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【不機嫌日記】小林製薬とデニッシュの巻

#不機嫌日記

近ごろあの小林製薬が秀逸な薬の販売を始めた。

テイラック

低気圧頭痛のための鎮痛剤だ。

やっとついてきたか、と一人ほくそ笑む。

思えば、子供の頃から母の頭痛に付き合わされてきた。雨で頭痛、晴れでも頭痛。朝に頭痛、夜に頭痛。小学生の頃から高橋薬局に走る毎日。頭痛は全ての免罪符で、料理が店屋ものになったり、薬屋の帰りに鉄板焼き屋に寄ったり、おかげで舌だけは肥えた。

頭痛に加え、眩しいのや痛いの、うるさいのにも弱い。弱点を並べるとそれはあれ、ADHDなどの学習障害の症例に似ている。口うるさい母だったが体の誤作動や敏感すぎる脳が原因だから、本人は実にかわいそうだった。なのかもしれないと我が身に映して理解する日々。母が亡くなりやれやれと思っていたら、私もかなりの頭痛持ちだ。つまり遺伝していた。低気圧頭痛もそれの一つだった。

痛さは偏頭痛ほどじゃないが、目が回ること、体の重心をどこに置いてきたかと思うほどの不調で、諦めがついたこの歳でやっと仕方ないと思えるが、もう少し若かったら仕事もまともにできず困っただろう。

それが、この薬の登場で少し緩和されそうだ。以前から奇抜なネーミングと、痒いところに手が届く的な薬の発売には感心していたから、早速ネットで購入して服用してみた。漢方が主体のようなので安心と共に、自分でやっていた自己療法も一理あったことを確認した。

今はこうして原因別に頭痛や不調に効くものがあるけれど、昔はそんなんじゃなかった。歌舞伎の助六は紫の鉢巻きで頭痛対策をしていたし、梅干しをこめかみに貼り付けていたおばあさんもいた。偏頭痛は時に視覚にも悪さをして、視野を四方からわやわやと炎のように揺らす。それを餌に何人の文豪が名作を書いただろう。

かくいう私の母も、相当な目端のきく人間だった。先読みというか、予言にも似た洞察力をもち次に何が起きるか言い当てる。後年になってそれは、かなりの心配性と情報力、そして一度聞いたことを忘れない記憶力と、世情にもそれなりの物理が働くのかと思わせる確定的な予想によって言い当てているのだとわかった。情報は、低気圧頭痛を病む敏感な脳が捉えて逃さなかった物をフル活用していた様子。

体の不具合が、生きている上で必ずしも不具合かと言うと、そうじゃないかもしれなかった。現に、母の頭痛を最大に遺伝している兄は相当な知性派だ。頭脳で人生の荒波を乗り越えてきた。これまで何千回、頭痛を経験してきただろう。

そう考えると、この不器用な躰に住んでうん十年、遅いと言えば遅いが、せめて残りのうん十年は頭痛の恩恵にあやかりたいとおもう。

前述のテイラックを服用し私の頭痛に効いた。つまり、私の頭痛は体の水分量が関係しているということだった。つまり高尚な心配事や、明晰な頭脳を使いすぎたために起きたトラブルではないということだ。それなら、助六や文豪芥川氏を真似て、深窓に引っ込み厭世的に世の中を嘆く必要もないわけだった。

それで、デニッシュを焼いた。

食パン用の型がなかったから、パウンドケーキの型をアルミフォイルをぐるぐる巻きにした。それで十分代用がきいたからこの勝負は勝ち。

庭掃除にしても、パン作りにしても、体を動かすと気持ち頭痛は楽になる。

不機嫌になったら、日記を書こう。

『不機嫌日記』

絶不調な一日が、せめてクリエィティブであるように。


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