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駄作MS Mk.Ⅱb「EMS-04B ヅダ先行量産試作型」

前回のあらすじ

 前回はヅダ試作までのいろいろについて語ってきましたが、実はあれは前日譚であって今日の記事が本題という、壮大な前振りになっております。ヅダ開発計画第二部、スタートです。

前回の記事はこちら

 前回の記事をまとめますと、ジオンは来たる戦争に備えて新型兵器の開発を要求、ザクとヅダが完成。当初圧倒的な性能だったヅダだったが、空中分解事故を起こしたことで風向きが変わりザクが正式採用されてしまう。しかしヅダに対しても引き続き開発を続ける許可が下り、ツィマッド社はヅダの改良に向け邁進していく。

迷走する開発

 ヅダの空中分解問題を解決する方法はいくつか存在したが、そのどれもが技術本部からの命令に反するものであった。技術本部からの命令はただ一つ、「ヅダの性能を維持したまま空中分解しないよう改修をする」ということだった。

・木星エンジンの改良
 暴走するという重大な欠点を持っている木星エンジンの問題を解決する必要があるが、この木星エンジンの改修は一向に進んでおらず、開発に間に合いそうになかった。

・機体の強度向上
 空中分解することを回避するには強度の向上が選択肢の一つであったが、機体重量が増加することにより運動性能の低下は必至であったため、実質的に不可能な選択肢であった。機体の抜本的な再設計もまた、開発に時間がかかる為選択することができなかった。

・スロットルへのリミッター装備
 リミッターを装備することで空中分解の危険性をある程度回避することが可能だったが、これも同様に運動性能が低下してしまうため不可能な選択肢であった。

 ザクと比べて1.8倍ものコストが必要なヅダは求められる性能も高く、その性能を維持しなければならないという要求はツィマッド社を縛り続ける呪いとなっていたのだ。
 一方でジオン公国はまずYMS-05をMS-05ザクⅠとして正式採用したものの、技術本部はツィマッド社と同様にヅダの正式採用に対してはまだ諦めていなかった。
 そして技術本部においてモビルスーツの開発と生産を統括していた機動兵器総監のエアハルト・ウーデット大佐は特にこのヅダを評価しており、高性能な指揮官機やエース機としてヅダを一定数配備し、ザクと組み合わせた「ハイローミックス」による戦力向上を目指していた。具体的には機動性と運動性に優れたヅダを遊撃戦と白兵戦に特化させ、ザクは支援用MSとしてヅダの突撃を援護するという協力戦術が考えられていた。

 しかしヅダの開発計画は長々と引き伸ばされていた。ジオニック社はすでにザクⅠの改良(後のザクⅡ)に着手しているにもかかわらず、ツィマッド社はいつまでもヅダの改良計画案を提出できていなかった。
 これをギレン、ドズルは強く問題視し、「既に不採用通知を出したはずのモビルスーツヅダの開発続行は時間と資金の無駄遣いであるため、可及的速やかに開発を中止し主力モビルスーツはザクに統一すべし」との圧力を技術本部長のアルベルト・シャハト技術少将にかけてきた。ヅダの開発には軍の予算が投じられており、予算の無駄遣いは見逃せない問題だった。ヅダの改良計画が提出されない場合は直ちに資金を引き揚げ、開発続行するとしてもあくまで独自開発とし、ツィマッド社に対してはザクの部品製造を任せることでモビルスーツ計画に参加させてバランスを取ろうとした。
 シャハト技術少将はヅダの高性能を認めつつも、彼がザビ家ではなく政治的に弱い一介の技術本部の長である以上、微妙な舵取りが求められていた。そしてウーデット大佐にヅダ開発計画の取り扱いについて早急に答えを出すよう求めた。

一筋の光明

 ウーデット大佐はツィマッド社に対してヅダの改良案を直ちに提出するよう指示したが、ツィマッド社はついにそれを提出することができなかった。それを受けてウーデット大佐はツィマッド社に対し、ヅダ開発計画延命への一つの案を提示した。それは「ザクのエンジンを搭載した先行量産型を製造する」ということであった。
 ザクのエンジンであればすでに実用可能な性能であり、暴走の危険性は低い。よってヅダの空中分解問題を簡単に解決でき、先行量産型を製造できる状態であるということをアピールすれば開発計画の延命が可能であるという目論見だった。

 一方のツィマッド社はこの案に対して強く反対した。そもそもエンジンの開発に自信があるツィマッド社がライバル会社ジオニック社のエンジンを搭載するというのは屈辱であったからだ。特に木星エンジン開発チームはこれに猛抗議し、改良型の土星エンジンが開発中であるとして断固反対した。
 しかしこのエンジン換装案はあくまで先行量産型としてのヅダでありこれをヅダB型とし、木星エンジンの改良ないしは土星エンジンが完成した後にこれを搭載したヅダをC型として本格的に量産するという計画を立てた。つまりエンジンの問題を解決するまでの繋ぎとしてヅダB型を生産し配備するという予定で、これにはエンジン開発チームも背に腹は変えられないということで渋々同意した。

 そしてツィマッド社はヅダ先行量産試作型、ヅダB型の開発計画を提出した。既存のエンジンを利用することによる空中分解問題の解決は現実的かつ現状選べる唯一の選択肢であり、シャハト技術少将もこれに許可を出した。かくして、ヅダ開発計画はなんとか延命に成功した。

 この計画にはジオニック社も強く反対した。ジオニック社からすればライバル企業の不採用の烙印を押された機体の改良のために自社製エンジンを供出せよというのは理解不能な命令であり、しかも目下ザクの改良型を開発中であったためだ。しかし技術本部からの命令とあっては流石のジオニック社も無視することはできず、ヅダ先行量産試作型の開発はスタートした。

破れ鍋に綴じ蓋、を目指し...

 ジオニック社から提供されたスラスターはザクⅠに搭載されていたスラスターと同型であった。ツィマッド社は新型のザクⅡ用のスラスターを要求したが、そればかりはジオニック社も譲れないポイントであり、どうしても叶わなかった。

 ザクⅠのスラスターもある程度の推力偏向にも対応しており、それをヅダの可変ノズルに搭載した。木星エンジンと比較してサイズの小さいエンジンではあったが、本来ヅダに搭載するためには作られていないため、この換装の設計変更は若干の時間を必要とした。しかし目立った障壁はなくヅダB型の開発は完了した。
 かくしてヅダB型は基本的なチェックを終え、テストに回されることとなった。テストパイロットは引き続きジャン・リュック・デュバル少佐が務めていた。

 テストは順調に進んだ。エンジンの暴走問題は完全に解決され、可変ノズルによる推力偏向も全く問題なく稼働、推力の制御に若干の問題を抱えつつもすぐに修正可能な問題であった。課題の飛行試験においても空中分解は起こさず、機体への負荷は予想以内に収まっていた。これを受けてツィマッド社の幹部はほっと胸を撫で下ろした。そしてヅダB型は正式採用され......ることはなかったのである。

みにくいヅダの子

 ヅダB型に関しては完全に大きな落とし穴があった。それは木星エンジンからザクⅠのエンジンに換装したことによる推力の大幅な低下である。ヅダの重量はザクⅠと大差なく、その運動性は木星エンジンの推力に完全に依存していた。
 しかしエンジン換装により推力は大幅に低下し、それは割合にして30%近いという無視できない差で、これは大幅な性能の低下を招いた。可変ノズルとAMBAC機構の組み合わせによる高い運動性も受け継がれてはいたもののその効果は大きく低下し、速度性能はザクⅠと比較してほぼ同じ、運動性能に多少の違いこそあれどほぼ誤差範囲という結果は予想できたとはいえ、開発者たちを現実に直面させた。何より木星エンジンの換装によりコスト問題は多少解決できたとはいえ、依然ザクよりもコストが高いというところに変わりはなかった。

 軍からツィマッド社に出向していたデュバル少佐もこのヅダB型を酷評し、「このような機体はもはやヅダではない」として、評価に値しないと一喝した。
 技術本部もこのヅダB型の性能に関しては擁護できないという立場であったが、ウーデット大佐は何がなんでもヅダの正式採用を既成事実化して木星エンジン搭載のヅダC型の開発につなげるしかないと考えており、ウーデット大佐自らヅダB型に搭乗し正式採用へのアピールとした。
 ウーデット大佐のこの焦りに対しシャハト技術少将はもはや彼にまともな判断能力はないと考えつつあった。そこでシャハト技術少将はウーデット大佐に休暇を取らせ、その間にヅダB型に対して「実用評価試験に値しない」として不採用通知を出すという決断をした。ウーデット大佐は自分の頭上を超えて勝手に決定が下されたことに対して強く抗議したが、この決定は覆ることがなかった。

 ヅダB型の不採用には他にも様々な要因が報告書に記載されているため、以下に記載しておく。

・性能不足
 前述の通りヅダB型はザクに対する性能の優位が失われており、量産する価値はないと判断された。

ザクのエンジンを搭載することによる生産阻害
 
ヅダB型はザクのエンジンを搭載することで空中分解問題を解決したが、ヅダB型を正式作用した場合エンジンの生産数には限りがある為、既に主力MSとして採用されたザクの生産を阻害する可能性は濃厚で、並行して生産するメリットが見出せなかった。

・ジオニック社の判断
 
ジオニック社は以前MS-04ブグを開発し正式採用されているが、ブグは性能重視の機体であるがゆえに高コストという問題が響いて生産数は少なく終わってしまった。この経験を活かしたザクはコストを抑えつつも一定の性能を確保していることが軍幹部にも高評価であった。

・パイロットたちの反発
 すでにパイロットたちはザクに慣れつつある中で新たなモビルスーツの配備は転換訓練も必要であり、強い反発を生んだ。そしてヅダは空中分解を起こしたという悪評が常につきまとっており、それもパイロットたちの不安を煽る結果となった。

・ザクⅡの完成間近
 ザクⅠのさらなる改良型としてザクⅡの完成が目前に迫っていた。この状況でザクⅠと性能がほぼ変わらないヅダB型は存在意義が薄い、非常に中途半端な機体になってしまった。そしてそれも空中分解問題の解決に手間取り、開発が遅れたことに起因する問題であった。

・弾薬補給問題
 ザクの武装パッケージはシンプルでマシンガンかバズーカの二択という点が補給の上で有利だった。しかし、ヅダは3種類の弾薬を使い分けるという点でザクに劣っていた。
 その上肝心の75mmアサルトライフルAR-75P1は対艦戦闘における貫通力がザクマシンガンよりも劣り、135mm対艦ライフルに関してもザクバズーカと比較して使用できる弾頭に限りがある上、戦艦に対する破壊力はバズーカよりも劣っていた。よってヅダの武装パッケージに関しても同様に不採用という結果が出た。

・ヅダB型はただの繋ぎにすぎない
 ヅダB型はあくまでただのつなぎであり、木星エンジンが実用化し次第ヅダB型は前線から退役予定とされていた。いつ完成するか不明のヅダC型の繋ぎのためにヅダB型をわざわざ採用する価値はほぼないと判断された。

 ヅダB型は3機が製造されたところで生産中止の命令が下り、ザクとの比較評価試験も行われぬままツィマッド社本社の倉庫で埃を被ることとなった。

波乱は止まらず

 ヅダ開発計画が長く引き延ばされた末に改めて不採用となったことを受け、この問題の責任は誰が取るのかが問題になっていた。テストパイロットの一人が殉職したことも責任問題を加速させる結果となった。

 そしてその矢面に立たされたのは機動兵器総監のウーデット大佐であった。彼は自らヅダに搭乗して宣伝に加担していたなど、ヅダ推進派であったことはもはや隠すことはできず、さらにヅダB型の不採用に対しても強く反発していた。休養中であったウーデット大佐が休養を終え帰ってくると、彼にはギレン直属の親衛隊からの事情聴取が待っていた。
 彼の疑惑は「ツィマッド社との癒着」「公国の兵器生産計画への妨害行為」「公務の私物化」であったが、ツィマッド社の贈賄や彼の収賄を裏付ける証拠はなく、癒着は嫌疑不十分とされた。しかし生産計画への妨害と公務の私物化において責任があるとし、機動兵器総監を解任される結果となった。
 ジオニック社は半官半民という要素が強く政治力が強い企業であり、ウーデット大佐は軍における居場所を完全に失い、失脚。彼は地球連邦への亡命を望んだものの叶わず、亡命計画が発覚すると国家反逆罪により銃殺刑とされた。

ゴーストファイター、ヅダ

 戦局が厳しくなった宇宙世紀0079年10月、ギレン・ザビは技術本部長のシャハト技術少将に対しヅダをプロパガンダとして利用するよう命令した。シャハト技術少将はEMS-04AヅダA型をEMS-10ヅダと改番した上で外装を変更するよう命じ、「ヅダの性能を維持したまま空中分解問題を解決することに成功した」と喧伝することとした。これが今有名なゴーストファイターとしてのヅダである。

 ツィマッド社では木星エンジンの改修に目処がたち、当時開発中の新型モビルスーツ「ドム」に「土星エンジン」として搭載してテスト中であった。EMS-10ヅダはその土星エンジンの宣伝という意味も込めて土星エンジンに換装した新型機であると発表したが、実態は暴走問題を抱えた木星エンジンのままであった。
 土星エンジンの生産数は限られている上、ドムの生産と開発のために必要で、ゴーストファイターたるヅダに回せる土星エンジンなど存在するはずもなかったのだ。プロパガンダ映像の撮影中にヅダの暴走と空中分解が再発したのはその為である。

「ヅダの性能を維持したまま空中分解問題を解決する」これが最後までヅダを苦しめる呪いとなってしまったのだった。

 一方でザクの開発に大きく関わり、テストパイロットも務めていたエリオット・レムはザクがヅダに敗北したと強く感じていた。そして彼はザクをヅダに勝るモビルスーツとする為ザクの改良に務め、それが高機動型ザクそしてゲルググの開発にまで繋がっていくこととなる。

 その後ツィマッド社では木星エンジンを改良した土星エンジンの完成をもってヅダC型の開発が可能になったとし、改めて技術本部に対しヅダC型の開発許可を求めたものの「ツィマッド社はドムの生産と次期主力MSの開発に注力せよ」との指示が下った。
 ツィマッド社は戦時総動員体制によりジオニック社との協力関係を強いられており、目下開発中のゲルググにもスラスター関係で技術提供をしていた。しかしヅダ開発チームは改めてヅダが間違っていなかったことを証明する為ペーパープランのEMS-04CヅダC型を軸に白兵戦特化型MSを設計、開発した。それがのちにYMS-15、そしてMS-15とも呼ばれるモビルスーツ「ギャン」であった。ギャンの運用思想はリック・ドムの援護の下白兵戦を仕掛ける「歩兵」であり、そしてその運用思想はヅダにおいてツィマッド社が実現したかったモビルスーツ同士の協力戦術に酷似していた。

 しかしギャンもまた正式採用はされず、やはりコンペで自社が協力し、ジオニック社が開発したゲルググに敗北してしまった。だが、ギャンの基本設計の優秀さはのちにガルバルディα・βとして結実し、それを証明することとなる。
 そして残ったヅダA型とB型に対しギャンの技術をフィードバック、土星エンジンに換装した機体が開発され、社内名称ヅダF型が一部製造されるもののこれも正式採用されることはなく終わっている。

 ザクに勝ったのに、勝てなかった。勝負に勝って試合に負けた。こうして死ぬに死ねなかったヅダの残留思念は、まさに呪いとしてジオンの系譜の中で脈々と受け継がれていったのである。

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