程暁農★米・中新冷戦は何を意味するのか? 2020年6月8日


 最近「新冷戦」は、 米・中対立の代名詞となっている。 欧米メディアが「米・中新冷戦」を言い始めただけではない。 中国共産党幹部やメディアも この概念を使い始めた。 数日前に「米・中新冷戦は始まったのか? 2020年6月4日」を掲載した。 そこでは、 米・中関係が1970〜80年代の新婚蜜月期間や同盟国関係から、 アメリカが信頼したいと願う「経済的なパートナー」になったが、 それが今や、 米側がもはや信用できない敵となったと書いた。
 
その理由は、 中共の大規模な技術機密の盗用、 横流し、 そして、 伝染病の責任回避と軍事的挑発に踏み切るという3分野で、 中国側が「最初の一発」を撃ったと指摘した。 本稿では、 米・中新冷戦が始まった後、 中共が直面する可能性のある局面を分析したい。

 ★アジアは米・中新冷戦の主戦場

 冷戦(Cold War)とは、 第2次世界大戦後、 米英を中心とした民主主義国家とソ連を中心とした社会主義国家間の政治的軍事的にも経済的な全面対決を指す。 1940年代後半から、 ソ連が政治的な締め付けを緩め始めた1980年代後半まで40年間続いた。 その主戦場がヨーロッパであったため、 この冷戦の主戦場から離れていたこともあって、 アジア人の冷戦に対する理解は、 日中戦争より深いとは言えない。

 冷戦の主戦場の位置づけは、 地政学と密接に結びついていた。 ソ連の首都はヨーロッパにあり、 第2次世界大戦ではドイツ軍がモスクワまで進撃し、 ソ連は敗北の危機に直面した。 モスクワの地下鉄3号線の西端にあるビクトリーパーク駅(モスクワ地下鉄の内輪キエフ駅から1駅)は、 ドイツ軍が駐留していた前線基地だ。 当時、 ソ連の予備部隊はシベリアでの初期訓練を終えてモスクワに搬送され、 赤の広場で閲兵後、 1時間で直接戦場まで歩いて行けたのだ。

 第2次世界大戦後、 ソ連は欧州での勢力圏拡大に全力を傾けた。 共産主義陣営の国境を、 できる限り西側の中・西欧に伸ばそうとした。 米ソ冷戦は西ベルリン封鎖(1948年6月24日〜1949年5月12日 )がきっかけだった。 当時、 米、 英、 仏3大連合国に占領された西ベルリンは、 四方を東ドイツに囲まれており、 ソ連は地上輸送を遮断して西ベルリン封鎖し、 住民を、 生存のためには東ドイツの共産主義体制に忠誠を誓うしかないようにしむけたのだった。

 しかし、 西ベルリンの住民は民主主義を手放す気がないことを圧倒的多数の投票で示した。 米軍は大規模なベルリン空輸作戦を行い、 小麦粉から石炭まで運び込んで住民を支えた。 最後には、 ソ連は封鎖を放棄した。 そして、 西側は対ソ冷戦が本格化させ、 これが ソ連崩壊まで続いた。

 現在、 中国と米国の新冷戦の主戦場は太平洋の西岸だ。 アジアの多くの国は、 利害関係を持つ新たな国際的新状況に直面し始めている。

 アジアの多くの国にとっては、 現在のどっちつかずの洞が峠状態は遅かれ早かれ、 立ち位置を明確にせよという圧力にさらされることになる。 中共には、 事実上アジアに本当に信頼して頼れる強い味方はいない。 孤立して最後まで抵抗するしかない。

 ロシアは表面上は中共を支持しているように見えても、 実は洞が峠を決め込んでいるのと同じだ。 核保有国であるため、 米中の新冷戦の真っ只中にいて、 どっちの側にもつかずとも、 やっていける立場だ。 しかし、 中共はロシアが北京のために危険に立ち向かって大きな犠牲を払うことなど期待できない。

 ★⑵ 冷戦の鉄則 戦争に発展させず相手を弱化させること

 中国人の多くは冷戦を理解しておらず、 2つの異なる理解の仕方だ。 一つは、 冷戦の代わりに本当の戦争をした方がましだと思うこと。 もう一つは、 「冷戦は”平和状態”なのだから、 何も怖くない」と思うことだ。

 前者は、 冷戦とは何かが分かっていない。 冷戦の鉄則は、 米ソ両国が40年間、 冷戦を繰り広げた中から出てきた必ず守られるべきルールなのだ。

 冷戦の鉄則とは、 双方の軍隊は直接交戦してはならないということだ。 さもなければ、 いったん、 軍の指揮官たちが軍事上の勝利のために核兵器を使おうとして、 トップが誤った決定を行えば、 大規模核戦争が引き起こされ、 地球は滅び、 双方ともに生存が望めなくなる。

 この分野では、 3つの例がある。

 朝鮮戦争時期に、 国連軍総司令官のダグラス・マッカーサー元帥は、 中国の東北地方の補給基地攻撃に核爆弾使用を要求した。 マッカーサーは太平洋戦争の英雄として深く尊敬されており、 大統領選挙に出馬すら考えたほどだった。 しかし、 トルーマン大統領は、 マッカーサーの核兵器使用の希望に対して、 直ちに解任で応じ、 マッカーサーの軍歴は終わった。

 第二の例は、 米ソ冷戦の中で最も深刻な正面対決となった1962年のキューバ・ミサイル危機。 ソ連がキューバに核ミサイルを配備しようとしたので、 米国は、 核ミサイルを搭載したソビエト艦隊の侵入を防ぐために海上封鎖し、 臨戦態勢を敷いた。 米ソ双方は、 核ボタンに指をかけ、 世界は危機に晒されたが、 最終的には、 両国が妥協し、 この危機を乗り切った。 キューバミサイル事件は、 人類が最も熱核戦争に近ずいた危機だという点では、 ケネディとソ連共産党のフルシチョフ書記長の見方は一致していた。

 第三の例は、 毛沢東が1969年に中・ソ国境戦争を開始した後、 ソ連の政治局が、 北京とその周辺に 戦術的な核攻撃を行おうとした時だった。 アメリカは、 ソ連がこの計画を実行すれば、 地球上で核戦争を挑発し、 地球を破壊することになると警告。 ソ連の無謀な計画を阻止するために、 米国は「ソ連が核兵器を使用したら戦争とみなし、 本格的な核攻撃を行う」と表明した。 ソ連共産党は米国の核の脅威に屈し、 中共への核攻撃を放棄した。

したがって、 冷戦では、 両陣営は核戦争をやらないだけでなく、 軍隊でさえも直接交戦を避けるのが、 どちらにとってもベストなのだ。
しかし、 冷戦では、 国家間は、 はっきりとした敵対関係になる。 冷戦前の「仮想敵国」から、 いつでも自国に対して重大な打撃を与えうる本物の敵国にエスカレートする。 だから、 軍事上の交戦を除いて、 あらゆる面での総力戦体制になるのだ。

 いわゆる総力戦とは、 経済、 科学技術、 金融、 軍事などの各方面で、 相手が自分への脅威にならないように弱体化させ、 封じ込めることだ。 また双方が小さな分野や個別の計画で開始し、 圧力をかけ、 攻撃し反撃し合うので、 どちらかが完全に諦めない限り、 冷戦は終了せず、 エスカレートしていくのだ。 そして、 冷戦が長引けば長引くほど、 かつてのソ連のように、 また今の中共のように、 相対的な弱い側にとっては困難になる。

 ★⑶ 米中対決 小さな動きから全体が見える

 米・中新冷戦では、 航空問題、 株式上場問題、 華為(Huawei)問題を巡って、 すでに両者は戦争状態になっている。 一般的に見れば、 個々の問題は大したことではないように見えるが、 冷戦時代の視点から見れば、 以下のような、 異なった糸口が見えてくる。

 科学技術分野では、 ZTEのチップ問題以後、 この1、 2年で米国の対中共企業への制裁措置は次第に強化されてきた。 最近の華為に対する制裁には、 チップだけでなく、 産業用ソフトウェアの無効化も含まれた。 多くの人が華為が必要なチップを作り続けることができないことに注目しているが、 実は、 工業用ソフトウェアが禁止されているため、 華為は独自のチップを設計するための産業用ソフトすら使用できない。

 また、 米国政府は5月22日、 中国の33の企業や機関を制裁リストに追加し、 米国企業がこれらの機関に情報を提供することを制限したと発表した。 理由は、 中共の国民監視活動や、 軍と結びついた製品を販売したことだ。 これは、 6月5日に制裁が発効した。

 経済・金融分野では、 中共を抑制するための一連の措置を開始している。 例えば、 トランプ大統領は最近、 米国の投資家を守るために、 米国の株式市場の規制基準に違反する中国の上場企業の見直しを求めた。 長い間、 米国の中国上場企業は、 いわゆる「国家機密」を口実に、 米国による財務監査報告書の免除を享受して、 虚偽報告を行い楽な思いをしてきたのだ。

 しかし、 新冷戦では、 これでは敵を利して自国が損害を被る。 このような中国が一方的に優位たつ奇妙な制度には終止符を打つことが急務となる。

 もう一つの例として、 複数の共和党議員が、 米財務長官が中共軍と「重要な契約」「重要な契約」「重要な契約」を結んでいる外国防衛企業を議会に報告するよう求める法案の提出を計画していることが挙げられる。 こうした関係にある企業や個人は、 新たな中国から提供された投資を受け入れてはならず、 関係も減らさなければならないとされる。 明らかに米国は、 中共に対する貿易や技術戦争を金融分野にも拡大して、 戦いを展開しようとしている。

 現在、 民間航空路線の開放を巡って米・中間で争われているのは、 表向きには、 米国航空会社による中国人旅客の渡米輸送禁止が原因である。 だが、 中共は互恵主義の原則を尊重せずに アメリカの航空会社が中国への路線を開設させなかったからアメリカは中国の航空便を禁止することを圧力として、 北京に譲歩を迫っているのだ。

 もし、 冷戦状態に突入していなかったら、 米国はあるいは、 こうした細かいことには、 こだわらなかったかもしれない。 新型コロナウイルス発生以来、 ずっと米国はこうした態度を取り続けた。

 しかし、 ここ数週間の米・中関係を特徴づけていた信頼と互恵の動機が消えてしまったことで、 対等出ないなら、 門を閉ざすというのが米国の行動原則になってしまったのだ。

 つまり、 去年の貿易交渉前の段階では、 米国は中共に対して「警戒状態」だったのだが、 中共の対応が米国に「やっぱり警戒したのは正しい」と思わせる結果になって「常時対中警戒ルール」となった結果、 どんどん新冷戦につき進ことになったのだ。

 冷戦状態では、 これまで中共が望んできたような「戦わずして金を稼ぐ」というわけには、 もういかないのだ。 残された道は「金のために戦うし、 喧嘩も買って出る」か「金はどうでもいいから、 とにかく争う」の二つの道だ。

 現在、 中共は「金のために戦い、 喧嘩も買って出る」だが、 だんだんおのずから「金はどうでもいいから、 とにかく争う」の段階になりかねない。 米国がもう中共を信用しないなら、 中共ももう君子のふりなぞせず、 いかなる汚い手段でも使う、 ということだ。

 その結果は、 必然的に双方の摩擦があらゆる面で繰り広げられ、 火花がどこにでも飛び散ることになる。 この状況は、 ベルリン封鎖から始まった米ソ冷戦の軌跡の繰り返しであり、 双方が戦えば戦うほど、 お互いを封じ込める動きに出る。

 最後のステップは、 すべての面でお互いの分離・離脱が完了する。 富の奪い合いは終わり、 相手に弱みを見せまいと、 北京には闘争心だけが残り、 その闘争心のためには、 必然的に軍備拡大を続けなければならない本格的な対決段階となる。

 ★⑷ 経済悪化は結局どうなるのか?

 米・中新冷戦は、 中国から技術、 輸出市場、 外国投資の源泉を奪い、 中国経済を不断に衰退・悪化させる。 では、 景気が悪化して高失業率になると、 社会秩序が乱れてしまうのか? 民主主義の国であれば、 このような状況は、 早期に政権交代が行われ、 成り行きを見ることになる。

 しかし、 独裁政権である中共は、 経済が悪化して、 失業率が高まっても政権を手放そうとはしないし、 民間から不満が漏れ出すことも許さない。 それどころか、 その反対に、 社会のコントロールを強め、 党内や民間の批判には政治的打撃を加えようとする。 インターネットやSNSを封鎖し、 個人の経済の自由を取り消し(例えば、 出国、 人口の移動の自由、 都市の外からの人口の居住、 銀行預金の引き出し、 食糧の提供制限など)をしようとする。

 この点に関しては、 中共史上最悪の経済社会状況がわかりやすい。 年の「大躍進」から3年後の1958年、 田舎で数千万人が餓死した。 古代ならば、 泥棒や強盗が大量に発生し、 地方の下っ端役人は役所の外に出られなくなった。

 しかし、 1960年には中共の統制は最高レベルにまでエスカレートし、 農民は村から出ることは許されず、 都市で戸籍を持たない者はすべて故郷に強制送還され、 食料は一世帯あたりの供給量が限られていた。 政治犯は辺境の地に送り込まれて餓死させられた。 つまり帝政以上に悪質な共産党の独裁者が登場したのだ。

 米・中新冷戦に突入する中で、 両国間関係はますます緊迫したものになるだろう。 今世紀に入ってからの、 中国の国際的地位の上昇に対する国民のこれまでのイメージと、 その上に築かれた家族の計画(子供たちを含む 留学、 海外定住、 世界旅行などの機会)が、 中共政権の政策によって、 徐々に失われていくのではないかと心配される。

 若い世代の多くは、 50歳以降の世代が経験した苦しい時代は過去のもので、 中国は開放的で経済的な繁栄と実力の増大しており、 もう古い日々に立ち返ることはないと思っている。 しかし、 制度が変わらなければ、 得るのも早いが失うのも早いのだ。 経済的な実力が一時は増えたとしても、 実は経済の苦境とそれに伴う痛みを、 先送りしているだけなのだ。 (終わり)

 原文は;程晓农:中美新冷战意味着什么?

これまでの何清漣さん・程暁農さんの論評の、翻訳はこちら

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