今後の社会の在り方に関する検討会 第一回議事録より局長挨拶抜粋(BFC4落選作)
「開会に当たりまして、一言ご挨拶申しあげます。本日は、皆様ご多忙の中、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。本検討会のねらいは、お手元の〈資料一〉にあります検討の主旨に沿って、掲げましたところの検討項目についてご議論いただくことでございます。大変僭越ながら、思うところを申し述べてご挨拶に代えたいと存じます。まず、一部報道もございましたが、私は今月末をもって退官をいたします。本来であれば辞めていく人間がこのような場所で何か申しあげるのもはなはだ無責任ではございますが、足下の状況を鑑みると、何か言わずにはいられない、そのような思いを強くいたして、最後のわがままを通させていただきました。
さて、先ほど一四時に、国立社会保障・人口問題研究所が速報値として、わが国の人口が一億人を割り込んだとリリースを出した訳でございますが、このこと自体は、令和五年推計よりもさらに早まった事も含めて以前から予測されておりましたので、委員の皆様は既に織り込み済みかと存じます。全国で毎年九〇万人超の人口減少という環境の激変に対応するため、鳥取、島根の両県が広域自治体構想を打ち出し、事実上の合併をいたしました。ほどなく四国四県においても同様の広域化を進め、相応の年月が過ぎたところでございます。残念ながら、これらの取り組みは人口減少のスピードを落とさしめるにはいたっておりません。一方で昨年、東京都の世田谷区と目黒区が、合併して「山手城南市」を標榜し、政令指定都市を目指すと宣言いたしました。特別区からの離脱と政令指定都市化という地方自治史上前例の無いことであり、総務省ならびに東京都においても対処に大変苦慮されていると聞いております。私はこの動きが、各自治体からは強者連合の誕生であると受け止められ、財政課題を抱える自治体が見捨てられる動きがさらに加速するのではないかと懸念しているところでございます。
……ここまでは担当課で作成したメモに沿って申しあげたところですが、ここからは私個人として申しあげたいと存じます。この検討会の最大の眼目は、いわばわが国社会が直面する「負け戦」ないしは「撤退戦」にどう収まりをつけていくかであろうと私は考えております。平成元年の一・五七ショック以降、およそ半世紀に渡ってわが国がとってきた社会政策は、ほぼ一貫して少子化対策であり子育て支援でありました。つまり生まれてきた子どもを大事に育てよう、子育てをする保護者を側面から支援しようというものであり、各自治体ごとにで数多現れては財政難から先細りになった金銭的な優遇策を含めて、何かこう、ふわっとしたキャンペーンが先行した感は否めません。まずもって社会にはびこる女性への蔑視的な意識を徹底的に廃するところから始め、子どもを多く持つことを喜ばしく受け止める社会にしていく。その観点からの政策的な誘導に全省庁をあげて取り組む必要があったものの、政・官・民を含めてその力は極めて弱かったと言わざるを得ません。若年層の死亡理由のトップに「自死」が何年も続いたことを「わが事」として受け止めてこななかった。あるいは非正規雇用労働の固定化を崩そうという動きや、婚外子の法的・社会的な認知の向上、外国にルーツをもつ方を日本社会に統合していこうという取り組みが、もうあと二十年早ければ、あるいは人口減少の動きをもう少し遅くすることができたかもしれないと思うと、私は残念でならないのであります。この間、政策的に取り組んできたことといえば、文字面だけのIT化や合理化、地方議会の議員のなり手不足対策、人口減少地域での国土強靭化やらにぎわい振興策といった、代理店とコンサルタントと人材派遣業と上物づくりの事業者だけが潤うような施策の数々に過ぎません。無論、感染症や自然災害対策等、切迫度が高く緊急性を要する支出もございましたが、悪化の一途を辿る財政は特例国債の償還に追われ、IMFやOECDからの内政干渉とも言うべき勧告もご存知のとおりです。さらには、住む人が居なくなりスポンジ化したコミュニティの空疎化は、なまじのコンパクトシティ推進では到底補い切れないのが地域の実情でございます。
わが省を省みても、新たな制度は既存の制度の狭間を顕在化させ、そこを埋めるためにまた別の制度をと、結果として似たような制度のオンパレードになってしまっています。一見して非常に充実したメニューのように見えながらも、中身はどれも似ていて使い勝手が悪い。これらの体制維持にかかるコストは、ヒトも金もない行政機構にとって決して無視し得ないものです。なぜこんなに制度だけの肥大化を許してしまったのか。官僚の一人としても恥じ入るばかりです。
何を申しあげても言い訳にしかなりませんので、このあたりで終わりにいたしますが、最後に私事を申しあげさせていただきます。この度の私の退官は、老老介護が理由でございます。幸いにしてこの齢まで勤めさせていただきましたが、九十を超した両親と七十近い妻がそろって要介護状態にあり、いずれも施設入所の要件は満たさないことから当面在宅介護です。立場柄、法制度には通じていたつもりでございましたが、聞くとやるとでは大違いであると、全業種全方位の人出不足の中で実感しております。この後も早めに退勤し、デイサービスから帰宅する両親と妻を迎え、今夜に備えなければなりません。これもこの国の津々浦々で見られる、ありふれた介護風景のひとつかと存じます。委員の皆様あるいはその周囲におかれてもご事情は似たようなものと拝察いたしますが、そうしたことを踏まえつつ、本音で真摯な議論を交わしていただきますようお願い申しあげて、私のご挨拶といたします」(一礼後、退席)