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[小説]水族館オリジン

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わたしは日本の海べりの小さな町にすんでいる図書館員。一緒に住んでいる彼氏は岬の水族館につとめている。ない音を拾う耳と見えないものを敏感に感じてしまう感覚が日々わたしをなやませるけ…
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#海岸

【小説】水族館オリジン 1

 釣った魚にえさはやらない、って言葉があるけれど、釣ったお魚を生かしておくのって、すごく大変らしいです。水質管理はもちろん、水流や光の当たりかた、温度、魚ごとに生態や生育環境が違うので、生まれた環境にして生かしてやることはとても難しい。崇くんがいうのだから本当です。  私は水族館のまちに住んでいます。湾に沿った海岸のはずれにポツンと立っています。何年か前の市町村合併の補助金で建てられた水族館に、崇くんは呼ばれて来ました。  小さいですが、山を二つ越えたところには県で二番目

【小説】水族館オリジン 7-I

chapter VII: 翁撫村① 翁撫(オーブ)という名前、珍しいでしょ? 小学校の総合の時間で村の歴史を勉強しました。そのときポルトガル語のオーヴォからきたのだとならいました。 オーヴォは楕円、つまり卵のことです。でも、なぜ何百年も前からポルトガル語でよばれていたのか、それはわかりません。少し飛び出した村の西端の半島にむかしむかしポルトガルからの船が来て、そんな名前をこの土地につけたのかもしれません。昔から『おうぶ』と呼んでいるところに漢字をあてたみたいです。おうぶなら

【小説】水族館オリジン 10

chapter X: 小さなお客様 図書館は万能だと思うことがあります。 静かだし、本のための室温と湿度が私達にも快適だし、なにより本がたくさんあります。音楽をきけるし映画もみられる。新聞や雑誌もあってここにいれば何でも知ることができます。どこに行かなくてもたくさんの経験ができます。 中学生のとき学校に行かずに図書館で義務教育を終えられないかと真剣に考えたことがありました。思春期によくあることですけれど。私の場合は、他人とよりも私自身の中が忙しすぎて、ただただ一人の世界に閉