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【3分間ラノベ】 桃太郎 00話

 男が木の枝にのっかって昼寝をしていると、覗きが趣味の悪友が北から飛んできて、上の枝に止まった。寝ぼけ眼だった男は、悪友が数年前に見せた、あの表情をしていると気がつき、一気に目覚めた。悪友は男が目覚めたことを認めると、興奮を抑えた声で言った。

「おばあさんが、きびだんごを作っている」

 そうか。そうか。とうとう来たのだ。男の口元が大きく歪んだ。やっと、やっと、なんの躊躇いもなく、煩いもなく、あの連中を殴打鏖殺する時が来たのだ。男は咽の奥で低くキッキッキッと笑うのをこらえられなかった。

「北から、きびだんごの匂いが近づいてきてる」
 木の下から、聞いただけで癪に触る、あの声がした。枝の間からのぞくと、そこには文字通り犬猿の仲である奴が、男の方には目もくれず、まっすぐ北を向き、奴の鼻でしか見えないものを見ていた。男も、悪友も黙って北を見た。そして、今度は南に向き直り、まだ見えていない、そこにあるはずの島を睨んだ。男も、悪友も奴も黙ったままだ。何もしゃべろうとしない。しかし、それぞれの目は同じ炎が煌々としていた。そう、時が来たのだ。

 木の根元にいた奴が黙って北へ歩き始めた。悪友もどこかへ羽ばたいていった。しかし、またすぐに出会うことになる。男は口元に歪んだ笑みを残したまま、再び昼寝にもどりった。

#3分間ラノベ #ライトノベル #桃太郎