見出し画像

荒らす忌むべき者

第1章       2077
北海道の朝は寒い
長年住んでいても寒いものは、寒いのだ
標高2077メートルの十勝岳から吹き下ろされる冷たい風に自分の頬が真っ赤になっているのがわかる
何故そんなに正確に十勝岳の標高を知っているのか?読者の皆さんは、不思議に思うだろう
その理由は、私の名前にあるのだ
私の名前、、、仁礼なな すなわち2077なのだ
全く冗談過ぎる名前を付ける親に呆れるばかりだ
まぁそれはともかく、少しばかりの自己紹介をさせてくださいな

名前、仁礼なな、、、あっそれはさっき言ったか、
年齢は、14歳 富良野中学の2年生
学校では、ちょっとした有名人
何故、有名なのか?それは、おいおい話すとして

さっきから気になってるんだけど、私の前方50メートルに知らない男の子がうつむき加減に歩いてる
こんな田舎だから、みんな顔馴染みでよそから来た人は、直ぐにわかっちゃうんだよ

「おーい!前の少年!」
「おーい!お前だよ!お前!」
「なんだよ、無視か?」、、、心の声
 次の瞬間、、、
「消えた?」突然私の視界から彼は消えた、、

第2章 謎の転校生
「転校生が来るってよー」
「大阪から転校して来たらしいぞ」
朝のホームルーム前の教室
転校生の話題で皆が盛り上がっていた。
私はと言うと、騒がしい皆んなの声と突然、目の前から消えた少年の姿が頭の中をグルグル回っていた。「私は、何を見たんだ?寝ぼけてのか?いやいや確かに彼は突然消えた、、、」
「はーい静かに!」大きな声と共に入って来たのは担任の山田先生だった。
そして、、、
「あいつだ!」突然、目の前から姿を消したあの少年!
「転校生を紹介する。神野 一人君だ!」
「神野君、自己紹介、自己紹介!」
神野という、あの少年は、明らかにクラスの男子の誰にも似ていなかった。そもそも、身長もクラスの男子より10センチ以上高く、着ている服も富良野では、見た事がない様な垢抜けた服を着ていた。
あの少年は、しばらく口を開かずクラスの全員を一人一人確認する様に見渡した。
 そしてボソッと「じんの かずと です。」と
だけつぶやいた。そうつぶやいたのだ!
 あっけに取られる皆んなを無視する様に皆んなに背を向ける黒板に「神野一人」と書いた。

第3章 空中浮遊なのか?そうなのか?
「神野の席は、あの一番後ろの席だ、分からない事があったら隣りの仁礼に聞いてくれ」
「仁礼!頼むぞ!」
「はーい」
「返事だけは良いな、、、まぁよろしくな」
あいつは、ニヤっと笑ってスタスタとこっちに向かって来た。私の前には、このクラスの札付きのワル山田が座っていた。きっとなんかやるぞ、、、やる、、間違いなくやる、、、私は期待に胸を膨らませた。自慢の貧乳、、、笑
次の瞬間、、彼は宙に浮いたのだ!えっ!?
山田の野郎が、バランスを崩して椅子から転げ落ちた。何が起きた?転校生を足にかけて転ばそうとした山田の足が宙を切ったのだ!
チラッと山田を見て転校生は、何もなかった様に私の隣の席に座った。
「えっ、、、えっ、、、何した?」
「おい!お、、、」私が転校生に話しかけようとした次の瞬間! 顔を真っ赤にした山田が、転校生に
飛びかかろうとした。
しかし、しかし、、、またしても山田は、転校生をつかまえる事が出来ず、そのまますっ転んだのだ!
消えた?一瞬お前消えただろ!
山田と私の目が合う、、、、
「えっ?えっ?なに?なに?」
 何故か輪唱する二人だった。
 
第4章  うそぶく神野一人
放課後、帰宅部の私は、アノ転校生が出て来るのを校門横の桜の木に隠れて待っていた。
なかなか、アイツは、姿を見せなかった。
「遅いなアイツ!アイツ絶対超能力使いだ!間違い無い!」思わず心の声が口に出ていた。その時、、、私の背後で声がした、、、
「古武術や!」アイツだった、、、
「脅かすなよ!忍者か?」
「忍者やない、古武術やて言うとるやろ!」
「えっ関西弁?関西人か?」
「そや、先生の話聞いとらんかったんか?大阪から
 転校して来たジンノくんって言うとったやろ」
そんな話は一言も出ていなかったので、なんだコイツはと思ったが、そこは、グッとこらえた。
「嘘!古武術?ってなんなの?
古武術で自分の姿を消す事が出来るはずないでしょう!」
「ええか?よーみてろよ」
そう言うと転校生 神野は、私の目の前でスクッと
立った。そして次の瞬間! 秒速で私の視界から消えたのだ!
「どや?瞬間芸や! 分かるか?」
「何が瞬間芸なのよ!そんなんじゃなかったわよ!今のも確かに凄かったけど、、、全然違った。」
「そうか、同じやど知らんけど、、、」
やっぱ怪しいな!興味湧いてきたぞ思わずニヤリとするわたしだった、、、
 
第5章  富良野中 サイキック研究所
「おまえなあ、女なのにもうちょっとお淑やかになれんのか?男みたいなやっちゃのぉ」
「おまえって?レディに失礼じゃない?」
「どこが?レディなんや?」
「どこから見てもレディでしょ!」
お互い帰宅部の二人は、いつしか帰りを一緒にするようになっていた。
「私は、帰宅部を装ってるけど、裏で秘密の部活動をしてるんよ」
「秘密の?なんやそれ?」
「富良野中 サイキック研究部!」
「サイキック?ってなんや?そもそも部員はおるんか?」
「サイキックって言うのはね、科学では説明することができない超常現象のこと!わかる?」
「で?部員は?」
「部員は、私とあんただよ」
「アホちゃうか?いつ俺が部員になったんや?」
「アホは、君だよ!こんな学校で一番かわいい
ななちゃんと一緒に部活動が出来る幸せが分からないのかなぁ?」
「どこが、一番かわいいんや?少なくてもお前よりかわいい奴、10人は、クラスにおったど」
「はぁ?うちのクラスの女子は私入れて8人だよ?
 さては?男も好きなんじゃ無いの?」
「ばれた?」
「アホか?」
 
第6章 事件!事件?
「仁礼!聞いたか?1組の緒方が、神隠しにあったって!」
 神野は、私の事をいつしか苗字で呼び捨てにするようになっていた。
「緒方?あの野球部のマネージャーの緒方?」
「そう、富良野中のNo.2 美人の緒方 彩花!」
「No.2 ?」
「だってお前が一番なんだろ?」
「おだてても何も出ないよ!」
私は、顔が赤くなっているのが分かったので
顔を手で隠して話を変えた、、、
「警察とかもう来てる?」
「多分、もう来てるんちゃうか?事が事だけに水面下で隠密行動やろ。知らんけど、、、」
「なにそれ?知らんけどって?」
「いやいや、実はなすごい噂を聞いたんやけど、、
教えて欲しいか?」
「もったいぶってないで教えてよ!本当は聞いてもらいたくてしょうがないんでしょう!」
「まぁ他でもない仁礼の頼みだから教えたる!実は緒方は、富良野中のオカルト研究部ちゅう、怪しいクラブ活動をしとったらしいんや」
「オカルト研究部?それは、聞き捨てならないわね!うちとガチンコ勝負じゃない?」
「オカルトとサイキックじゃ全然ちゃうやろ?」
「そう?なんとなく怪しいとかは似てるでしょう。?人は皆んな怪しい事が好きなのよ!」
「そんなもんか?」
「知らんけど、、、でしょ?」
「真似すんな!」
そして、私たちはオカルト研究部の調査を始める事にした。
第7章 調査開始
オカルト研究部、オカルト、オカルト私の頭の中は、オカルト研究部の事でいっぱいだった。
一体、何をする部なんだろう?私は、ぼーっとそんな事を考えながら窓の外を見ていた。
「何を考えてんねん?オカルト研究部は、オカルトの事を研究する部やろうが!」
「は?神野は私の考えてる事がわかるの?」
「単純な仁礼の頭の中なんか誰でも分かるわ!」
コイツは、やっぱりサイキッカーだ!思った通りだわ、、、
「アホ!超能力ちゃうわ、山勘、ヤマカン!」
「私の頭の中覗かないでよ!全く!じゃその山勘って言う奴で緒方が今、どこにいるか?探してみてよ!」
「そうやな、わかった!ほんでも、その前にやらなあかん事があんのや」
「何?やらないといけない事って?」
「オカルト研究部の部長を探す事や!」
「部長?緒方が部長じゃないの?」
「ちゃうちゃう、部長はこの学校にはおらんのや」
「え?神野はその部長を知ってるの?」
「知ってる」
これまでに見たことがないような真剣な顔でそう呟く神野を見て私は身震いがした。何かとんでもない事が起こるに違いないと私の直感が私に語りかけていた。
第8章 神野の正体
その日、私は神野に呼び出された、駅前の商店街の花園っていう名前の喫茶店だった。なんでも良いけど「花園」って昭和かよ?そう思いながら花園に着いた私は、喫茶「花園」の一枚ガラスのドアを開けた、お約束のドアチャイムがキンコーンと鳴る、ガランとした喫茶店の奥の席に神野は席を取っていた。
「仁礼!こっち!こっち!」
大きな声で私を呼ぶ神野!
おいおい、大きな声で私の名前を呼ばないでよ!神野のバカさ加減に呆れながら神野の前に座る。
「で?何話って?学校で言えない事なの?」
私の質問に神野は、無言で学生カバンの中から一冊のノートを取り出した。
「これや、秘密のノートや!仁礼だけに見せたるわ」
そのノートは、ボロボロになった、ジャポニカ学習帳だった?
「何?夏休みの宿題でも見せてくれるつもりなの?」
「アホか?これは偽装ちゅう奴や!」
そういうと、神野はおもむろにノートを開いた。
そこには、ぎっしりと見たことのない文字や記号が書かれていた。唯一理解できたのは、「荒らす忌むべき者」と書かれたクリップ留めされた写真だけだった。
「神野?これはどこの言葉?英語じゃないよね?
読めないんですけど!それにこの写真は誰?」
「読めなくて当然や!これは人間の言葉じゃないんやから!」
「人間の言葉じゃない?あんた自分で何を言ってるのかわかってるの!」

第9章  神の言葉
「ええか、これから言うことは、絶対他言無用やで
この言葉は、神様の言葉や!だから人間では読めないんや!」
「絶対嘘や!こんなミミズが這ったような文字が、神様の文字の訳ないよ!」
「あんな、真面目な話、俺の親父は大阪の大学で神学を教えとったんや、でもなこの神の言葉を書いた古文書研究に没頭しずぎてもうて大学を追われてもうたんや」
「クビになったってこと?」
「そう、まともに神学を教えられんようになってもうたんや」
「今はもう大丈夫なの?」
「いや、行方不明になってもうた、家を飛び出したんや、、、」
「家出?」
「いや、俺は今回の事件と同じ神隠しやと思とるんや」
「なにを根拠にそう思うわけ?」
「親父の日記が残ってたんや、親父は自分の身に危険が迫ってきている事を感じてたんやと思う。」
「日記に何がかいてあったの?」
「荒らす忌むべき者、、、、」
「何それ?」
「悪魔やほんまもんの悪魔や!」
「じゃお父さんは、悪魔にさらわれた?ってことなの?」
「そうや、でも実際には、悪魔は、この地上世界には、手を下せないから、悪魔は、悪魔に魂を売った人間を操るんや!」
「悪魔に操られている人間?がいるということ?」
「そうや、そいつが、この富良野におるんや!」
「東雲亜門、、こいつや!」
そこに写っているのは、まだ小学生にしか見えない
子供だった。

第10章
「何?子供じゃないの!?」
「そうや、小学校6年生、富良野小学校に半年前に転校して来たんや。俺の親父の日記には、こいつの父親との神学論争について何百ページも書かれていた。そして最後のページには、息子のこの亜門が、本当の荒らす忌むべき者に違いないと書かれていたんや!それを書いた翌日に俺の親父はいなくなった、、、」
「警察には届けたんでしょ?」
「いや、親父のノートには、何があっても警察には、相談するなと書かれてたんや」
「えっ?何それ?お父さんは、警察を信用してなかったの?」
「いや、そうやのうて、警察に相談しても解決する様なレベルの話や無い事を見にしみて感じていたんやと思う、、、これは、人間の世界の話やのうて、目に見えない世界の話や、、、」
「で?」
「でって?何や?」
「だから、神野はこれから何をしようとしてるの?」
「悪魔祓いや、、、」
「は?神野が?」
「そうや、俺がや!」
「そんなの、どうやってやるのよ?」
「仁礼は、バチカンってしってるか?」
「知ってるよ、ローマ法王がいるところでしょ」
「そうや、俺はバチカンの悪魔祓いの養成所を卒業しとるんや!ほんまもんのエクソシストなんや!」
「エクソシスト?」
何となく、外国の映画の題名になりそうな( 実際にそんな題名の映画があった事は、後で知るのだが、、、) その時には、まさかあんな事件にまで、発展するとは想像すらできなかった。
 
第11章 東雲亜門
東雲亜門という少年は、富良野のキリスト教教会が母体となっていた親のいない子供たちを預かる施設に住んでいた。私たちは、まず、その施設の調査に乗り出したのだ。
「神野さ、よく理解できないんだけど、東雲亜門は、悪魔に魂を売ったとか言ってなかった?」
「そうだよ」神野が汗を拭いながら何を今更?という顔をして答える。富良野にも夏の気配が近づいて来ていて、暑い日が続いていた。
「何故?教会なの?」
「荒らす忌むべき者は、教会から現れるって親父のノートに書いてあった。そして、神様に従っていた人間を悪魔は選び、神様を裏切らせるのに喜びを感じているとも書いてあった。」
そうこうしてるうちに、私たちは富良野教会に着いた。
「で?どうするのよ?ここでずっと教会を見てるつもり?」私たちは、富良野教会から道路を挟んで、反対側にある木の影からもう30分以上も、ただ教会に出入りする人を観察していた。
その時だった。突然彼が現れたのは!
最初に気がついたのは、神野だった。
「静かに、奴が後ろから近づいて来る、、、後ろを見ないように、、」その声は、少し震えていた。
彼の額から一筋の汗が落ちる、、、
気がつくと、東雲亜門が、私たちの前に、、、
「な、、、何故?」思わず声が出た。
第12章 悪魔の誘惑
「僕を探してた?」
東雲亜門の声は、とても小学生とは思えないほど冷淡な声で、二人は背筋が寒くなった。
「私たちは、友達の緒方さんが、この教会に入るのを見たっていう話を聞いて緒方さんのお母さんさんから頼まれて来ただけなの、、、君は誰?」私はとっさに作り話をした。
「緒方のお姉さんなら、僕はよく知ってるよ、、、東京に行くって言ってた。うん、きっと東京にいると思う、、」
「そんな事あるわけないでしょ!緒方のお母さんが自分の娘の行方を探してるんだから!」
「お姉さん、興奮しないでよ、、、僕はウソをついてないよ」
「何よ、この子!」私は子供相手についカッとなって大きな声を出してしまった。
「仁礼、やめとけ」私は、神野の声で我に返った。
「とりあえず、ここは帰ろう」
神野は、私の手を取りそう言った。その時、東雲亜門は、私の頭の中に「お姉さん、またね、、、」と囁くのを感じた。私は背筋が凍りつくのを感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?