クライマックス


車内で本は
佳境に差し掛かっていた
いつから前に立っていたのか
読みさしの本の向こう
若そうな女性の脚もと
見上げれば美女だった
涼しく外の景色など眺めて
窓からの風をうけている
本に戻って読み進めると
背景のスカートの裾が
やさしくなぶられ
当人の気にかけない高さまで
舞い上がり
午後の光線に
美しくも艶かしい
シルエットを創り出す
ローカル線の
天井に取り付けられた
扇風機の風
ヘッドがこちらへ向くたび
床から風を撥ねかえし
目の前へスカートを
悪戯に持ち上げてくれる
何行か読むと
ある高さへふうわり
読み進めては
微妙な位置までふうわり
ゆるやかに旋回する扇風機
たどり着かない僕の
クライマックス

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