見出し画像

【不機嫌日記】膨れたページ

📕糸井重里氏著『小さいことばを歌う場所』169ページ
”一冊しか本を持っていなかったら、さぞかしいい勉強するだろうねぇ、俺らも”

📗読書感想文は昔から嫌いだった。どう読んだっていいと思うのだ。フランスの哲学者、ロラン・バルトは「作者の死」の中で、ある物語の作者はその物語の解釈を決める最高権威(神)ではない、とする考えを発表した。読者の手にわたったときから本は読者のもの。作者本人が意図しなかった内容に面白味を感じることもある。

📘翻訳の、なぜそこにこの単語を使ったのか、なぜこれじゃなかったのか、時代の背景、土地の文化・歴史、確かめながら進む作業が好きだ。その苦行を1/3ほど続けているとふっとストーリーの扉が開く瞬間がある。そうなると、主人公がこちらへやってきて、私の肩を抱きわかる言葉で喋りだすのだ。

📙歌は聴く者のために歌うだけじゃない。喉を震わす心地よさはシンガーに与えられた最高のご褒美だ。物を書く者も同じ。書くことは、作品を読んでもらう喜びの前に、孤独な脳が紡いだストーリーを吐き出し文字にして形を与える心地よさと責任を全うする喜びがある。そのご褒美のためなら寝食を忘れてしまうことだってある。

📕数学者にとって、数は発明ではなく発見だという。人智の計り知れない力をもつ天然の産物だからだ。小説もまた天然の産物だと思わされることがたびたびある。そんな本を読んだとき、神の存在を感じる。

📗本のページが膨れていると、よく読んだなと自分を褒めたくなる。ドッグイヤーがたくさんあるとお、たくさん学んだなとおもう。付箋や棒線がページを汚しているとまだまだ世界は知らないことばかりだとおもう。歌う人、書く人、計算する人、訳す人、それぞれ自分のための楽しみ方を知っている。一冊だけの本、言葉が染みた本の、楽しみ方はその人だけのもの。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?