尊厳死って何? 第3章の4

 先日、烏丸四条に映画を見に行った。何を見たいかと決めていたわけではない。土曜日の昼下がり、家内とランチをとってから、映画でも見ようかと入った。そこで上映されていたのは、「92歳のパリジェンヌ」という作品であった。映画館の案内ポスターに、2016年のフランス映画で観客賞を受賞とある。内容もフランス元首相の母の実話から生まれた感動的な作品だと紹介されている。その時、ストーリーは知らなかった。でも、感動的な作品であり、賞も取っている作品ならきっと面白いに違いない。これは是非見ておきたいと、期待の念を抱いて入館した。
 あらすじを少し紹介しよう。92歳になったパリジェンヌ。彼女は1人生活をアパートでしている。これまではインテリゲンチャとして社会の中で役割も果たしてきた。それが年をとるにつれ、日々の生活の中での自分の生活機能の衰えを感じ、老いていく自分を憂いた。例えば、車の運転が思うようにならないという。過去の栄光に比した、今の姿に屈辱感を覚え、そうした自分の存在に終焉の時を感じていた。朽ちた自己像を忌み、美しい死を選択しようとしたのである。
 それは、その終焉の日を明確に決めることであり、自殺する日時を決めたのである。そして、彼女はその死の選択、すなわち尊厳死を、家族に理解させようとした。娘や息子、孫たちの集まった食事会で、いきなり彼女は自分の強い決意を告白する。家族が認めるはずもない。しかし、彼女はあくまでこの決意を断行しようと粘るのである。
 こうした中で、孫や娘は、肉親を失う悲しい気持ちと彼女の意思を尊重したいという気持ちの両価性に悩みつつ、徐々に彼女の強い意思の受け入れに動いていく。家族の中であくまで受け入れられないのは息子である。母親が敢えて死を選択していることに悲しみを超えた怒りを示す。そして、彼女の周りが徐々に本人の死を受け入れていく姿に憤りを感じ、断固阻止しようと踏ん張るが、空振りになっていく。こうした息子の姿が理解なき惨めな役として描かれている。
 彼女は、自分の終焉の時に向けて、身辺整理を始める。それは、自分の人生にとって意味ある、思い出深き「もの」をひとつずつ、それに関連ある人に向けて送ることである。「もの」とは、手紙であり、小物であり、思い出の服などすべてである。送られてくる側にとっては、突然で、意外なことかもしれない。「もの」の整理をすべて終えて、彼女の命に自ら終止符を打った。娘は、こうした彼女に対して、その死の決行日をしっかりと見守るのである。最終的に、最大の理解者は娘であると。この映画を見て、みなさんはどんな思いを描かれるだろうか。

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