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駄作MS Mk.Ⅴ mod1「MSM-05 ゴボ」

澎湃たる怒涛

 宇宙世紀0079年1月10日、ジオン公国はコロニー落としに失敗した。戦争勝利のために必ず成功させるべき作戦を失敗させてしまったジオンは地球降下作戦を発令、地球の占領による戦争の勝利を目指した。しかしいざ地球に降下してみるとあらゆる兵器・装備が不足していることにジオン公国軍は気づいた。地球にはあらゆる気候、あらゆる環境があり、それに対応した装備を開発する必要性に駆られたのである。

 特に地球の表面積の約7割を占める海の制圧、すなわち制海権の確保というのは海上交通と補給路の確保の上で最重要課題であった。地球降下作戦により地球上の重要拠点のいくつかを確保したもののそれらを繋ぐ補給線はまだまだか細く、それを妨害せんとする地球連邦の動きも活発化していた。
 当初ジオンは核兵器の運用が不可能になり大量に余剰が生じたザクⅡC型を水中戦仕様に特化させたザクマリンタイプの開発を進めていたが、結局ザクの改良だけでは十分な性能を確保できなかった。これを受け水陸両用モビルスーツの開発が推進されることとなる。

 MSM-03ゴッグを筆頭としたこれらジオン軍水陸両用モビルスーツ群のなかに、MSM-05ゴボという異端児が紛れ込んでいたのである。

ジオン重工業のニューカマー

 時は宇宙世紀0079年6月、当時まだ建設機械の開発製造メーカーだったスウィネン社は試作水陸両用モビルスーツ、MSM-04アッガイの開発に勤しんでいた。

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 アッガイの開発においてはザクと基本パーツを共通化させつつもザクのジェネレータを二つ搭載するという荒技によりジェネレータ出力の不足を解決し、手堅い設計により順調に開発が進んでいた。複座を採用したことによる幅広い運用とステルス性能の高さは特に評価されるところであった。

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 一方以前より開発が行われていたMIP社の新型水陸両用モビルスーツに関しては乗り越えるべき問題が多く、未だ実用化への道半ばというところであった(結局この機体は10月に正式採用、量産が開始されることとなる)。

 アッガイの開発が順調なことを受けスウィネン社はジオニック社に買収されることとなった。あくまで独立した開発部門として生き残りつつ、ジオニック社の高い技術、生産ノウハウを利用することができるという美味しい立場を得ることができたのである。
 スウィネン社社長だったヨハン・スウィネンはこれを足掛かりとして新たなモビルスーツの開発計画案をジオニック社上層部に提案、その中で軍からの要求と合致しており、直ちに開発すべきとされた機体が「水中専用モビルスーツ開発計画」だったのである。

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水中専用モビルスーツ原案 XMSM、通称「Wal(鯨)」

深海の斥候

 今までスウィネン社が開発してきたアッガイはあくまで「水陸両用モビルスーツ」であったが、そもそも「制海権の確保においてモビルスーツに陸上での機動性を持たせる必要性はあるのか?」という疑問からこの機体の開発は始まった。アッガイの開発に関わっていたエンジニアのオットー・リヒャルト・シュミット技師とシュラーゲ・ライスクーヘン技師はこの疑問をさらに突き詰め、運用場面を水中のみに限った上で水中での機動力を極限まで高めたモビルスーツを開発すれば制海権の確保において有利に働くであろうと予想した。
 当時ジオンには海軍がなく、海上戦力は数少ない潜水艦の力によって賄われていた。しかし海軍力という観点においては地球連邦海軍の力は侮れず、この戦力の不利を覆しうる新兵器が必要だったのだ。そこで彼らは一つの答えを導き出した。「潜水艦に小型潜水艇のようなモビルスーツを搭載し広い範囲を哨戒させれば潜水艦の不足を補って余りあるのではないか」と。
 モビルスーツであれば小型潜水艇よりも攻撃力は圧倒的に大きく、機動性運動性においても圧倒的に勝る。そして運用局面を水中に限定することによって陸上での性能を求める必要がなくなり、もっと効率的・理想的な機体開発ができると踏んだのである。

 この機体の運用思想は割り切った設計思想からかなりはっきりしたものとなっている。すなわち、潜水艦の艦載哨戒機または偵察機として制海権の確保を目的にしており、制海権を確保した後、水陸両用モビルスーツによる上陸作戦を行ったり、哨戒機による火力だけでは足りない場合に水陸両用モビルスーツを使った火力支援の後敵水上戦力を殲滅する、といったようなものであった。

 こうしてスウィネン社で開発が始まった水中専用モビルスーツは直ちにYMSM-05という型番が与えられ、「ゴボ」という名前も与えられた。

 ゴボの基本デザインはアッガイを踏襲したものとした。これはアッガイが期せずして高いステルス性能を発揮したことによるもので、アッガイの基本デザインを踏襲しつつも機体の各部は完全新規設計による新規開発機となった。

 水中専用モビルスーツということを考えれば冷却システムには豊富な海水を利用することが最も適しており、水冷システムが搭載された。MSM-03ゴッグにおいては水冷システムのせいで陸上での稼働時間が大きく制限されることとなったが、ゴボは陸上で動くことを考慮していないため完全水冷システムとなった。莫大に存在する海水によってほぼ無限と言ってもいい稼働時間をゴボは得た。

 陸上での歩行能力を当初から全く考慮していないため、脚部は丸ごと水流ジェットエンジンのスラスターとされ、足の爪にあたる部分は整流フィン兼用のクローを搭載した。また水中での機動性を高めるため両腕部も大型水流ジェットエンジンが搭載され、手の先には大型スクリューが搭載された。
 水流ジェットエンジンは高速航行時の効率と静粛性、推力変更による運動性には優れているものの、低速から中速においてはスクリューの方が効率が勝っており、30ノット近辺でその効率が逆転する。よって長距離巡航の場合にはスクリューを用い、隠密行動や緊急機動、高速航行の場合には水流ジェットエンジンを使うというハイブリッド機構が装備され、航続力の向上を果たした。
 水流ジェットエンジンとスクリューの組み合わせも水中での稼働時間をほぼ無限にしたと言ってよく、哨戒機及び偵察機として重要な航続距離と航続時間を確保し、単独での太平洋横断すら可能という目論見であった。

 圧倒的な航続距離と航続時間を生かすため、コクピットは複座となった。これによりパイロットを交代しながら長時間の偵察哨戒任務に就かせることができるようになっただけでなく、様々な偵察機器の運用を可能とした。
 そして水中での偵察に必要な機器としてソナーの搭載に踏み切った。水中における音を探知するパッシブソナーだけではなく、自ら音を発振しその反響音で索敵するアクティブソナーも装備した。
 ミノフスキー粒子の散布による遠距離探知能力の悪化はパッシブソナーを用いた遠距離索敵能力の重要度を低下させた。結果として潜水艦の浅海域での活動能力が重要視されるようになり、さらにこれがアクティブソナーの重要度を相対的に高めるという玉突き事故を起こした。それ以前の深海域での戦闘を重視した対潜戦闘がミノフスキー粒子によって大きく変化していたのだ。
 そこであえて敵の潜水艦を上回る潜航能力を持たせ、敵に探知されることなく偵察することを目標とし、潜航可能深度500mを目指した。連邦のⅧ型潜水艦及その潜水艦を改装したユーコン級潜水艦の安全潜航深度が300mであること、さらに潜水艦が浅海域での活動を主体にしていることを考えれば確実に優位を取れる設計である。

 高い機動性、ステルス及び静粛性を確保し、かつ深海域においても確実に攻撃ができること、そして偵察哨戒機であることを考えると武装はコンベンショナルな武装を選択することで確実性を重視するものとした。よって324mm短魚雷発射管を両肩部に装備するものとした。324mm短魚雷はすでに信頼性が担保された確実な兵装であり、魚雷だけではなく様々な弾頭を装備することで各種の攻撃オプションを選択することが可能であった。各種運用可能な弾頭として下記にいくつか挙げておく。

・短魚雷 G79
 通常型短魚雷であり、最も一般的な魚雷。深海域における性能も最も安定しており、あらゆる状況、あらゆる場面で安定して性能を発揮するが、速力30ノットと比較的低速であることが弱点である。
・酸素魚雷 G79o
 燃料として純酸素を用いることによって水中における気泡の発生を抑え、魚雷の被発見性を抑えることに成功し、効率が向上したことにより射程距離も伸び、速力も40ノットまで向上した。しかし危険な物質である純酸素を管理することが必要とされており、信頼性に乏しい。
・ホーミング魚雷 G79s
 音響探知機能を用いて敵をホーミングする機能を持った短魚雷で通常型短魚雷の改良型。テスト時の命中精度は高いが、音響ジャミングなどの対策法がすでに構築されており実際運用する上での命中精度は担保できない。
・水中高速魚雷 G79t
 高温式ヴァルタータービンを採用した高速魚雷であり、水中での速度は60ノットを記録する高速の魚雷であるが、ヴァルター機関故の信頼性不足と整備の複雑さ、燃料に必要な化学物質の管理など越えるべき障壁が多い上、深度が変化すると速度も変化してしまうという問題点もあり使える局面はごく一部に限られる。
・水中超高速魚雷 G79sk
 魚雷の速度を最も制限している水の摩擦抵抗を解決するために「スーパーキャビテーション」と呼ばれる効果を利用する方法が研究されていた。これは魚雷の先端から気泡を放出し魚雷全体を気泡で覆うことによって魚雷を水に触れさせず、それにより摩擦抵抗を圧倒的に軽減するものである。スーパーキャビテーションとロケットエンジンを使った推進により水中での速度は300ノット(555km/h)以上を記録し、「水中ミサイル」とも呼ばれるものである。
・サブロック G79wb
 これは魚雷発射管から発射される対潜ミサイルである。水中で発射されたサブロックは海面から飛び出し空中を高速で飛翔、目標地点で弾頭を切り離し、弾頭は爆雷として海中に落下・沈降し、設定した深度で爆発する。魚雷よりも敵に探知されづらく、アナログな仕組みの爆雷は確実性が高いことが強みであるが、口径が小さいことにより爆雷自体の威力は低いことがデメリットである。

 魚雷は水中での速度がゴボよりも遅いためゴボの機動力を攻撃に活かすことは難しいことが問題であった。よって水中超高速魚雷の運用を前提としたかったが、燃料である過酸化水素の管理に手間取るという問題が付き纏っていた。

 スーパーキャビテーションの利用は機体にも及び、機体頭部左右には気泡発生装置を装備した。これを利用することによりいたずらに機関出力を増やすことなく水中での高速性を確保することを目指した。

 機体サイズは18.2m、本体重量は78.8トン、全備重量は142.5トンというサイズになり、アッガイと比べてひとまわり大型化、ゴッグとアッガイの中間というべき機体サイズになった。

誕生、ゴボ

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YMSM-05 V-0 ゴボ試作1号機

 かくして、YMSM-05ゴボは完成した。基本のデザインはアッガイに近づけつつも、陸上での機動性を考慮しないことによって今までにない斬新な設計となったゴボは、ジオン初の「水中用モビルスーツ」という機体となったのである。
 そしてゴボは完成すると間も無く技術本部に回されることとなったが、試験を行うことなく正式採用が決定され、先行量産型としてMSM-05 V-1の生産を開始するようスウィネン社に対して指示が下った。この正式採用に関してはジオン軍海兵隊を指揮下に置いていた突撃機動軍指揮官キシリア・ザビ少将の指示があったようである。すでにジオン地上軍の補給線は伸びきっており、一刻も早くモビルスーツを戦力化して前線に送り届ける必要があった。特に水陸両用モビルスーツの投入によるシーレーンの確保は伸びきった補給線の解決には必要として前線からも強く要求されていた。逼迫する戦況に対し、「使えるものはなんでも使う」ことを強いられる状況になっていたのである。
 当時アッガイの生産はジオン地上軍キャリフォルニアベースにおいて生産が行われており、スウィネン社の生産ラインは空いているということもゴボの生産を助ける結果となった。

 この機体のテストに関してもスウィネン社のテストパイロットではなく海兵隊から派遣されたパイロットがテストをすることとなり、そこでやってきた男がナクファ・ブル・ドブラ海兵隊中尉であった。彼は地球降下作戦の後モビルスーツパイロットとしての実戦経験を重ねており、より実践的な運用評価が可能であるとの見地に立ったものであった。

 サイド3で性能テストをしたところ、腕及び脚の可動式水流ジェットの調整に手間取り機体本来の運動性が発揮できていないという問題点が明らかになった。この調整に関してはスウィネン社単独での解決は難しく難航するとみられたが、これもジオン軍上層部からの命令によりツィマッド社の技術協力を仰ぐことができた。水中という状況は宇宙に状況が近いと言え、ツィマッド社の高いスラスター技術を生かすことができたのである。

 この改良を受けたゴボの性能試験は順調に進み、水中での速度は130ノット、241km/hという圧倒的な高速を記録した。耐圧試験においても安全潜航深度500mを確保し、設計した性能を確保していることが確認された。そしてドブラ中尉は特にこのゴボの性能を評価し「直チニ実戦配備スル可シ」との評価を下した。
 一方で機体に装備されたスーパーキャビテーション装置に関しては疑問の余地があった。機体の形状が流線型でなくスーパーキャビテーションに適していない形状ということが問題となり、わざわざ装備する必要性は低いということから機体のスーパーキャビテーション装置は撤去することとなった。これにより量産機の最高速度は110ノット、203km/hに制限されることとなったがこれでも圧倒的な高速であることに変わりはなかった。

 実戦部隊配備に向け、まずゴボ先行量産型5機が確保され、ドブラ中尉を指揮官としたゴボ実戦運用試験部隊が編成、地球への降下と実戦で運用しながらデータを収集、それに合わせ機体を改修し、そしてそれを生産機へフィードバックしつつ量産するという突貫工事ともいうべき方法が決定された。そしてゴボ開発に関わっていたブルーノ・フォークト技師も同様に地球へと派遣されることが決定した。

 かくしてゴボ、そしてドブラ中尉は地球圏へと派遣されることとなる。彼らの戦いは、まだ始まったばかりだ......!!

(mod 2、「ゴボ実戦投入編」に続く)

モビルスーツイラスト原案 : るお氏
モビルスーツデザイン : もちろっく氏

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