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僕の「あしたのジョー」の時代(最終回)

 5回に渡ってお送りした僕の「あしたのジョー」の時代もいよいよ最終回です。宇宙戦艦ヤマトや機動戦士ガンダムのように、アニメ史に刻まれるような大きなムーブメントではなかったけど、記憶の中で確かに存在していた1980年のジョーブームとは何だったのかを、あの頃の記憶や資料を元にアレコレと書き綴ってきました。

 今回、当時の資料を探っていった中で、唯一見つけた“ジョーブーム”を取り上げた記事が週刊読売1980年3/9号にありました。タイトルは『あの「あしたのジョー」第2次ブーム』。この記事が指摘するジョーブームとは、古書店での週刊少年マガジンのプレミア化現象(※特にジョーが表紙のものは保存の状態によっては1冊1000円前後の価値がついているらしい)。インタビューに答えるちば先生も、訪れたファンに描くキャラクターでの人気はジョーがダントツであると語っている。また、1昨年FCを立ち上げた2つのFCの主催者(当時19歳・男性と24歳・女性)へのインタビュー。両者いずれともリアルタイムで作品に触れてはいるものの深さに気づかず、アニメの再放送をキッカケに再燃したと語っている。
 他にもデータとして、映画公開にあわせての日本テレビでのTVアニメ再放送の第一回視聴率が27.9%と高視聴率で、KCやちばてつや漫画文庫とあわせてコミックスの売れ行き(累積800万部)、イラスト集は4万部で発売当日に重版決定、アニメコミックスも売れ行き好調だとか。さらに制作側のスタッフの裏話として、原作の直撃世代(30代前半)という紹介の流れで“やろう!”と盛り上がるのは同世代の社員達で上司達の世代には“今更そんなもの”と説得に苦労したと語っている。それを打破する戦略としてジョーがいかに人気がある作品かを証明させるべく、前年夏(1979年)全国の映画館でファン調査としてジョーへのラブレターを募り(注:この時の投稿ハガキの一部はロマンアルバム「あしたのジョー」に紹介されている)結果約1万通の大反響であった、と書かれている。
 記事は、このジョーブームを連載当時のファン、第一回テレビ放送のファン、再放送時のファン、そんな積み重ねが、三月封切りの劇場用アニメを機に一気に爆発したのだと分析していた。

 6年前、イベント“あしたのジョー、の時代展”開催。その翌年(2015年)夏にはトムス・エンタテインメントのアニメ制作50周年を記念してアニメのジョー(※ジョー2)も含めた4作品(他には巨人の星、エースをねらえ!、アタックNo1)をフューチャーした“スポ根展”が開催された。大泉学園駅には「大泉アニメゲート」と称した練馬区にゆかりのあるジョーを含めたアニメキャラクター達(他にはアトム、星野鉄郎、メーテル、ラム)の等身大の銅像が建てられたりと話題が途切れない。もはやメジャーコンテンツとして存在する「あしたのジョー」だが、1980年の劇場公開以前はどちらかと言えば地味な、かつて世相を賑わせた懐かし漫画(アニメ)的なポジションだった。当時ティーンを中心に盛り上がっていたアニメブームも、そのメインストリームは宇宙戦艦ヤマト(及び999等の松本作品)や機動戦士ガンダムであり、アニメ雑誌ですらジョーを取り上げるのは映画公開にあわせたパブリシティのみという状態であった。ビデオが一般家庭に普及する数年前での再放送はテープに声を録音するしか方法はなく、漫画もコミックスだけ。自らの想いを発散する方法にはアニメ等にイラストを投稿するとかFCに入会する位か。つまり個々に募っていた作品に対する想いを、共通のイベントとして立ち上がったのが『劇場版 あしたのジョー』だった、と。
 この映画をキッカケに好きになった者もいただろうが、その中心にあったのは作品を愛し続けたファンの力だろう。この劇場版と付随する関連商品、ムック等を収集し互いの交流を深め、作品の製作者への証言の掘り起こし、考察され、語られ、更にはTV版「ジョー2」、劇場版2の製作へと展開することで『あしたのジョー』が古典の域に達した、というのが自分の考えである。
 全てはこの1980年から始まったのだ。そしてその瞬間に立ち会えたことをファンの1人として嬉しく思っている。(終)

2020年のあとがき:※これら全6回の文章は、私の開設するサイト「一騎に読め!」内のコンテンツ❝おれと一騎❞にて6年前(2014年)に書かれたものを一部改定してアップしました。本来はこれが1980年編(前編)で、TV版「あしたのジョー2」やその劇場版についての後編・1981編も書く予定でした。資料を集めたり準備は進めていたのですが、1980年の時のような思い入れを持たず、リアルタイムの体験は劇場版のみの自分には「書きたい」という意欲は湧き上がってはきませんでした。あの当時の私は正直、少女漫画の主人公のようなキラキラしたキャラクターになってしまった矢吹丈には興味が持てず、30歳の半ばまでTVアニメのジョー2は一切観ていません…。(もちろん観た後では、作品の凄さも十分に理解はできました)
なので1981年編・ジョー2の時代の話は、その時に熱を持って体験できた人に書いていただけたらと思っています。そして私自身、それを読んで同時代を生きながら体験できなかった自分を後悔したいです。
2020.11.17 BON(菅原清和)