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[小説]水族館オリジン

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わたしは日本の海べりの小さな町にすんでいる図書館員。一緒に住んでいる彼氏は岬の水族館につとめている。ない音を拾う耳と見えないものを敏感に感じてしまう感覚が日々わたしをなやませるけ…
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#シリーズ

【小説】水族館オリジン 1

 釣った魚にえさはやらない、って言葉があるけれど、釣ったお魚を生かしておくのって、すごく大変らしいです。水質管理はもちろん、水流や光の当たりかた、温度、魚ごとに生態や生育環境が違うので、生まれた環境にして生かしてやることはとても難しい。崇くんがいうのだから本当です。  私は水族館のまちに住んでいます。湾に沿った海岸のはずれにポツンと立っています。何年か前の市町村合併の補助金で建てられた水族館に、崇くんは呼ばれて来ました。  小さいですが、山を二つ越えたところには県で二番目

【小説】水族館オリジン 6

chapter VI: 村のお地蔵さん 「お地蔵さんて呼んだらしつれいかしら」 ときどき崇くんは突然こんなふうに女ことばで質問します。 なんのこと? 「いやね、水族館のパートの坂口さんとこ、おじいちゃんいるでしょ、知ってる?」 もちろん知っています。私が高校生のころからずっと寝たきりです。寝たきりといってもどこか具合が悪いというのではなく、単純にお歳なのです。もうハンドレットをゆうに過ぎていらっしゃる。 百をすぎて有余年。 村の最長老でいらして、村の要。 集落には要