アイスコーヒー迷走

 うちのインスタントコーヒーがなくなった。もうすっかり夏だし、これからはアイスコーヒーがいい。うちのオカンは溶けにくいインスタントのコーヒーを水で溶かし、ミルクを入れ、これまた水には溶けにくいグラニュー糖を入れて飲んでいた。当然、お客さんにもそれを出していた。

アカンわ・・・。

 私は以前、コーヒーショップに務めていたこともあり、コーヒーには詳しい。

「冷たい水にも溶けやすいインスタントも売ってるでー。砂糖はガムシロップこうてきたらええわ。」とオカンにアドバイスした。

 次の日、オカンは買い物に行ってきた。買い物袋から出したのは、アイスコーヒー用の豆を挽いたものだった。

「オカン、これは器具無かったらアカンやつや。」

幸い、私は水出しコーヒー用のパックを持っていた。パックにその豆を入れて水に一晩浸しておけば、おいしい水出しコーヒーが出来上がる。

 アイス用の豆は、ホット用の豆よりも煎りが強く、ガツンとした苦味を楽しむ飲み物である。ホットコーヒーをそのまま冷やしても、本来のアイスコーヒーにはならない。普通、アイスコーヒーは器具を使ってお湯で抽出し、すぐに氷で冷やして作る。だがそれより、水からじんわり抽出した水出しコーヒーは、本来のアイスコーヒーのガツンとくる苦味が抑えられ、まろやかなで飲みやすいアイスコーヒーとなる。

 間違って買ってきたが、これなら、いつものオカンアイスコーヒーより100倍うまいはずだ。これなら自信を持ってお客さんにも出せる。


 数日経ち、オカンが間違って買ってきたアイスコーヒー豆がきれた。

 次の日、またオカンがコーヒーを買ってきた。今度はインスタントではなく、前回オカンが間違って買ってきたほうのアイスコーヒー用の豆を挽いたやつを買ってきたかったようだ。

「オカン、これはホットやで!」

「何が違うん?」とオカン。

「これは、ホットコーヒー用の豆を挽いたやつやねん。インスタントでもないねん。」

 確かに、スーパーでアイスコーヒー用の豆を選ぶのは難しい。コーヒーに詳しい私でさえ、パッケージの裏表をよく読まないとわからない。ホット用の豆なのか、挽いてあるのか、豆のままか、はたまたインスタントの粉なのか・・・。

「ほな、交換してもらってくるわ」と、再びスーパーへ。


帰ってくると、オカンはコーヒーを持っていない。
「水出しコーヒーはないねんて。お金返してもーたわ」と。

 オカン、水出しコーヒー用とちゃうねん。こっちで勝手に水でだしとんねん。・・・と説明しても無駄だろうと、私はあきらめた。


しかし、オカンは次の日、またコーヒーを買ってきた。

「これやろ!」と自慢げにコーヒーのパッケージを私に見せた。

「オカン、これはインスタントやわ。」

 しかし、そのコーヒーはそもそもハジメテノオツカイのときに求めていた水にも溶けやすいインスタントコーヒーだった。振り出しに戻ったわけである。

「これも違うんか?」とオカン。

「これは、粉なん? 粒なん?」と、わけのわからんことを言い出した。

インスタントも豆を挽いたやつも粒々の粉やー!!! と心の中で叫んだが、可哀想だったので、

「これやったら、水にも溶けやすいから、アイスコーヒーも作れるで」と、返品しなくてよいことを伝えた。

やはり、私が買いにいくべきだな。
やれやれ・・・。

コーヒーのメーカーさん、うちのオカンにもわかりやすく、もっとパッケージをわかりやすくできませんかね・・・。
「お湯で溶かしてすぐのめる」とか「器具が必要やで」とか、大きく書いといたってんか!


だが、オカンは諦めていなかった。
今日、仕事を終えて帰ってきた私に、オカンが手渡した。


「おお! これでおおてるでー!」

無事にオカンはアイスコーヒー用の豆を挽いたやつを買ってきたのだった。

よくできました!


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