何清漣氏★「古い世界をぶっこわせ」――米国の「文革」⑴ ⑵ 2020年6月13日

★私の経験した中国と米国の「文革」

 中国人は長い間、 文化大革命の再来を恐れていたが、 まさかアメリカで「文革」が生まれ変わるとは誰も思いませんでした。

 でも、 中国の左翼による大惨劇を経験し、 米国のますます過激になる左翼文化を理解できる中国の知識人として、 私は、 オバマ前大統領時代に、 米国左翼のDNAが、 中国の文革に大変似ていることには、 前から気がついていました。

 例えば、 歴史の記憶を再構築し、 歴史的記念物をぶちこわし、 ジェファーソンとリー将軍の歴史的地位をアイデンティティの基準(例えば奴隷所有)によって書き換えるといったことです。 これは中国の文革で「破四旧」(1966年の旧思想、 旧文化、 旧風俗、 旧習慣を弾圧する運動)や歴史的遺物の破壊ということと全く同じです。

 中国の文革を知る数少ない人々は、 これを「米国の文革」と呼んでいます。 興味があれば「アメリカ文化大革命運動報告書」を読んでみるといいでしょう。 そこには米国の主流メディアの報道しない、 一般には知られていない米国の文革の”偉業”の数々が記されています。

 バーニー・サンダース上院議員が2度、 大統領選挙候補として予備選に出馬した最大の効果は、 共産主義(社会主義)から、 汚名を拭い去ったことです。 ですから、 今年5月25日のフロイド事件抗議が怒ってい以来、 これまでマイナーイベントだった「文革」の様相は、 大変刺激的なシーンとなりました。

 米国人はその暴走を心配し、 中国人は仰天しました。 しかし、 私は数年前に、 米国政治は必然的にこの日を迎えるだろうと書いておきました。
 グローバリゼーションの観点から見てみると、 ジョン・フォスター•ダレス元国務長官(アイゼンハワー大統領時代)が「社会主義国の平和的な発展を望む」と発言し、 以来、 ソ連、 東欧の革命以来、 ビロード革命、 カラー革命は、 欧米での社会主義思想の復活となり、 程度は様々ですが、 各国で左派が復活しました。 これ自体、 膨大な研究を要するテーマでありその教訓は、 大変重いものがあります。

 私は10歳の頃から中国文化大革命を経験しており、 個人的、 何度も家を荒らされ、 自分の目で、 「破四旧」、 吊るし上げ、 デモ、 武闘、 集団虐殺を見てきましたので、 米中両国に共通する「文革」的DNAを比較研究する必要性があると感じています。

 中国や世界の学者は、 どなたも文革のような広範な大災難は、 中国でしか起こらないと思っています。 でも、 私は米・中両国の文革の中から、 共通したDNAを見出すのです。 共通の祖先はマルクス主義の暴力革命理論で、 旧世界(資本主義)を打倒し、 新天地をするというものです。 その違いといえば、 中国の文革は全国最高指導者の毛沢東が権力を利用して、 上から下に起こさせたものでしたが、 米国の文革は、 長年、 教育によって養成された国民が自主的に起こしたもので、 二大政党の一つである民主党が政権を取っている州が協力していることです。

 ★既成の法秩序の解体

 ここでは、 まず先に、 プロレタリアートが旧来の国家装置を解体しなければならないという古典的なマルクス論を紹介する必要があります。 マルクス主義(レーニン主義)の解釈によれば、 国家とは、 ある階級が他の階級を支配するための道具です。

 その意味するところは、 支配者層が一連の法律、 制度、 執行機関を確立しなければならず、 そうすることによってのみ被支配階級の支配が実現するのである、 です。

  軍隊、 警察、 裁判所、 刑務所、 その他の機関は、 すべて独裁政権の重要な構成要素だから、 プロレタリア革命の第一歩は、 古い国家装置を粉砕し、 自らの支配下に新しいものを建設することなのです。

 毛沢東はこの理論の本質を深く理解し、 中国の農民(中国共産党革命の基礎)が理解できる言葉で、 こう話しました。

 ;「マルクス主義の道理は無数にあるが、 結局のところ「反抗には道理がある」ということだ。 何千年もの間、 圧政、 搾取には道理があって、 反抗には理がないといわれていたが、 マルクス主義が登場して、 こうした古い考え方はひっくり返された。 これはおおいなる功績であって、 この道理はプロレタリアートの闘いの中から得られたものをマルクスが理論化したものだ。 この道理に基づけば、 道理とは反抗であり闘争であり、 社会主義を実現することである」。

 毛沢東が文革を発動した理由は「古い世界を粉砕し、 新しい世界を創造する」ことでした。 しかし、 イデオロギー的なニーズと政治的なニーズが半分を占めていました。 自分が作り上げた政治構造がソ連式だったことへの不満と、 さらに重要なことは政敵抹殺でした。

 毛沢東の「大躍進」政策によって、 3500万人(または4000万人)の中国人が死亡した3年連続の大飢饉が起こり、 毛沢東は第二線に退けられ、 劉少奇らの実務派が政務を引き受け、 党内での彼らの評価も上昇していたのです。 私が小学校の頃、 教室に掲げられた肖像画は毛沢東と劉少奇でした。 これは個人の絶対権威を重んじる毛沢東にとっては喉に刺さった骨のようなもので、 必ず除去しなければならず、 そのためには劉少奇が管轄する政府のシステム(当然、 最重要な警察、 検察、 裁判所を含む)に頼るわけにはいきませんでした。

 ですから、 中国の文革で、 紅衛兵たちはまず政治分野で現存の秩序である公安局、 検察局、 裁判所を破壊しなければなりません。 そうしてこそ紅衛兵が憎い政敵をやっつけ、 町中を引き回し屈辱、 処罰し放題にできるようになったのでした。

これは、 フロイド死亡抗議の中で、 それを裏から指導している者たちの主要な要求となっています。

 ★「警察の予算を無くせ」――米国文革の警察破壊

 ほぼすべての主要都市で、 抗議者たちは「警察の予算を無くせ」(defund police)というスローガンを使っています。 5月25日から全米数十の都市で抗議行動が行われ、 各地で暴動や暴力的な強盗事件が発生。 ブランド店や貴金属店、 ホテルなどは強盗や破壊行為の対象になっており、 荒らされたり、 車が焼かれたり、 建物が破壊されたりしています。

 米メディアによると、 ミネソタ州の暴動は全米70都市以上に広がって、 少なくとも8つの州とワシントンD.C.ではデモに対して州兵が動員され、 40以上の都市で外出禁止令が出されました。 中国の文革でみられた打ち壊しが、 米国の文革でも再現されました。

 不思議なことに、 破壊行為や暴力が最も多かった州は、 ニューヨークなどの民主党知事の州がほとんどでした。 シカゴ、 デトロイト、 ロサンゼルス、 アトランタなどの都市を中心に、 大多数の都市が長年にわたってアメリカのトップ10で、 警察官がリスクの高い職業とみなされています。

 それでも、 これらの都市が完全な「犯罪の巣窟」になっていないのは、 これらの警察官の努力によるものです。 にもかかわらずこれらの都市では「警察から資金を取り上げよ」の要求が高いく、 多くの州では、 その通りにしようという動きがあります。 市民の安全のための防壁を撤去して、 警察の改革と称する理由はどこにあるのでしょうか?

この「改革」は、 オバマ前大統領が公言していたことに直結する

 ★オバマの「変革」――やめられないとまらない

 警察はこの風潮の原因を知っています。 ミルウォーキー郡の保安官デビッド・クラークはそれを秘密にしていない。 「オバマが警察官への攻撃を意図的に挑発した戦争だ」と。

 同保安官の発言は故なしではありません。 6月1日、 フロイド追悼式や抗議行進が米国全土でエスカレートする中で、 オバマ前大統領は、 ミディアムで全国のプロテスターたちに「この瞬間を本当のターニングポイントにする方法」を発表し、 新たな時代に最適の発展戦略は新世代の活動家にかかっていると述べています。 これまでの空文句と違って、 具体的に改革の方向を示しているのです。 それは 抗議や選挙による改革だけでなく、 警察署や刑事司法制度の改革にも焦点が当てられており、 最重要とされており、 その突破口は州、 地方レベルだといいます。

 オバマは、 かつて自分の肌の色を生かして、 黒人全体や不満を持つ若者に「チェンジ」を呼びかけ、 米国の資本主義制度を変革しようとする左派は彼を大統領に選びました。 誰かが言ってましたが、 オバマは何十年来稀な高いI.Q.とE.Q.の両方を持って、 かつ肌の色と「ポリティカル・コレクトネス」をも併せ持った大統領でした。

 オバマ前大統領は、 就任1期目では、 かなり慎重でした。 しかし、 2期目の最後の2年間は、 薬物の非処罰化や男女トイレなど、 何でもやりたい放題でした。 アメリカを変えた彼の10数項の政治的遺産の中には、 トランプ大統領によって廃止されたり、 変更されたりしたものもありますが、 現在のアメリカに深刻な影響を与えているものも少なくありません。
 
 例えば、 「肌の色による政治」を奨励し、 人種関係を引き裂き、 社会の安定性を損なうことで自分の影響力を高めたり、 違法行為を大量に導入したりすることです。 今後何十年も民主党に票を引きつけるための移民や、 麻薬の非犯罪化で十代を惑溺させ、 民主党に新たな票田としようとしたのです。 .

 退陣したオバマは今、 アメリカ社会の根幹である地方自治のシステムを弱体化させようとしてます。 あの保安官の言葉は真実です。 しかし、 今回の焦点は、 警察制度であり、 地方の司法制度と行政制度ではありません。 この2つの制度を自分たちの有利に使えるように綿密に計算されています。

 ★「警察の予算を無くせ」――各州での具体的行動

 フロイド事件が起きたミネソタ州の州都ミネアポリスでは、 抗議行動に至るまでの数日間、 破壊行為の事件が多発しました。 6月7日、 ミネアポリス市議会は、 ジェイコブ・フレイ市長の反対にもかかわらず、 賛成多数(9対4)で、 「人種差別的イデオロギーが強く批判されている」ミネアポリス警察を解散させ、 「新型公共安全システムモデル」の団地連合防衛自治を採用しました。

 議会は13議席あり、 民主社会農民党(民主党系)が12議席、 緑の党1議席。 こうした者は議員は、 自分たちの市の現状を全く見ようとしませんでした。 1月から5月30日までに、 自動車強盗は45%増え、 凶悪事件は6割増、 放火事件は58%、 窃盗事件は28%増加しました。 2018年の最低時に比べ、 凶悪犯罪は16%、 物品盗難事件は20%増加しています。

 6月の最初の1週間に92人が銃撃され、 27人が死亡した「犯罪都市」シカゴではまた違った様相です。 市長が警察を解散させようとして、 市議会議員が「ガードマンだけで秩序維持は無理。 この街には州兵は370人余りしかいない。 もし強盗やプロテスターが夜、 住宅地域に押し入ってきたらどうする?市民の抵抗だけで対処するのは無理。 計画的にやるべきだ」と言いましたが、 市長は暴言を吐いて拒否しました。

 ニューヨーク市長のビル・デブラシオも、 警察解散を考えると言いました。 しかし、 ニューヨーク市警の出したレポートを読んで思いど止まりました。 報告には6月1日から7日の夜までに、 市内で13の殺人事件、 40件の強盗事件が起きており、 2015年以来、 一番おおかった2019年の同時期でも、 殺人事件が5件、 強盗が24件だったのです。

 以上の話には、 デモによる「一握りの者の暴動」は含まれておらず、 普通の夜の治安状態でした。 ニューヨーク市警は、 もうひとつビル・デブラシオ市長も考慮せざるを得ないデータがあります。

 今年1〜5月のニューヨークの銃撃事件は18%増加し、 侵入盗事件は31%、 車強盗は64%増加したのです。 去年の同期と比較すると、 今年の最初の5ヵ月の窃盗事件は1279件、 車の盗難事件は1078件増え、 銃で撃たれた人は57人増えました。

 これらの事件の大部分は、 マンハッタンのビジネス街以外で起きていました。 警察官システムを解散させることによってもたらされる危険によって、 ビル・デブラシオ市長の「警察の予算を無くせ」へのミネアポリスの反応よりぐっとおとなしくなりました。 警察予算の一部を支出保留にして、 有色人種地域の青年と社会サービスに使うと言うのです。

 ★民主党各州での警察解散で暴力多発

 このような文革的熱狂の中で、 警察の正常な法執行が、 民衆への暴力とみなされることにより、 本当の暴力がほしいままに横行するようになりました。

 シアトルの7地区は、 ラッパー、 ニューハーフ、 ホームレスに占拠され、 彼らは「自治王国」を作ったと称しています。 この「王国」では、 準備した食料が王国内部の人間によって盗まれてしまい、 「建国者」の一人は、 ツイッターで「自殺したい」と訴え、 社会にベジタリアン用の食料提供を呼びかけています。 警察は同地域をパトロールしたあと、 もし暴力事件が起きたら911緊急通報システム(警察、 消防、 救急に対応)に電話して退去するようにといいました。

 民主党の大統領候補のバイデン氏は、 ずっと支持を得るために極左側にシフトしていましたが、 さすがにこれらの事件はおかしいと知って、 8日の演説では「警察の予算を無くせ」には反対で、 警察改革を支持すると述べています。

 左翼プロテスターによる「警察の予算を無くせ」のスローガンは、 こうした左翼の強い大きな州で様々な程度の反響をよんでいます。 しかし、 社会の各層からは「行き過ぎでは」との疑問もあります。

 6月9日のラスムッセンの世論調査では、 「警察の予算を無くせ」に賛成する人々は27%で、 14%が態度保留。 67%が地元警察は、 普通か、 よくやっているとおもうと回答しました。 回答者は、 黒人が警察に不公平な扱いを受けているのは問題だが、 警察に対する差別は町の犯罪よりも大きな問題だという答えが、 史上最高になっています。

 民主党の各州では、 人種差別問題以外は、 州内の社会的混乱には何の注意も払っていません。 最近では、 土下座をしてみたり、 路上で黒人の足を洗ったり、 跪いて黒人の靴にキスをしたり、 一緒になって歴史的文物を破壊するという”宥和の方法”が発明され始めています。

 法の支配を前提としたアメリカ憲政は、 ついにその深刻な衰退の真相を世界に示しました。 長年来、 民主党が選挙の票獲得のために隠していた 汚れや腐敗を隠す暗黒面が、 白昼堂々と天下に晒されているのです。


★「古い世界をぶっこわせ」――米国の「文革」⑵

2020年6月18日

 「警察の予算を無くせ」(defund police)が、各州の警察官が身動きが取れなくしている間に、米国の歴史的な文物、とりわけ建国時と南北戦争時期の銅像などの、さまざまな破壊が米国中で大流行です。

 中国で文革を経験した人なら皆、知っていますが、これは文革初期に「破四旧」(4つの古いもの=旧思想、旧文化、旧風俗、旧習慣を打破せよ運動)の名で行われたものです。当然、「三尺の氷は、一日で凍らず」で「アメリカの文化大革命運動研究報告書
では、こうした動きは、2017年のオバマ前大統領の第1任期の末には起こっていたと指摘しています。数年間の”熟成期”を経て、米国政治の肝心な時期―大統領選挙の年に大爆発し、民主党は先頭に立ってこれを指導する操縦士になっています。

 ★米国文革の先生、中国文革の「破四旧」とは

 いわゆる「破四旧」とは、自国の伝統文化と歴史を、封建主義の残滓として徹底的に否定して、消滅させ、その破壊者に政治的合法性を与えるものです。はっきりさせておくべきは、このようは自国の歴史と文化を徹底破壊する文革は、これまでに何十もの社会主義国家や準社会主義国家があったなかで、毛沢東の中国でだけ出現したことです。

 社会主義のトップを切っていたソ連では、「破四旧」は起きていません。自国文化を封建主義の残滓だと批判して破壊などしませんでした。ピュートル大抵以来の、各種の文化の生み出したものや現代化も、みなソ連が継承する文化遺産でした。プーシキン、トルストイ、ゴーゴリらの文化人は、ソ連でも誇りとされました。ソ連や東欧の社会主義国からは、中国の文革の蛮行は、無知で野蛮だと極端に蔑まれたのです。

 まず、中国文革時期の「四旧」とは何かというと、「旧思想、旧文化、旧風俗、旧習慣」の総称です。その始まりは、「副総帥」だった林彪の「5・18談話」で、1966年1日の「人民日報」社説「一切の牛鬼蛇神を一掃せよ」です。

 のちにこれは、中央文革小組が出した文革綱領の「16条」として、肯定されました。無産階級、共産主義、社会主義運動が誕生する以前の長い歴史段階の、あらゆる先人の作った社会形態の残した文化や財富は、すべて古く、腐って、反動的であって、かならずこれを徹底的に破壊し、一掃しなければならないというものでした。

 旧思想とは、孔子や老子、荘子といった秦代以前の諸子百家から、董仲舒(前漢の儒学者)、韓愈(唐の詩人)、朱熹(宋学の大成者)、王陽明(明の思想家)、曾国藩(清の軍人、政治家)、胡適(中華民国の思想家)、劉少奇ら、あらゆる「封建主義、ブルジョアジーの代表人物」の思想で有り、彼らの著作であり、彼らの影響下に生まれたその他の作品で有り、多くの貴重な書籍が含まれています。

 旧文化とは、旧時代の礼儀と制度や、文学芸術、教育思想と実践などの精神活動であり、文字になっているものいないものを含みます。その全ての内容は旧思想より広範なものです。

 旧風俗とは年に一度の祭り、結婚式、葬式、芸能、儀礼、習慣などを含む、衣食住、交通などのすべての世俗的な表れを指します。サブカルチャーです。

 旧習慣とは、長い時間をかけて現実に形成された行動パターン、傾向、習慣を指し、古い考え、古い文化、古い習慣に由来するものも含まれます。そこから物事の考え方の心理的なパターンが作られます。
 
 文革の集団狂気の中で、林彪は副総統として、また毛沢東の「親密な戦友」として、「我々はすべてを破壊する」と呼びかけたものです。

 「我々は一切の搾取階級の旧思想、旧文化、旧風俗、旧習慣を破壊し、一切の社会主義の基礎にふさわしくない上部構造をを改革し、一切の害虫を一掃し、一切の足かせを捨て去るのだ」と呼びかけた時、いわゆる「四旧」とは何かは誰も考えようとしませんでした。いたるところに探し求め、自分と異なる意見を発見するや、「害虫」と断定したのでした。

 1966年8月17日の夜、北京第二高等学校の紅衛兵は「最後通告-旧世界への宣戦布告」と題した大文字のポスターを描きました。 8月18日、毛沢東は天安門広場で 紅衛兵を閲兵し、首都北京の紅衛兵たちは「四旧」を破壊するために街頭に繰り出しました。

 この「紅の8月」の期間中、紅衛兵は全国各地に出かけて行き、これまで王朝が変わっても破壊されたことのなかった中華文明の精神的創造者の孔子の墓や孔子廟を破壊したのです。全国各地の文物古跡、歴史上の有名人の墓もみな紅衛兵の目標となりました。

 紅衛兵が思い切り破壊できるようにと、毛沢東の腹心、謝富治は公安局、検察局、裁判所破壊法を提案し、司法システムを完全に麻痺させ、「公安6条」を提案してこうした破壊行為を保護したのでした。

 最も有名な紅衛兵の指導者は、北京大学の譚厚蘭(訳注:湖南省の貧農出身女性。1940年-1982年。のち逮捕)でした。

  統計によると、1966年11月9日から12月7日までの間、紅衛隊を率いていた譚厚蘭は2,700冊以上の古書、900冊以上の書画の巻物、重文レベルの文物を含む1,000個以上の石碑を燃やし、6000点以上の文物を破壊しました。中には、70点以上の国宝級の文物と、1000冊以上の稀覯書が含まれていました。 譚厚蘭の一団だけでもこれほどの損失を与えたのですから、全国の紅衛兵たちによる被害は数え切れません。

 文化大革命の時、中国大陸には法律がなく、文化遺産も保護されず、私有財産、個人の自由、私的な領域は保護されていませんでした。 春秋時代の孔子から1949年以前の国民革命時代の登場人物全員が、苦しめられたのでした。

 ★アメリカ文化大革命:すべては反人種主義の名の下に


 今回のアメリカ文化大革命のラウンド「破四旧」の目的は、アメリカの歴史を再構築し、植民地主義の歴史を黒人優位の歴史物語に変えることです。 南北戦争時の南軍司令官ジェファーソン・デイビス元大統領 アメリカの新世界を発見した航海士ロバート・リー、アメリカ大陸発見者のコロンブスが、どれも攻撃目標になりました。

 反人種差別活動家たちは、人種差別者の像を倒すことを差別との闘いの重要な一歩と考えました。ボストンのコロンブス像が10日に「斬首」された後、民族主義者や植民地主義者の像がペンキをはねかけられたり、落書きされたり倒されたり様々な方法で狂ったように打ちこわしに会いました。

 公民権団体「南部貧困法センター」によると、米国の公有地には南部連合軍の記念物が1747個、780体の像と記念碑、南軍の軍人や政治家の名前にちなんだ103校の公立学校、南軍の軍人や政治家の名前にちなんだ10校の公立学校や「アメリカ連合国」(南部連合)の将軍などにちなんだ軍事基地があります。

 「アメリカ連合国」は1861年から1865年までの間に、アメリカ南部の11の奴隷州によってアメリカから脱退した政権です。これらの像は奴隷制度の象徴となり、最近ではデモ隊の怒りを発散するためのオブジェと化しており、多くの像が倒されたり、ペンキや落書きされています。

 デモ参加者の怒りに直面して、各州の政府(デモの暴力はほとんどが民主党の州で発生した)は、大半がデモ隊に迎合、慰撫する態度を見せ、民主党の主要なリーダー、下院議長ナンシー・ペロシは、黒人に跪く儀式を行うことに加えて、”紅衛兵リーダー”の要求に応じて、10月10日に公然と国会議事堂にあるジェファーソン・デイヴィス、南北戦争時の南軍司令官ロバート・E・リー ロバート・リー)など南連邦大統領を含む11体の「アメリカ連合国」指導者の像の撤去を求めました。ペロシは、これらの像は歴史的遺産ではなく、憎しみへの賛辞であり、絶対撤去しなければならない」述べました。

 また、南軍の将軍にちなんで名付けられた軍事基地が全米に10カ所あり、エスパー国防長官をはじめとする国防総省のトップが最近コメントし、名前の変更にも対応しています。

 しかし、ドナルド・トランプ大統領は、基地は「偉大なアメリカの伝統の一部」であると述べ、「米国はこれらの『聖地』で英雄を訓練して配備し、2度の世界大戦に勝利したのだ、私の政権は解明など根底から考えていない」と厳しくツイッターで拒絶しました。

 ★米国文革は馬鹿騒ぎ段階に突入

 「黒人の命は尊い」運動から始まって「ポリティカル・コレクトネス」は新たな波を迎え、米国版文革は馬鹿騒ぎのハイな状態になりました。一つは教育革命で、この現象は米国の教育界が長年、集団として努力してきた左傾化の結果で、これは大問題で、別稿で書きましょう。まず、指摘だけしておきます。

 二つには、「焚書」の呼び掛けです。2017年の米国版文革でもこの動きはありましたが、今回、また登場しました。ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)は反人種差別活動をうたいながら、人種差別の怨念を煽り立てるメディアです。

 今回、「あなたの本棚は問題の一部」という記事を掲載しました。筆者のホワン・ダブリルは、米国の歴史上、人種主義にかかわる書籍、映画、ポッドキャストは大変多く、リストを作ってあらゆる白人視点からの創作作品を除去すべきだと考えています。

 彼は「植民地化をやめるべき君の本棚」という焚書活動を奨励し、アメリカ人の精神を長年悩ませてきた植民地主義的な物語、文学概念への積極的な抵抗と放棄であると断言しています。一言で言えば、白人の作家や現在の秩序を支える支配的な価値観を排除しようということです。

 「風と共に去りぬ」は、百年も前からある不朽の文学的傑作ですが、長年、反人種差別の旗印の下で極左から長い間狙われてきました。アメリカの有料ケーブルテレビ放送局HBOは、この作品と関連する映画やテレビ番組の作品のダウンロードを率先してやめると”自己変革”しました。

 この本の主な「罪」とされたのは「白人の視点」です。著者のマーガレット・ミッチェル(1900〜1949年)は80年以上前の黒人の平等な権利運動に関心を寄せ、彼女はこの本から得たお金で、黒人のトップ大学であるモーハウス・カレッジに通う学生を毎年10人の学生を支援するた奨学金を設立しました。彼女の財団は、年俸10万ドル以上の「米国黒人研究科長」という役職を創設し、現在も存在しているのですが。

 ★「革命」の棍棒を共鳴者にも振り下ろす

 米国版文革は、すさまじい勢いで自らの支持者をにも襲い掛かります。 ハリー・ポッターの作者であるJ.K.ローリングは、女性には生理的特徴があると主張し酷評されました。その理由は、LGBTI((レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーセックス)コミュニティの主流は、無性愛こそ正しいと信じているからです。

 左翼メディア人のダン・エイブラムスがプロデュースした 警官のテレビ番組はキャンセルされ、学生にマーティン・ルーサー・キング牧師の手紙を朗読したUCLAの白人教授はクビになってしまいました(その手紙の中に黒人に非礼の言葉があったとして)。

 中国の文革では、子供が親に反旗を翻して親が殺される事件が後を絶えませんでした。最も有名なのは劉少奇の娘の劉濤でした。最悪の結末を迎えたのは張紅兵の母親で、張紅兵から密告され射殺されてしまいました。

  アメリカでは10代の少女に、親が「ポリティカル・コレクトネス」に反する内容を子供に話したところ、こっそり録音され、その子は「親を恥じている」と主張してネット上に公開し、両親には悪罵が殺到しました。

 はるかに離れた英国のBBCもこの文革に参加しました。「1984年」の著者ジョージ・ウォーエルの銅像をビル前から撤去すべきだとしたばかりか、古い話を持ち出して、文革を「辞書」にまですすめるべきだと言い出したのです。それは、故ボクシングチャンピオンのモハメッド・アリが1971年にBBCの司会者マイク・パーキンソンのインタビューを受けた際に、自分が子供のころ、いいものは全て白だったのに疑問を持った。黒色はみな悪いものだった。「なぜ、告げ口をブラックメールというのだ?ホワイトメールでいいじゃないか、連中だってうそつくんだから」という話を掲載したのです。

 ★米国の文革は中国文革の兄弟

中国の文革の特徴は、すべて米国文革にみられます。

 ⑴ 「破四旧」は、文革時期の毛沢東と中央文革(当時の全国最高権力機関)と米国民主党の州知事、市長、国会議員は同じ反応を見せています。毛沢東は、紅衛兵がうまく「破四旧」を行えるようにと、1966年8月22日に、公安部からの「革命的学生運動を鎮圧することを厳禁する」報告を批准しました。

 「警察官がいかなる口実でも革命的学生運動に干渉したり、弾圧したりすることは許されない」「警察官が学校に入ることは許されない」ことを繰り返している」「殺人、放火、毒殺、破壊工作、国家機密の窃盗などの確かな証拠を持つ活動的な反革命派を除いては 選挙期間中は法律に基づく場合を除き、逮捕してはならない」となっています。

 一方、アメリカの民主党政権の州は「警察の予算を無くせ」で、デモ隊のデモに出会えば、どこでも警察は撤退します。 この間、警察官がいくら合法的に法を執行していても、何かあったら民主党政権から見放されてしまいます。 アトランタの警察官ギャレット・ロフは通常の法執行中に黒人のブルックスを射殺したら、事実究明より先に、黒人市長から解雇されました。

 ★「破四旧」を激励するメディア

 文革の「破四旧」では、新華社がずっと褒め称える報道を繰り返しました。1966年8月23日付人民日報の「大いに結構」(好得很)では「多くの地方の地名、店の書体 大小を問わず、サービス業の固定観念や悪い習慣の多くは、いまだに封建主義や資本主義の腐った空気を漂わせ、人々の魂を毒している。革命的大衆はこれ以上これを容認すべきではない! 」「何千人もの紅衛兵が鉄の箒を掲げ、数日のうちに搾取階級のイデオロギーを代表するこれらを撤去するだろう。来たれ大掃除!」と書いています。

 一方、「文革米国版」は、民主党の大物たちが満場一致で支持し、民主党のナンシー・ペロシ下院議長が議事堂から、11の歴史的人物の銅像撤去の意向を表明した後、6月15日には民主党が創始者と仰ぐジェファーソンの銅像が、オレゴン州で、民主党の現在の基盤となる ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter・「黒人の命は大切 」)によって引き倒されました。ニューヨーク・タイムズ紙、CNNなどアメリカの主流メディアは、このような行為を称賛しています。 あらゆる都市で暴力が出現する中でも、日常的に「平和的な抗議」と称賛さるのです。

 ★「唯我独尊」の中国、「ポリコレ」の米国

 文革時のポリコレは「唯我独尊」でした。ある革命歌の歌詞は「革命に立ち上がれ、革命不参加はクズ。反革命のイヌの頭をぶっつぶせ」、「悪臭放つやつらをやっつけ、足で踏みつけ、永遠に叩き潰して絶対逃がすな」と、距離を置くことも許されません。革命落後分子にされて、「教育と改造」を受けさせられます。自分では賛成し難い、嫌悪するような行為でも、賛成させられてしまうのです。

 米国の「ポリコレ」は、例えば人種問題、政治的な傾向、LGBTIへの態度などデリケートな問題は、公然と論じない、トランプ大統領支持を公言することもはばかるという「高度な自律姿勢」を人々に取らせまし、オフィスでそんなことを口走ったらクビになる恐れもありました。

 これが、2016年の大統領選挙で、事前アンケートが無茶苦茶な結果となった理由で、大多数の人々が態度表明をせず沈黙していたからです。米国人は、いまやSNSの上でしか各種の意見を言えなくなっていますが、左翼たちは、BLMの暴力行為を含むデモに対しては、絶対支持しなければならず、「沈黙は暴力支持だ」(Silence is violence)と主張しています。

 アメリカの原点は、憲法に基づく法の支配と自由市場を、法の制約の下での個人の自由です。しかし、 左翼の米国版文革を始めたことは、「破四旧」が彼らの最終目標ではないことは間違いないでしょう。究極の目標は、ポリコレを利用して様々な意見をことにする人々をやっつけ、最終的には、米国の法の支配を覆し、憲法で保護された個人の自由と私有財産権を侵害し、米国を徹底的に変えることです。

  米国は、非情な現実を直視しなければなりません。それは、対外的な平和的進化やカラー革命が挫折した一方で、自国は、民主党などの極左勢力に「ポリコレ」を利用されて、次第に変化させれていることをです。(終わり)

 原文は;何清涟专栏:移除历史的美国「破四旧」、禁书——美国文革正在进行时(2)

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