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【不機嫌日記】秋庭の巻

去年の秋は、悲惨だった。

9月頭、夏の終わりに出発三日前にアメリカ行きをきめESTAのなんたるかも知らず、許可が下りるかどうか、最悪フライトキャンセル、リファンドなしを覚悟して待っていたところ、案外すんなり取得できた。往復の極寒の機内にはとことん閉口したけれど、あのドキドキとブルブルの代償は、一度きりで終わらせないことだと心に決めた。

その興奮と高揚のあと、秋が来て本格的に寒くなると、人生の終わり『斜陽』って言葉しか頭に浮かばないくらい落ち込んだ。秋のせいだ。そういう季節だとわかっているのに、そうわかってなんとかなるほど楽じゃない。不調は責める手を緩めない。

今年も秋が来た。

みなさん、寄る年波にはお気をつけください。

年波は、気候や陽気の顔してやってきます。そして、いつもなら難なく乗り越えてきた気候の変化を巨石に化かすのです。そして不活動に傾かせ、気づけば循環不足の体になりまする。

曇りのち晴れ。

これは陽気病みにはかなり辛い。低気圧で広がった脳血管は外が曇りでもなかなか調子はいいのですが、天気に変化の兆しがある時は辛いです。広がった血管の血流量が減少すると、低糖状態みたいな感じにクラクラします。パンプアップが必要です。

それで今回は庭掃除をしました。前回はデニッシュ食パンを作ったんです。(不機嫌日記をご参照あれ)

十一月は、夏が終わって草木の盛りは終わりますが、終わりじゃないです。枯れるのも、花瓶も花と違って、次の準備だったりします。日光はまだ十分あって、お日様が当たればまだ暖かい今の時期は花を咲かさず、葉色を暗色にしてじっと夏の暑さに耐えていた花たちの開花の季節でもありました。全部が終わりじゃないんです。

ドウダンツヅジの生垣に絡みついた、黄色く色づいた山芋の蔓を引っ張ると、ゴロゴロと音を立ててムカゴが落ちました。これ、ご飯と炊き込むと美味しいんです。

庭のグリーンのリズムを変えるために植えたレモングラスも、そろそろ限界のようです。根っこを残して地面の近くで収穫します。

梅の木の根元に、秋収穫を目指して植えたインカノメザメはあと半月待ちます。それまでに空豆のタネを巻くため、フキだらけになった腐葉土の畑を耕しました。生垣に植えた山芋が、送られてきたときに包まれていたモミも、そこに撒いておいたのですが半年もするとすっかり土になっていました。

鍬は、そこに生えている根を断ち切るイメージで使うとよろしいようで、遠慮なく打ち下ろしていくと、それまでは不可能に思われた雑草だらけの地面から黒々とした土がしぶきのように湧き上がり、気分は『破壊』から『耕作』へとシフトチェンジします。

頭痛持ちと、ナイーブな方には乗馬と畑仕事が一番と、常々チャンスが会ったらお勧めしたいと思っているのですが、そういうことなんです。

つまり、体を動かします。

そして、普段なら、静かにしろ、後先考えろ、計画的にやるんだ、人の気持ちを考えろ、とあれやこれや、他人に言われる前に自明の、予想できる自制心に指示されて、当たり障りのないポイントを責めがちですが、

畑仕事には、いったん破壊が絡むんです。

抜くとか

切るとか、

掘るとか。

もう力づくで、汗かきながら、普段ならいけないって言われることをするんです。芋ずるは引っ張るとずるずる連なって出てきますし、ブドウのツルもそうです。この時期、思い切りバッサリ、それこそ、あっというほど思い切って切るんです。すると、来年、しっかりした蔓が出ます。

つちは、植える作物によって、深くまで耕さなければなりません。そして掘ってみると、雑多な求めていな植物で表面が見えないほどなのは上のほんの一部だと気づくのです。

強くならないと。強く一歩踏み出して、欲しい将来(春)のために今は心を鬼にして、バッサバッサやります。

徹底的にやります。そうしているうちに、縮こまっていた血管を広げて血が廻り脳の、ちょうど前頭葉と耳の脇辺りに酸素がもたらされ、思考が前向きになりました。

フキと雑草だらけだった空豆の畑は、フキたちが枯れるまで放っておくことにしました。それをまた黒い袋に入れてお日様の当たる場所に置いておけばチューリップの咲く頃にはもっと土と馴染むようになるでしょう。

抜いたフキを集めていると、もうすぐいなくなる葉っぱたちを見つけました。レモンバームです。毎年、家の北側に鉢を移動させるのですが、いつの間にか西側の畑に自生していました。それを根元から根っこを残してチョキン。見つけた端から切っていったら、ザルいっぱいになりました。

9月に収穫したしそは刻んで凍らせましたから、同じシソ科のレモンバームも、ジップロックでそのまま冷凍します。秋は、庭仕事がいっぱい。今週は、あとレモングラスを冷凍します。先月ジェノベーゼを作ってもう抜くだけのはずだったバジルですが、また育ちましたから二度目のソースを作りましょう。

掘り上げていたチューリップの球根をまた植え込んで、蜜柑の木を切って日当たりがよくなった場所にラベンダーを移植しなければ。

ほら、もう不調だって、不機嫌だって、腐っている暇はなかった。微力でも何かしないと、腐ったり枯れたりするものが待っていました。自分が風を起こすなんてできないけど、自分がいないといつもじゃない風景がきっとあるんだと思います。

不機嫌だったけど、うまいレモンバームのハーブティーは飲めました。

ま、それで、いいか。

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