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駄作MS Mk.Ⅱa「EMS-04A 試作ヅダ」

両雄並び立つ

 ジオン公国は来たる地球連邦との戦争に備えて新たな機動兵器の開発を命じていた。それに対するジオニック社とツィマッド社、そしてM.I.P.社がそれぞれに機動兵器を開発し、そしてその中でジオニック社とツィマッド社がモビルスーツを開発し、そしてそれぞれにYMS-05とEMS-04という型番が与えられ、「ザク」「ヅダ」という名称が与えられた。

 後にEMS-04ヅダの外装だけを変えたEMS-10ヅダがゴーストファイターとして戦ったことはよく知られている歴史であるが、このジオンと、そしてツィマッド社の不採用モビルスーツ「ヅダ」について、紐解いていきたいと思う。

YMS-05 試作型ザクⅠ

 宇宙世紀0074年、それまで続けてきたモビルスーツ研究の技術蓄積でついに地球連邦との戦力差を覆せる機動兵器の開発の目処がたったジオンは、新型機動兵器の開発を要求した。

 YMS-05ザクの設計思想はツィマッド社のヅダとは異なるものであった。YMS-05ザクは艦隊決戦における運用を前提にしており、あくまで既存の艦載機や戦車の延長線上に存在する兵器であった。
 そしてその武装は来たる艦隊決戦において連邦宇宙軍を撃破するために考えられた武装であった。

・ザクマシンガン ZMP-47D
 ザクⅠのために開発されたザクマシンガンは105mmの大口径を採用し、対艦戦闘での優位を目指していた。宇宙空間で大口径砲弾の大きな反動を解決するためにブローバック機構を採用し、反動を軽減した。副次的なメリットとしてザクマシンガンの軽量化にも成功した。ブローバック機構により命中精度が低下したものの、連射速度を下げることで戦艦という大目標を攻撃する場合において実用的な命中精度を確保した。またこの構造の結果として銃口初速は低いものとなった。

・ザクバズーカ
 ザク専用に開発されていたザクバズーカに関しても同様で、宇宙空間で使える低反動砲としてのバズーカであった。砲弾は各種砲弾を使用可能であるが、一番の強みは核弾頭の運用を最初から前提としていたというところである。バズーカも銃口初速は低いが、大型目標である戦艦に対しては有効な兵装であった。

・対艦ライフル ASR-78
 ヅダが対艦ライフルを装備していたことに対抗しオプション装備として後に開発された。155mmクラスの大口径弾を射出する大型対艦ライフルでザクⅡなどにも一部装備されたものである。ヅダのAMR-135と比較した場合に銃口初速が劣るため、APFSDSではなく徹甲榴弾や成形炸薬弾(HEAT)を利用することを前提にした武装であった。

 そして、核弾頭の運用を前提としていたことからザクⅠは対核装備を施されており、ある種戦略兵器としての意味が強かった。

EMS-04A 試作型ヅダ

 一方のツィマッド社はあくまで人型汎用兵器としてのモビルスーツを目指しており、そしてそれは人間の兵士の延長線上にあるものだった。故に、モビルスーツが装備する兵装の設計に関してもザクとは大きく異なるものであり、人間の武器を軸とし、人間の兵士の運用から影響された運用思想が前提であった。

 そしてヅダにおいて最も重要な技術であったのがツィマッド社の技術を結集して作られた木星エンジンであった。通常のスラスターよりも重い元素を用いることによって推力の効率を高めることに成功、それを可変ノズルに装備し、AMBAC機構との組み合わせにより圧倒的な運動性を発揮させることが可能だった。

 ヅダは本来その木星エンジンによる大推力を生かした高い運動性と機動性で遊撃戦を仕掛けることを前提に開発されていた。後世のEMS-10ヅダがザクマシンガンやザクバズーカなど既存の兵装を利用しているのはあくまで武器弾薬の供給を安定させる為であり、当初のEMS-04ヅダにおいてはザクと同様にあくまで総合的な兵装のパッケージも込みで開発されていたのだ。

・75mmアサルトライフル AR-75P1(ZAR-45P)
 これは75mm対戦車砲の砲弾を流用した銃であり、アサルトライフルという名の通り万能な運用を考慮されており、セミオートとフルオートの切り替え、遠距離用スコープの搭載や近距離戦を考慮した伸縮式ストック(この伸縮式ストックがのちのMMP-78ザクマシンガンにも装備されている)、そして新兵がフルオートで連射して弾切れすることを防ぐための3点バースト機能など、用兵側に対する配慮がなされている。ザクマシンガンよりも反動の小さい75mmを利用することで連射した場合の精度を確保している。ヅダを運用する場合には基本的にこのアサルトライフルが通常仕様とされている。

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・105mmマシンガン M-105B1(ZMG-47P)
 ザクⅠに装備されたザクマシンガン(ZMP-47D)と弾薬が共通のマシンガンであるが、あくまでこれは分隊支援火器として開発されたものであり、歩兵におけるMMGに該当する機関銃である。ZMP-47Dよりも銃身を長くし貫通力が大きく、ベルト給弾システムにより高い支援火力を発揮できることが特徴である。ただし銃身が長いことによる取り回しの問題と、連射速度の速さと反動の大きさによる精度の問題があり、地上においてはバイポッドを使用しての運用が考慮されていたが宇宙空間において精度を確保する方法に苦慮していた。あくまで分隊支援火器でありメイン武器ではなく小隊に一機程度の配備を予定していた。

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・135mm対艦ライフル AMR-135(ZAMR-48A)
 後のEMS-10が装備していたとされる対艦ライフルと同様の装備である。ザクの装備していたASR-78と比較した場合に口径は小さいものの砲身が長く銃口初速が速い。機動兵器の開発目的である対艦戦闘という目的を果たすために開発された兵器であり、敵のマゼラン級の装甲をも貫通することが目標に開発された。宇宙空間において銃口初速の速いライフルは直撃させやすくバズーカよりも効果が大きいという見立てだった。弾頭は主にAPFSDSを装備しており、貫通力においては申し分ない。MS中隊に二機程度配備する予定であった。

・350mmバズーカ BZ-350P(ZBZ-49C)
 ザクバズーカに対抗して開発したバズーカだが、ザクバズーカの280mmよりも大きい350mmの大口径を採用した。核弾頭の搭載も考慮していたが、ザクバズーカに対して後発であり開発の遅れは否めなかった。

生まれ出る幻影

 そして宇宙世紀0075年、それぞれのモビルスーツの性能の比較が行われ、ヅダはザクを圧倒した。特に大推力エンジンによる圧倒的な機動力は数値上ザクを凌駕していた。

 そして行われたザクとヅダの模擬戦でヅダはザクを圧倒し、ツィマッド社は歓びに沸いた。パイロットたちからのヅダの評価も高く、大方の予想ではヅダが正式採用されるだろうと思われていた。もはやヅダに死角はなかったのだ。
 一方のザクは手堅い設計で、悪く言えばつまらない、よく言えば無難な設計であった。テストパイロットは主にジオニック社の軍属エリオット・レムが務めていた。

 そしてヅダとザクはそれぞれ飛行試験へと挑むこととなる。ザクに搭乗したのはエリオット・レムであり、ヅダに乗っていたのはテストパイロットのフランツ・メルダースであった。この試験においてヅダはモビルスーツの史上最高速度を更新することが期待されており、そしてそれはほぼ確実だと思われていた。そして公開で行われた飛行試験においてヅダはザクを大きく引き離し、ヅダの勝利は確実と思われた......。

しかしその矢先に木星エンジンが暴走、ついでその暴走に機体が耐えられず機体が空中分解した。記録更新がならないどころか、乗っていたフランツ・メルダースは殉職するという大事故だった。

 この事故により流れは大きく変わった。多くのパイロットから支持されていたヅダはパイロットたちに避けられる存在となり、彼らの多くは安全性の高いザクを支持する風潮へと変わった。

 またヅダの製造コストはザクの1.8倍という高コストで、資金や資源に限りのあるジオンにおいてヅダのコストは無視できない問題であった。これに関してもツィマッド社はもともと貧しいジオンでは量よりも質を重視すべきという論調を展開し、これにパイロットたちも同調した結果ヅダは優勢だったが、空中分解事故によりそもそもヅダはザクよりも質が高いのかどうかすら怪しいという風潮が生まれた。
 ジオニック社がツィマッド社を貶めるために機体に加工をしたという可能性が指摘されてはいたがそれを証明する証拠はなく、あくまで噂レベルである。しかしもう一人のテストパイロットであったジャン・リュック・デュバル少佐はヅダの優位を疑わず、機体の空中分解はジオニック社の裏工作だったのではないかと疑うようになっていった。

 この大事故に対して技術本部は寛容だった。ヅダがザクに対して圧倒的な性能であったために、正式採用の道を模索していたのだ。技術本部はツィマッド社に対して「ヅダの性能を維持したまま空中分解しないよう改修をする」ことを命じた。
 この命令を受けてツィマッド社は事故原因の追求と改修を進めることとなるのだが、機体の性能を維持したまま空中分解問題を解決せよというのはあまりにも困難な課題であった。

 事故の直接的な原因ともいえる木星エンジンの改修作業は難航していた。木星エンジンはスロットルを最大にして一定時間稼働させるとエンジンが暴走し、コントロール不可能になってしまう。しかしその原因が一向に解明されなかったのだ。
 また、機体の強度を高めるという選択肢もあったがその場合重量が増えることにより機体の運動性能が低下することは確実で、これも技術本部からの命令に反してしまう。スロットルにリミッターを設けることで暴走をある程度回避できたが、これもまた性能低下に繋がるため不可能。エンジンにリミッターを設定した場合ヅダのザクに対する優位性は小さくなり、ザクを採用した方がマシになってしまう。
 そしてそもそもの問題としてヅダはザクの1.8倍ものコストが必要な機体であり、それを考えれば当然高性能を求められ、そしてツィマッド社も「量より質」と言い続けてきた結果、中途半端な性能では納得させられないという八方塞がりに直面していた。

 ツィマッド社はこの機体の問題を解決するのに予想以上に手間取っていた。新たに機体を再設計し直すという大胆な案すらあったものの、開発期間に間に合わないためこれもまた中止となり、エンジン開発部門と機体開発部門の責任の押し付けあいと言ってもいい状況でEMS-04ヅダ開発計画は混迷を極めた。

 そうこうしている間に時は流れ、ついにYMS-05がMS-05ザクⅠとして正式採用、次期新型機動兵器開発コンペの勝者はザクになった。同時に、EMS-04A試作ヅダに関しては不採用の通知が届いた。

 しかしツィマッド社はヅダ開発計画を諦めはしなかった。社運をかけたヅダ開発計画なのだ。そして技術本部もツィマッド社のヅダ開発続行に対してゴーサインを出した。ヅダ正式採用への道は、まだ始まったばかりだ!

(第一部、完)

第二部となる続きの記事を書きました

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