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イタリア戦艦リットリオ級に見るイタリア人の努力

前回長々と装甲の話をしたのは実はリットリオ級戦艦の話がしたかったからです。装甲の話があまりにも長くなりすぎたので分割することにしました。

以前僕が大好きな戦艦ヴァンガードについてこのnoteで触れたのでその記事もついでに貼っておきます。

さて、前回長々と装甲について説明したのは今回の記事のためだったりします。結局僕が言いたいのはイタリア戦艦リットリオ級の凄さ、ということです。イタリアというのは国力が非常に弱く、第二次世界大戦では日本とよく似たことをしていたりするんですが、日本人は結構イタリアのことナメてる感じがしていてなんかアレなんですよ。まあ実際ヘタリアなんですけど。

日本は戦艦大和を2隻しか作れなかったけれども、イタリアはリットリオ級戦艦を国力不足に苦しみつつも4隻を完成させたという事実、そして製造能力不足を原因として40cm砲を開発できない中で15インチ、38cm砲を採用し、世界トップクラスの火力を持たせたりしてた事実。この努力を評価せずにいられるものかというわけです。

このリットリオ級の38cm砲はさっき上げたように製造能力の問題で主砲口径が小さくなってしまったという問題があるのですが、その代わりに主砲の砲身を伸ばして砲弾の初速を上げています。砲弾の初速を上げると中〜近距離における舷側装甲の貫徹能力が向上します。実際に日本軍の41cm砲と比較しても舷側装甲の貫徹能力はどの距離においても優っていて、非常に優秀な大砲だということがわかります。

ただし初速の速いタイプの大砲は砲弾の位置エネルギーが通常の砲よりも小さくなるので遠距離における甲板装甲の貫徹能力は劣るという傾向にあり、このリットリオ級の38cm砲に関しても同様の傾向で41cm砲には甲板装甲の貫徹能力は全ての距離で劣ります。

アメリカやイギリスのように初速を下げてでも砲弾重量を増やして遠距離側の貫徹能力を上げる方が合理的なようにも思われますが、欧州での戦艦の戦闘が概ね20000m近辺で行われたことを考えると結果的にはその砲の選択でも正しかったかもしれません。とはいえ地中海という戦場は霧が発生するわけでもなく、偶発的至近距離での殴り合いがあるかと言われるとまた微妙でもあります。

結局40cm砲を製造できなかったということと、36cmではライバルフランスのリシュリューなどと比べ火力不足だということを考えると38cm砲という選択は自らの国力と比べてもっとも合理的な主砲の選択だったということだけは明らかです。

さらには14万馬力という大馬力機関により巨大な船体を30ノット以上で走らせることが可能で、仮想敵とされたフランス海軍のダンケルク、リシュリューと比較しても総合力で上と言えるでしょう。

そして僕が一番語りたいのはリットリオ級の防御に関する涙ぐましいイタリア人の努力です。

軍艦の装甲も戦車の装甲と同様に傾斜させることで防御性能を向上させるという試みが行われていましたが、傾斜させることによって船内容積が減ってしまうという問題もありました。なので一時傾斜装甲を導入したイギリスものちに垂直装甲に立ち返っています。

しかしリットリオ級は防御力を向上させるため、350mmという分厚い舷側装甲を、しかも傾斜させて配置するという重防御を誇っています。これは40cm砲を搭載していたネルソン級戦艦よりも分厚い装甲です。

この装甲の開発に関してもイタリア人の涙ぐましい努力の痕跡が見られて非常に感動的です。

リットリオ級戦艦の舷側装甲は下の図のようになっていて、表面に70mmの硬化装甲、そしてもっとも内側に280mmのKC鋼、間に木材を挟むという構造になっています。

なぜこんな複合装甲になっているのか。

本来は350mmの一枚の表面硬化装甲を採用したかったはずなのですが、イタリアの製造技術では350mmの分厚い表面硬化装甲の製造は困難でした。これは日本海軍の大和の事例ともかぶります。

そこで70mmの硬化装甲を張り、それに280mmの浸炭処理を施した表面硬化装甲を組み合わせる、さらにその間に木材を挟み砲弾の減速効果を期待するという複合装甲な訳です。280mmの装甲も表面硬化処理が施されているのですから、硬化されている厚みがKC鋼の1/3の90mmとしても全体で硬化された装甲の厚みは160mmあり、かなり硬い装甲と言えます。

ただの複合装甲ではなく、間に木材を挟み空間装甲的な効果を発することを考えても、イタリア人がイタリア人なりに必死に考えて考えて導き出した最適解がこのリットリオ級の装甲だったんじゃないかと思います。

そして戦艦大和でよく言われ、多くの戦艦に共通する「副砲の装甲が薄いという弱点」に関してもリットリオ級は副砲の装甲に280mmという分厚い装甲を与えることで答えを提示しています。

主砲弾薬庫と副砲弾薬庫が近いという問題はありますがそれが誘爆につながる例というのはかなり稀で、しかも副砲に十分な装甲が施されていることを考えても問題ないと言えるでしょう。

まあ、不運にも3番艦ローマが主砲と副砲の間に爆弾を食らって誘爆して沈んだりしたんですけどね。ハハハ……。

とにかくイタリア海軍はその国力、予算に比して非常に有効な戦艦戦力の整備を進めていたという感が非常に強い。もちろん海軍自体は日本に比べて弱小で、特に戦艦以外の艦艇の貧弱さは否めないけれども、戦艦というシステムに関しては日本より優っている部分もあるし、ドイツなんか軽く上回っていてドイツは反省しろとしか思えません。

イタリア海軍は旧式戦艦の砲塔を一個外してそこにエンジンを詰め込み、低下した火力は主砲の内側を削って口径を拡大することで補い、艦首を延長して抵抗を抑え、空いた両脇のスペースに水雷防御システムを押し込むという無茶苦茶改装を行っていたり、本当に涙ぐましい努力があるのです。

貧乏くさいと言っても、できる範囲で最大の効果を発するような戦力整備をすることが最も重要で、八八艦隊計画ですでに国家の予算が破綻することが見え透いていたのに戦艦大和に至ってまたも無茶な7隻もの建造を予定していたどっかの海軍や、20年前の技術を使って最新鋭戦艦を作ることしかできなかったどこかの海軍とは違うんです。

貧乏だからこそ貧乏なりに最大限の効果を発揮する戦力整備、それがイタリア海軍なんです。

結論としては欧州最強戦艦の座はヴァンガードとリットリオ級によって争われる、というのが僕の結論なのですが、みなさんいかがでしょう。

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