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NYの「Blue Note」のTシャツの物語

僕には宝物があります。それは一枚のTシャツです。他人から見たら何の変哲もない白地に青の横文字がプリントされたTシャツです。でもね、「これはいまから26年前にジャズを聴きにNYに行ったときに、Blue Noteで手に入れたものです」といえばちょっと興味を抱いてくれる人がいます。

さらに「その時に出演していたのは、ジャズヴィブラフォンの名プレイヤー、ミルト・ジャクソン(70歳過ぎだったけどすごかった)です。終了後に楽屋に行ってTシャツにサインをしてもらいました。しかも僕の名前入り」といえば、へえっという顔つきに変わり、顔を近づけます。

商品と消費者の間に特別な関係を作り出す

価格は忘れましたが、NYの名門ジャズクラブ「Blue Note」のお土産として売られていた平凡なTシャツです。でも、僕が語っているのは、ただのTシャツではなく、「ミルト・ジャクソン」のサイン入りの世界で一枚だけのTシャツを手に入れた「体験の物語」です。

暮らしに必要なものはひと通り揃っています。消費が成熟しているいま、どんなにスペックがよくても、機能が優れていても消費者との間に特別関係を作り出さなければ消費は発生しません。特別な関係を作り出すにはどうしたらいいのか、いまさらながらですが「体験に基づく物語」だと思うのです。

物語でよく出る二つの意見、う〜ん、ちょっと違うんだな

Tシャツの話しに戻ると、「でもそれってNYのBlue Noteだから成り立つ話でしょ、自分の商売やビジネスには物語なんてないよ。ましてや特別なサインや有名人のお墨付きもないしなあ」。う〜ん、こう言う声を聞くたびに思うのは、そういう見方をしていないだけということ。

もう一つよく出るのが「よくスーパーで見かける◯◯◯さんがつくったキャベツのみたいなやつね」、う〜ん、ちょっと違う。固有名称をつければいいってもんじゃないんです。知りたいのは「◯◯◯さんはどんな人で、どんな暮らしをしていて、どんな趣味があるのか」といったリアルな物語です。

「モノ」ではなく、「体験に基づくモノ“語り”」を売る

「いいものならば売れるはず」、わからないではないのですが、いいいものと思っているのは売り手だけかもしれません。もちろん基本的な価値がないとスタートラインにつけないけど、価値の評価はさまざまです。「体験を軸にした物語で物をくるんであげる」こと、ここが胆だと思うのです。

もう一つ大事なことがあります。ミルト・ジャクソンのサイン入りのTシャツですが、かみさんにゴミとして捨てられそうになりました。文句をいうと「だって汚いじゃない」の一言。「無礼者(とはいわなかったけど)」、物語って伝わる相手を選ばなければ、ただの戯言としか思われません。


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