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[小説]水族館オリジン

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わたしは日本の海べりの小さな町にすんでいる図書館員。一緒に住んでいる彼氏は岬の水族館につとめている。ない音を拾う耳と見えないものを敏感に感じてしまう感覚が日々わたしをなやませるけ…
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#霊感

【小説】水族館オリジン 1

 釣った魚にえさはやらない、って言葉があるけれど、釣ったお魚を生かしておくのって、すごく大変らしいです。水質管理はもちろん、水流や光の当たりかた、温度、魚ごとに生態や生育環境が違うので、生まれた環境にして生かしてやることはとても難しい。崇くんがいうのだから本当です。  私は水族館のまちに住んでいます。湾に沿った海岸のはずれにポツンと立っています。何年か前の市町村合併の補助金で建てられた水族館に、崇くんは呼ばれて来ました。  小さいですが、山を二つ越えたところには県で二番目

【小説】水族館オリジン 4

chapter IV: 町に出れば 崇くんがお休みのときは、二人で図書館の町まで出かけます。この時は崇くんの軽自動車に乗ってでかけました。動物学者ほどアクティブな生き物はいないとは崇くんの弁です。いつも動物を探し、動物の急にかけつけ動物に人生を捧ぐ、のだそうです。動物の病気は待ってはくれない、世の中はインディジョーンズのような考古学者をアクティブリサーチャーと思っているけれどとんでもない、遺物はもはや時をいそがない・・・そうです。すごくかっこよく聞こえますが、崇くんは動物じ

【小説】水族館オリジン 7-III

chapter VII: 翁撫村 ③ 過去の出来事は、よほどのことがない限り思い出したり、あのときはどうだったのかと心を悩ましたりしないものです。 でも翁撫村の名前の由来を崇くんに話したら、男の子のその後が気になって仕方なくなりました。お正月休みが近いからでしょうか。 一年の行事は仏様と共にありますから。 わたしは、崇くんと二人、一年のお礼をいいにご先祖様の眠っている場所に行くことにしました。いつもなら大晦日に行くんですけどね。そのまえにお掃除もしてさっぱりしていただきまし

【小説】水族館オリジン 11

chapter XI : キングヘリング フランスからのお客様をお泊めしました。大きな体に日に焼けたやさしいお顔。デイビッドさんは西の海で海の色の研究をしています。電波を発信する大きな機械を海流にのせて流します。電波は人工衛星がキャッチします。海の色の研究だそうです。宇宙から見た海の色、その時の海の中の様子を調査するのです。例えば、春は海水は黄緑色を帯びます。黄緑の海の中は植物性プランクトンが繁殖しているのだそうです。なんとも詩的な研究じゃぁありませんか? 電波塔にのせた発