見出し画像

PCR検査機自動化の壁/Some Obstacles to Introduce an Automated Polymerase Chain Reaction (PCR) Tester to Japan

(8/15追記) 見出しをつくっていたのに目次を設定しておりませんでした。設定しました。

1. 日本は自動PCR検査機の開発先進国

2本目(プロフィールの英文版を含めると3本目)の投稿になります。
note全体で何本のテキスト記事があるのか判りませんが、#新型コロナウィルス、のタグが付いた投稿が37,000程も既にあるそうなので、そんな中で最初の2本の投稿に「スキ」が意外に付いたので、ちょっと嬉しいのぞえですw 
ありがとうございます。

IT業界勤務通算15年のうち、6年間はハードウェア製造会社の日本法人に勤めており、具体的にはコンピューターの頭脳を作る米国半導体大手メーカーのIntel Corporationの本社の指示で、先進のテクノロジーをどうやって普及させるかという間接営業(=ユーザ企業への売り込み)を、そのうち4年半担当していました。
ですので、医療機器については門外漢ではありますが、ちょっと考えるところがあるので、拙稿を読んでくださる方の参考になればと整理してみました。

PCR検査に関する多くの議論を読むと、PCR検査は熟達した人じゃないと出来ないので、非番のお医者さんとかが気軽に手助けできない、手順を間違えると、数十件の検体を全部無駄にしてしまうことがある、等とあります。
で、あればなおのこと、作業手順を自動化した検査機械を作り、それを量産すればいいではないか、とは誰もが思うことでしょう。
ちょうど、昨日の朝、日刊ゲンダイデジタルに下記の記事が掲載されました。

手作業のPCR検査は、工程が煩雑のため、1検体当たり、判定に6時間ほどかかる。これに対し、「全自動PCR検査システム」は「2時間で(機器によって)8検体または12検体の判定が可能」(同社)という。


この記事に書かれてないことで、気になる点は以下5つです。

1-A. そもそも、フランスで導入・利用実績があるのに、日本で機器申請したのがなぜ今年の3月なのか。日本では医療関連の機器の承認の壁が高くて、なかなか承認されないという事情がありそうです。

1-B. 手作業で1検体に6時間かかるということは、1人で8時間労働では1日1検体しかできない、という意味なのかどうか。いや、そうではなくて、1検体の作業をして、結果が出るまでの時間を含めて6時間かかるけれども、1日8時間労働なら10検体位一人で処理できるのかどうか。そこが明確にならないと、機械を導入したら何倍のスピードで検査が進むのか、推定すら出来ません。

1-C. 2時間で8検体できるタイプより、2時間で12検体できるタイプの方が当然値段が高そうですが、そもそもおいくら万円なの?
「別にお前に買える訳じゃないだろう。買う人にしか値段は提示しない」と言われれば、それはそうなのですが、政府が先週国会を通した補正予算で足りるレベルなのか、それとも十分な数を導入するためには第二次補正予算を組まないといけないのか、知りたいところです。

1-D. 日本の地方基礎自治体=市町村は全国に1,700程ありますが、各基礎自治体に1か所ずつ保健所があるとして、そのすべてに最低1台ずつ納入するのに要する製造期間は?

1-E. PCR検査は、検査機だけあってもダメで、試験用の薬剤が必要です。都度、分量を試験管にいれて検量しなくてもいいように、検査キットにして販売されています。保健所に勤務している方の匿名のブログを読んだことがありますが、そこで使ってる検査キットは、全部中国製で、今使ってる在庫がなくなったら追加で輸入できるか判らないそうです。このメーカーの機械で使う検査キットは、まさか中国から輸入しないとダメなのかどうか。

1-F. 3月に導入申請して、どうしていまだに承認されないのでしょうかって厚労省に聞いてみないの?

すみません、こんなダメダメな記事引用してしまって。でも、こういう細かい点も潰していかないと、有効な議論はできません。

日刊ゲンダイデジタルが見つけてきたメーカーよりも、4倍速く検査ができる機器を販売している会社を見つけてきましたので、それで勘弁してください。

あと、一般向けには詳細技術情報は提供してませんが、タカラバイオ株式会社も全自動PCRシステムを製造しています。同社のプレスリリースをご覧ください。(一部、下記に掲出しました。)

タカラバイオ株式会社は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を、検体からウイルスRNAを精製する前処理工程を必要とせず、反応時間が1時間未満で、迅速、簡便に検出可能なPCRキット(製品名: SARS-CoV-2 Direct Detection RT-qPCR Kit、以下、本キット)を、本年5月1日より販売開始します。
 新型コロナウイルスのPCR検査では、鼻咽頭ぬぐい液などの検体から、市販のRNA精製キットを用いた、ウイルスRNAの精製を行う工程(約1時間)が必要です。本キットでは、独自技術により簡便な前処理操作のみで、この工程を省略することが出来ます。さらに、当社の高速PCR技術の採用により、PCR反応時間が大幅に短かくなり、トータルの検査時間が従来の方法に比べ半分以下の約1時間に短縮できます。(図)
 また、本キットは、PCR検査に必要な調製済みの全ての試薬(簡易抽出試薬、PCR酵素液、プライマー/プローブ、陽性コントロールなど)が含まれており、煩雑な準備作業が不要です。 前処理方法も、簡易抽出試薬を反応チューブに添加し、加熱するだけという非常に簡便な方法を採用しており、ウイルスも不活化されるため、検査現場の負担も軽減され、安定した結果を得ることが期待できます。 (中略)

当社では、世界的な SARS-CoV-2のPCR検査需要に応えるべく、月産20,000 キット(200万 反応分)の製造体制を整えています。 今後とも、当社技術の実用化を通じて、SARS-CoV-2感染症対策に貢献してまいります。

素晴らしい。もう販売開始しているし、つまり機器申請の承認も当然取れている筈だし、検査時間も縮小できるし、検査にあたっての安全性も増してます。なにより、検査に使うキットの、世界的な需要に応えられる供給体制を構築済みと宣言しています。私も、勤務先が遺伝子情報サービスの子会社を所有してなかったら、タカラバイオ株式会社の存在を(おそらく)一生知らなかっただろうと思いますが。

ただ、下記の2.で後述します通り、月産20,000キットでは来年のオリンピックに間に合わせるためには不十分です。

他にも、調べると自動PCR検査機を製造するメーカーは、他にもありそうです。

(2020年5月10日17:30追記)
Facebookにリンクをアップしたら、大学時代の同級生から、長崎大学とキャノンメディカルシステム株式会社(旧東芝メディカルシステム株式会社)の共同で、新型コロナウィルス迅速検出システムが開発され、既に稼働に入ったそうです。仕事早いなー

キャノンメディカルシステムのプレスリリースの日付を追うと、今年の2月25日に開発意向表明、3月19日に実用化研究開始宣言、3月26日に行政検査実施可能になったそうです。非常事態なのですから、厚労省もこれくらい頑張って頂きたいものですね。


2. 終息宣言発令に必要なPCR検査数

ここで、「もう新型コロナウィルスの危険性はわが国ではなくなった」という喜ばしき終息宣言は、何を根拠に行うべきか、を考えてみましょう。
本来は、政府が出口基準をちゃんと定めて国民にそれを提示すべきなのですが、いったんそれは置いておいて。
ニュージーランドのように、「感染者がゼロ人になった」からというのを一応基準としてみましょう。それは第二派、第三派の感染の波を考慮してませんし、終息してない地域・国との交流は引き続き断ち切るという前提となります。かつ、これだと、どこかに潜在的クラスターが存在して、それが顕在化したときに、対応できるかどうかが担保されていません。このためだけに病床を増やすのはコストがかかり過ぎですが、療養者待機用に借り上げているホテルには、引き続き相応の費用を払って、終息宣言後も現在の体制を維持する等の手当が必要でしょう。(民間対民間であれば、もっといい条件でいざという時の体制を確保するのが常識ですが)

PCR検査は、議論されている通り精度が低いので、あてになる基準ではないのですが、あてになる基準が他にないので、つい援用されがちです。もし、トランプ政権の側近が、トランプ大統領に対し、「日本も隣国の韓国並みに検査数を増やさせるべきだ」とでも進言し、トランプ大統領が合意したら大変なことになりますね。それが、米国が来年、オリンピックに選手団を安心して派遣するための基準にされる可能性があるからです。スポーツ選手は、肺炎になったら、回復しても選手生命はそれで終わりですから。新型コロナウィルスも含め、肺炎に罹患する可能性がある国には、渡航できません。
韓国のPCR検査は、実は全国民の1%しか実施してないそうですが、1%すら実施してない日本が、それに追いつくのは大変です。120万人分の検査を実施するとなると、上記のタカラバイオの製品では月間2万キットしか供給されないのですから、60か月=5年はかかります。
(一人分1回分=1キットと思ってますが、もし違ったらごめんなさい)

日本国内では、PCR検査は増やしても仕方ないとの議論で国民はほぼ説得されつつありますが、それが国際的合意でないと、実は何の意味もありません。日本では、引き続き医師の指示がないと検査できないルールにしていますが、オリンピックの開催に影響するとなったら、そんなの簡単に吹き飛びます。

もちろん解決策はあります。各国大使は、こういうときの日本の立場を確保するために赴任しています。指摘しているメディアが見当たりませんが、そんなの3か月前から工作を開始すべき話でした。
もう一つ考えられるのは、政府予算でタカラバイオ等に設備資金を投与し、生産ラインを5倍とか10倍とかに増やしてもらえば、来年のオリンピックに間に合います。もちろんタカラバイオに限らず、対応可能な他の企業も検討対象にすべきでしょう。マスク2枚配るより、有効な投資だと思います。

東京オリンピックを1年延期するのに、IOC国際オリンピック委員会は、そのための費用は500億円ほどかかり、日本が払ってね、としれっと言ってるそうですが、それをさらにもう1年延期することになったら、また500億円かかってしまいます。400億円くらいにまけてくれるかも知れませんが。でも来年IOC国際オリンピック委員会に払うくらいなら、今年、PCR検査体制の充実にその分使った方がはるかにましですよね。

3. 機器受け入れ側の問題点

昔、インドに支店が4つある某銀行でシステム開発に従事してたのですが、人員整理につながるからという理由で、業務システムの導入に対して現地労働組合の反発を食らってました。銀行側が折れる形でようやく合意がとれ、現地に出張したのですが、既に導入済みの支店から現地スタッフに合流してもらい、その人達からコンピューター化のスタッフにとっての利点を説明して説得してもらうという形で進め、決して日本からの「本部からわざわざ出張に来てやったぞ」的な上から目線の言動は絶対しないよう心掛けておりました。

日本の保健所に効率の良い機器を導入する場合も、それなりの配慮は必要でしょう。インドと同じ問題はないかも知れませんが、それなりの配慮と気配りが必要です。今の政府を見ていると、そうした点に全く配慮も気配りもなさそうなので、国民から見えてない所で問題が発生していそうな気がします。例えば、現在の手作業用のキットの在庫がひっ迫している保健所もあれば、倉庫に満杯な位準備して第二派、第三派にも対応可能にしている保健所もあるかも知れません。その意味で、導入は一律には済まないと思いますし、済ませてはいけないと思います。

4. 結論/Conclusion

まとめます。

4-A. 検査機を国内で新たに販売するためには機器申請が必要。かつ、承認してもらうのに、この非常時に2か月以上かかっている。
4-B. 保健所の現状が、検査キットの在庫保有状況までしっかり把握されていないので、自動検査機を導入するための行動計画を策定しようにも、必要な情報が取りまとめられていない。
4-C. 現在の保健所で実施されている検査実績が、保健所毎には開示されてないので、自動検査機導入により効果がどれくらいになるか、推定できない。
4-D. 真面目にPCR検査の数を増やすとして、自動検査機を導入するにしても、必要な数が揃うのがいつになるのか、各メーカーの量産能力はどれくらいなのか、推計する材料がない。
4-E. PCR検査を実施する数のゴールを、諸外国と合意していない。東京オリンピック開催に向けて、実際に体制を強化しないと実現できない数値を要求される可能性が高い。

安倍総理が主張しているPCR検査体制を強化するって、こうした点を押さえておかないと成功しませんよね。

In conclusion, there are 5 points to introduce an automated PCR tester into Japan;
i) Despite the fact that several manufacturer already produce the device, it is required to obtain a governmental approval before use.  A manufacturer applied it in this March, and even though such an emergency time as now, it is not yet approved for more than two months;
ii) In Japan, PCR testings are done at local health centers (LHC) and research institutions.  The current status of LHC is not reported in detail, such as how many testing kit are reserved in each LHC, so that it is difficult to plan to introduce the devices;
iii) The details of how many testing are done in each LHC has not been disclosed; thus, it made impossible to correctly measure the results of improvement beforehand;
iv) How many devices can be produced at each manufacturer is not yet disclosed, nor how many devices have been already produced and available in stock is not yet disclosed, either.  This makes it more difficult to precisely predict when the plan to introduce the devices into Japan; and
v)  The goal of numbers how much PCR testing should be done in this country has not yet agreed with the alliance countries.  In such a case, if, Trump Administration  requested that Japan should achieve the same number of goals as Korea has achieved, say, 1% of the entire population should be examined, Japan has to test 1.2 million people in total.  If we postpone Tokyo Olympic Games one more year, International Olympic Committee would request Japan to pay 50 billion yen more.  We should pay this 50 billion pay rather than to strengthen PCR testing.

5. 追記/Supplementary

下記の図は、山本まさの埼玉県議会議員がFacebookにアップしていたものですが、政府の補正予算に基づく埼玉県の補正予算案で、県議会で承認されたものです。これのどこにも、既存のPCR検査体制強化のための予算は含まれていません。新たに検査施設を建設するとはありますが、この金額だと検査機を多数並べる程にはなっていません。ですので、実際に現場レベルで体制強化するためには、再度補正予算を通す必要が生じます。

2020埼玉県補正予算

The above picture denotes the supplemental budget of Saitama Prefecture of this year approved by the local diet this month.  No where in this slide shows additional budget for PCR testing device purchase.  Therefore, another supplemental budget for such purpose needs to be prepared and approved by the government again.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?