が人や社会と混じり合って調和して、自分の性の属性に加わればいいなと思っていたけど、まぁこの有り様ですよ。
でもカラスが隣の丸井とかに飛び移るときは優雅だなぁ、羨ましいなぁ、と思う。視点がカラスに乗り移ってビルの群れが森のように見えてくる。カラスの目が欲しい、カラスの目で街を見てみたいと思う。

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