何清漣氏 ★「古い世界をぶっこわせ」――米国の「文革」が進行中 2020年6月13日


 ★中国と米国の「文革」

 中国人は長い間、 文化大革命の再来を恐れていたが、 まさかアメリカで「文革」が生まれ変わるとは誰も思いませんでした。

 でも、 中国の左翼による大惨劇を経験し、 米国のますます過激になる左翼文化を理解できる中国の知識人として、 私は、 オバマ前大統領時代に、 米国左翼のDNAが、 中国の文革に大変似ていることには、 前から気がついていました。

 例えば、 歴史の記憶を再構築し、 歴史的記念物をぶちこわし、 ジェファーソンとリー将軍の歴史的地位をアイデンティティの基準(例えば奴隷所有)によって書き換えるといったことです。 これは中国の文革で「破四旧」(1966年の旧思想、 旧文化、 旧風俗、 旧習慣を弾圧する運動)や歴史的遺物の破壊ということと全く同じです。

 中国の文革を知る数少ない人々は、 これを「米国の文革」と呼んでいます。 興味があれば「アメリカ文化大革命運動報告書」()を読んでみるといいでしょう。 そこには米国の主流メディアの報道しない、 一般には知られていない米国の文革の”偉業”の数々が記されています。

 バーニー・サンダース上院議員が2度、 大統領選挙候補として予備選に出馬した最大の効果は、 共産主義(社会主義)から、 汚名を拭い去ったことです。 ですから、 今年5月25日のフロイド事件抗議が怒ってい以来、 これまでマイナーイベントだった「文革」の様相は、 大変刺激的なシーンとなりました。

 米国人はその暴走を心配し、 中国人は仰天しました。 しかし、 私は数年前に、 米国政治は必然的にこの日を迎えるだろうと書いておきました。
 グローバリゼーションの観点から見てみると、 ジョン・フォスター•ダレス元国務長官(アイゼンハワー大統領時代)が「社会主義国の平和的な発展を望む」と発言し、 以来、 ソ連、 東欧の革命以来、 ビロード革命、 カラー革命は、 欧米での社会主義思想の復活となり、 程度は様々ですが、 各国で左派が復活しました。 これ自体、 膨大な研究を要するテーマでありその教訓は、 大変重いものがあります。

 私は10歳の頃から中国文化大革命を経験しており、 個人的、 何度も家を荒らされ、 自分の目で、 「破四旧」、 吊るし上げ、 デモ、 武闘、 集団虐殺を見てきましたので、 米中両国に共通する「文革」的DNAを比較研究する必要性があると感じています。

 中国や世界の学者は、 どなたも文革のような広範な大災難は、 中国でしか起こらないと思っています。 でも、 私は米・中両国の文革の中から、 共通したDNAを見出すのです。 共通の祖先はマルクス主義の暴力革命理論で、 旧世界(資本主義)を打倒し、 新天地をするというものです。 その違いといえば、 中国の文革は全国最高指導者の毛沢東が権力を利用して、 上から下に起こさせたものでしたが、 米国の文革は、 長年、 教育によって養成された国民が自主的に起こしたもので、 二大政党の一つである民主党が政権を取っている州が協力していることです。

 ★既成の法秩序の解体

 ここでは、 まず先に、 プロレタリアートが旧来の国家装置を解体しなければならないという古典的なマルクス論を紹介する必要があります。 マルクス主義(レーニン主義)の解釈によれば、 国家とは、 ある階級が他の階級を支配するための道具です。

 その意味するところは、 支配者層が一連の法律、 制度、 執行機関を確立しなければならず、 そうすることによってのみ被支配階級の支配が実現するのである、 です。

  軍隊、 警察、 裁判所、 刑務所、 その他の機関は、 すべて独裁政権の重要な構成要素だから、 プロレタリア革命の第一歩は、 古い国家装置を粉砕し、 自らの支配下に新しいものを建設することなのです。

 毛沢東はこの理論の本質を深く理解し、 中国の農民(中国共産党革命の基礎)が理解できる言葉で、 こう話しました。

 ;「マルクス主義の道理は無数にあるが、 結局のところ「反抗には道理がある」ということだ。 何千年もの間、 圧政、 搾取には道理があって、 反抗には理がないといわれていたが、 マルクス主義が登場して、 こうした古い考え方はひっくり返された。 これはおおいなる功績であって、 この道理はプロレタリアートの闘いの中から得られたものをマルクスが理論化したものだ。 この道理に基づけば、 道理とは反抗であり闘争であり、 社会主義を実現することである」。

 毛沢東が文革を発動した理由は「古い世界を粉砕し、 新しい世界を創造する」ことでした。 しかし、 イデオロギー的なニーズと政治的なニーズが半分を占めていました。 自分が作り上げた政治構造がソ連式だったことへの不満と、 さらに重要なことは政敵抹殺でした。

 毛沢東の「大躍進」政策によって、 3500万人(または4000万人)の中国人が死亡した3年連続の大飢饉が起こり、 毛沢東は第二線に退けられ、 劉少奇らの実務派が政務を引き受け、 党内での彼らの評価も上昇していたのです。 私が小学校の頃、 教室に掲げられた肖像画は毛沢東と劉少奇でした。 これは個人の絶対権威を重んじる毛沢東にとっては喉に刺さった骨のようなもので、 必ず除去しなければならず、 そのためには劉少奇が管轄する政府のシステム(当然、 最重要な警察、 検察、 裁判所を含む)に頼るわけにはいきませんでした。

 ですから、 中国の文革で、 紅衛兵たちはまず政治分野で現存の秩序である公安局、 検察局、 裁判所を破壊しなければなりません。 そうしてこそ紅衛兵が憎い政敵をやっつけ、 町中を引き回し屈辱、 処罰し放題にできるようになったのでした。

これは、 フロイド死亡抗議の中で、 それを裏から指導している者たちの主要な要求となっています。

 ★「警察の予算を無くせ」――米国文革の警察破壊

 ほぼすべての主要都市で、 抗議者たちは「警察の予算を無くせ」(defund police)というスローガンを使っています。 5月25日から全米数十の都市で抗議行動が行われ、 各地で暴動や暴力的な強盗事件が発生。 ブランド店や貴金属店、 ホテルなどは強盗や破壊行為の対象になっており、 荒らされたり、 車が焼かれたり、 建物が破壊されたりしています。

 米メディアによると、 ミネソタ州の暴動は全米70都市以上に広がって、 少なくとも8つの州とワシントンD.C.ではデモに対して州兵が動員され、 40以上の都市で外出禁止令が出されました。 中国の文革でみられた打ち壊しが、 米国の文革でも再現されました。

 不思議なことに、 破壊行為や暴力が最も多かった州は、 ニューヨークなどの民主党知事の州がほとんどでした。 シカゴ、 デトロイト、 ロサンゼルス、 アトランタなどの都市を中心に、 大多数の都市が長年にわたってアメリカのトップ10で、 警察官がリスクの高い職業とみなされています。

 それでも、 これらの都市が完全な「犯罪の巣窟」になっていないのは、 これらの警察官の努力によるものです。 にもかかわらずこれらの都市では「警察から資金を取り上げよ」の要求が高いく、 多くの州では、 その通りにしようという動きがあります。 市民の安全のための防壁を撤去して、 警察の改革と称する理由はどこにあるのでしょうか?

この「改革」は、 オバマ前大統領が公言していたことに直結する

 ★オバマの「変革」やめられないとまらない

 警察はこの風潮の原因を知っています。 ミルウォーキー郡の保安官デビッド・クラークはそれを秘密にしていない。 「オバマが警察官への攻撃を意図的に挑発した戦争だ」と。

 同保安官の発言は故なしではありません。 6月1日、 フロイド追悼式や抗議行進が米国全土でエスカレートする中で、 オバマ前大統領は、 ミディアムで全国のプロテスターたちに「この瞬間を本当のターニングポイントにする方法」を発表し、 新たな時代に最適の発展戦略は新世代の活動家にかかっていると述べています。 これまでの空文句と違って、 具体的に改革の方向を示しているのです。 それは 抗議や選挙による改革だけでなく、 警察署や刑事司法制度の改革にも焦点が当てられており、 最重要とされており、 その突破口は州、 地方レベルだといいます。

 オバマは、 かつて自分の肌の色を生かして、 黒人全体や不満を持つ若者に「チェンジ」を呼びかけ、 米国の資本主義制度を変革しようとする左派は彼を大統領に選びました。 誰かが言ってましたが、 オバマは何十年来稀な高いI.Q.とE.Q.の両方を持って、 かつ肌の色と「ポリティカル・コレクトネス」をも併せ持った大統領でした。

 オバマ前大統領は、 就任1期目では、 かなり慎重でした。 しかし、 2期目の最後の2年間は、 薬物の非処罰化や男女トイレなど、 何でもやりたい放題でした。 アメリカを変えた彼の10数項の政治的遺産の中には、 トランプ大統領によって廃止されたり、 変更されたりしたものもありますが、 現在のアメリカに深刻な影響を与えているものも少なくありません。
 
 例えば、 「肌の色による政治」を奨励し、 人種関係を引き裂き、 社会の安定性を損なうことで自分の影響力を高めたり、 違法行為を大量に導入したりすることです。 今後何十年も民主党に票を引きつけるための移民や、 麻薬の非犯罪化で十代を惑溺させ、 民主党に新たな票田としようとしたのです。 .

 退陣したオバマは今、 アメリカ社会の根幹である地方自治のシステムを弱体化させようとしてます。 あの保安官の言葉は真実です。 しかし、 今回の焦点は、 警察制度であり、 地方の司法制度と行政制度ではありません。 この2つの制度を自分たちの有利に使えるように綿密に計算されています。

 ★「警察の予算を無くせ」――各州での具体的行動

 フロイド事件が起きたミネソタ州の州都ミネアポリスでは、 抗議行動に至るまでの数日間、 破壊行為の事件が多発しました。 6月7日、 ミネアポリス市議会は、 ジェイコブ・フレイ市長の反対にもかかわらず、 賛成多数(9対4)で、 「人種差別的イデオロギーが強く批判されている」ミネアポリス警察を解散させ、 「新型公共安全システムモデル」の団地連合防衛自治を採用しました。

 議会は13議席あり、 民主社会農民党(民主党系)が12議席、 緑の党1議席。 こうした者は議員は、 自分たちの市の現状を全く見ようとしませんでした。 1月から5月30日までに、 自動車強盗は45%増え、 凶悪事件は6割増、 放火事件は58%、 窃盗事件は28%増加しました。 2018年の最低時に比べ、 凶悪犯罪は16%、 物品盗難事件は20%増加しています。

 6月の最初の1週間に92人が銃撃され、 27人が死亡した「犯罪とし」シカゴではまた違った様相です。 市長が警察を解散させようとして、 市議会議員が「ガードマンだけで秩序維持は無理。 この街には州兵は370人余りしかいない。 もし強盗やプロテスターが夜、 住宅地域に押し入ってきたらどうする?市民の抵抗だけで対処するのは無理。 計画的にやるべきだ」と言いましたが、 市長は暴言を吐いて拒否しました。

 ニューヨーク市長のビル・デブラシオも、 警察解散を考えると言いました。 しかし、 ニューヨーク市警の出したレポートを読んで思いど止まりました。 報告には6月1日から7日の夜までに、 市内で13の殺人事件、 40件の強盗事件が起きており、 2015年以来、 一番おおかった2019年の同時期でも、 殺人事件が5件、 強盗が24件だったのです。

 以上の話には、 デモによる「一握りの者の暴動」は含まれておらず、 普通の夜の治安状態でした。 ニューヨーク市警は、 もうひとつビル・デブラシオ市長も考慮せざるを得ないデータがあります。

 今年1〜5月のニューヨークの銃撃事件は18%増加し、 侵入盗事件は31%、 車強盗は64%増加したのです。 去年の同期と比較すると、 今年の最初の5ヵ月の窃盗事件は1279件、 車の盗難事件は1078件増え、 銃で撃たれた人は57人増えました。

 これらの事件の大部分は、 マンハッタンのビジネス街以外で起きていました。 警察官システムを解散させることによってもたらされる危険によって、 ビル・デブラシオ市長の「警察の予算を無くせ」へのミネアポリスの反応よりぐっとおとなしくなりました。 警察予算の一部を支出保留にして、 有色人種地域の青年と社会サービスに使うと言うのです。

 ★民主党各州での警察解散で暴力多発

 このような文革的熱狂の中で、 警察の正常な法執行が、 民衆への暴力とみなされることにより、 本当の暴力がほしいままに横行するようになりました。

 シアトルの7地区は、 ラッパー、 ニューハーフ、 ホームレスに占拠され、 彼らは「自治王国」を作ったと称しています。 この「王国」では、 準備した食料が王国内部の人間によって盗まれてしまい、 「建国者」の一人は、 ツイッターで「自殺したい」と訴え、 社会にベジタリアン用の食料提供を呼びかけています。 警察は同地域をパトロールしたあと、 もし暴力事件が起きたら911緊急通報システム(警察、 消防、 救急に対応)に電話して退去するようにといいました。

 民主党の大統領候補のバイデン氏は、 ずっと支持を得るために極左側にシフトしていましたが、 さすがにこれらの事件はおかしいと知って、 8日の演説では「警察の予算を無くせ」には反対で、 警察改革を支持すると述べています。

 左翼プロテスターによる「警察の予算を無くせ」のスローガンは、 こうした左翼の強い大きな州で様々な程度の反響をよんでいます。 しかし、 社会の各層からは「行き過ぎでは」との疑問もあります。

 6月9日のラスムッセンの世論調査では、 「警察の予算を無くせ」に賛成する人々は27%で、 14%が態度保留。 67%が地元警察は、 普通か、 よくやっているとおもうと回答しました。 回答者は、 黒人が警察に不公平な扱いを受けているのは問題だが、 警察に対する差別は町の犯罪よりも大きな問題だという答えが、 史上最高になっています。

 民主党の各州では、 人種差別問題以外は、 州内の社会的混乱には何の注意も払っていません。 最近では、 土下座をしてみたり、 路上で黒人の足を洗ったり、 跪いて黒人の靴にキスをしたり、 一緒になって歴史的文物を破壊するという”宥和の方法”が発明され始めています。

 法の支配を前提としたアメリカ憲政は、 ついにその深刻な衰退の真相を世界に示しました。 長年来、 民主党が選挙の票獲得のために隠していた 汚れや腐敗を隠す暗黒面が、 白昼堂々と天下に晒されているのです。 (終わり)

 原文は;打碎旧世界 创造新天地—美国文革正在进行时
2020年06月13日
これまでの何清漣さん、程暁農さんの論評の、翻訳はこちら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?