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令和特別篇「空手バカ一代」(昭和40年男2021年10月号増刊「我が心の梶原一騎」書き下ろし)

 梶原一騎作品史上6年余に及ぶ最長連載作であり、全国の青少年たちは言うに及ばずマンガ界や格闘技界にも多大な影響を与えた『空手バカ一代』!主人公・大山倍達は極真カラテの創始者であり、梶原の半生を語るうえでも欠かすことのできない人物である。その波乱に満ちた半生をドラマチックに描いた本作も、連載開始から50周年の節目を迎えた。総集編・復活書き下ろしとなる今回は『空手バカ一代』について語ってみたい!
※『空手バカ一代』の作品データとあらすじ

少年マガジンの危機と『空手バカ一代』

 古くから深く親交があり、義兄弟の契りを結んでいた大山の一代記連載は梶原一騎にとって長年の宿願であった。それまで幾度か編集サイドに打診を試みるも、一般的には知名度の低い大山を主人公にした自伝マンガの連載はなかなか実現には結びつかなかった。そこで梶原は『柔道一直線』や『キックの鬼』『虹を呼ぶ拳』など幾つかの連載作品の中に、大山や極真カラテを登場させつつ連載の機会を狙っていた。
 ところが、その風向きが大きく変わったのが1970年末。青少年向けに偏った誌面構成の影響や、二大看板作の『巨人の星』の完結や『あしたのジョー』の度重なる休載もあって週刊少年マガジンは部数減少の危機に喘いでいた。そうした事態の改善に向け編集体制が変わり、梶原の担当編集者が編集長に昇格することとなった。彼は以前から大山にまつわるエピソードを聞かされており、梶原の語る格闘に関わる人間の心情のとらえ方が、読者へ響くとの手応えを感じて連載を決定する。週刊少年マガジンの新たな看板作品になる!という彼の思惑は見事に的中し『空手バカ一代』は連載開始と同時に多くの読者の人気を集めることとなった。

昭和40年男世代と『空手バカ一代』

  連載から2年、人気マンガの常として本作もテレビアニメ化(※1)されたが、筆者を含め昭和40年男世代の多くはこのアニメが本作を知ったキッカケではないだろうか。一度聴けば耳に残ってしまう大安蓮(=子門真人)のクセが強めなオープニングと本編に差し込まれる実写場面は、極真カラテの凄さを示すには充分なインパクトだった。第二次怪獣ブームから変身ブームなど、特撮やアニメのヒーロー番組への熱から醒め始めた僕らが憧れた、よりリアルな“強さへの渇き”を本作のマンガやアニメとの出会いによって満たされていたのだと思う。また主人公・大山倍達の、超人的な強さをもちながらも周囲からは異端視され、愛弟子を事故死で失ったり、過失で人を殺め、死ぬ思いで稼いで建てた豪邸を騙し取られたりするなど、あまりに波乱すぎるドラマ展開にも僕らは熱狂した。梶原はこれまでにも『ジャイアント台風』ではジャイアント馬場を、『キックの鬼』では沢村忠の半生を題材にしたマンガ原作も書いていたが、それらの主人公たちはすべて有名人であり既にスターだった。その強さも、テレビで存分に放送されているので一般人には周知のこと。だからイメージを損なわないよう格好よさを描く。しかし、一般的には無名の空手家の強さをスーパーマン的なキャラクターで表現することは逆効果になりかねない。『空手バカ一代』における梶原原作の凄さは上記に挙げたような、主人公の人間としての弱さや格好悪さを丹念に描くことで逆に強さを際立たせている点にあると考える。

※1:1973年10月3日〜74年9月25日(NET系/全47話)

梶原一騎と空手バカ一代

 連載1回目で梶原が高らかに宣言した一文。
「これは事実談であり...この男は実在する‼︎」
 しかし現在では物語のすべてが事実ではないことは、関係者の証言や格闘技マニアの調査で明らかにされている。そのことで本作を不当に貶める評価をする声も聞くが筆者は決してそう思わない。何故なら『空手バカ一代』の主人公及び門下生たちは虚構ではなく現実に存在しており、その強さはすべて事実である。梶原の創作意図は、それらを毎週読者に飽きさせず伝えるためでしかない。梶原一騎という稀代のストーリーテラーが描くエンターティメントマンガ、それが『空手バカ一代』なのだ。連載が終了した77年以降も極真カラテの隆盛は続いた。もはや一過性のブームなどではなく、格闘技の1ジャンルとして完全に市民権を得たのである。大山にとって、ひいては極真カラテにとって梶原は間違いなくその功労者であった。後に梶原と大山は訣別するが両者の青春の記念碑としても、格闘技マンガの傑作としても『空手バカ一代』は永遠に読み継がれ、これからも読者の胸を熱くすることだろう。
 昔読んだきりでストーリーもおぼろげなアナタ!本棚にコミックスを眠らせているアナタ!そして折に触れ読み返しているアナタ!これを機会に『空手バカ一代』を一騎に読め!
 機会があればまた『昭和40年男』誌上でお会いしましょう!押忍‼︎

【ミニコラム】

魔球誕生の陰に極真カラテあり⁉︎
アニメ『侍ジャイアンツ』第36話「必殺の新魔球誕生」で番場蛮が生み出した分身魔球は、硬式の球を変形させるほどの握力が必要だ。そのための技術・自然借力法を番場に伝授する空手家として登場したのが大山田拳で、そのモデルは紛れもなく大山倍達本人であろう。これは同時期にアニメ放送されていた本作の主人公名が飛鳥拳で、かつ両作とも同じ会社(東京ムービー※2)で制作されていたからこそ実現した、梶原アニメキャラクターの夢のコラボレーションといったところだろうか(笑)

※2:現 トムス・エンタテインメント