イギリス戦艦ヴァンガードについて語る
最近艦これを始めたら戦艦の話がしたくてたまらなくなってきたので今回僕はイギリス戦艦ヴァンガードというマニアックな船について書いていきたいと思う。
イギリス戦艦ヴァンガードという船はかなりマニアックだ。
イギリスは第二次世界大戦に向け新型戦艦「ライオン」級の整備を進めることとしていたが実際始まってみればイギリスは次々と戦艦を沈められてしまい、悠長に新型戦艦を作っている暇がなくなってしまった。
そこで新型戦艦ライオンの設計とエンジンを流用、改良しつつ、大砲は第一次大戦時に使われていた38cm砲が余っていたためこれを流用するという設計だ。
ここまで聞くと「また英国面か」と思われるだろうがそうではない。イギリス戦艦の集大成、それが戦艦ヴァンガードなのであり、僕はこのヴァンガードはまさに世界最強の戦艦であると思っている。
しかしそのヴァンガードの強さを語るためには戦艦とはどうあるべきかを語らねばなるまい。
そもそも戦艦とは水上戦闘において最強の船であらねばならない。ではその最強の定義とはどうあるべきか。
・強力な火力
・敵の攻撃を受け止め、耐えうる防御力
・戦闘において有利な戦術機動力
・戦闘海域へと急行できる戦略機動力(広い海を走れる航続力も含む)
恐らくはこの4つになるが、特にアメリカは大西洋と太平洋、イギリスは大西洋とインド洋の二つを守らねばならないため、航続力という要素も重要視された。
そしてイギリスは数多くの戦艦を建造し戦場に投入した。
イギリスの新型戦艦キングジョージ5世級(以後KGV)は条約の制限を受け(比較的)貧弱な36cm砲を10門も積む変態火力と異常とも思える重防御に機動力もそれなりと、うまくまとめた戦艦であったが、KGVはその設計ミスにより航海性能、つまりは荒れた海を突破する能力が欠けていた。
さらに条約がなくなり各国が戦艦の整備に邁進し始めるとそうもいかなくなる。空母機動部隊の存在により足の遅い戦艦の出番は減少し、イギリス海軍も虎の子の戦艦を航空戦力により沈められてしまう。ライバル戦艦の速力が上がり始め、従来型の戦艦では敵の新型戦艦を追えないという事態が想定されるようになる。
そして日本が新型戦艦「大和」を建造しているとの情報も入る。
第二次世界大戦で得られた戦訓、それらを全て反映させた戦艦、それがヴァンガードである。
まず船体の設計にはかなり余裕がある。これは被弾して浸水してもまだ浮かべるということを表す。米戦艦アイオワのような余裕のない設計とは違う。
そしてKGVの問題であった航海性能を高めるため、船首は高くせり上がっている。これは軍艦としての見た目の重厚さが損なわれるが、見た目よりも性能を重視したゆえの配慮である。
そして寒い北大西洋や熱帯のインド洋でも活動できるよう居住性にも配慮。
何より速力は速い。飛び抜けて速い。31ノットをテストの際にはじき出したのはともかくとして、平常時から29.75ノット、つまりはほぼ30ノットが出せる。速い。大和が27ノットであったことなどからしても速い。
装甲の厚さもかなり分厚く、舷側の装甲の厚さは最厚部で355mm、これは40cm砲の直撃にも耐えうる十分な厚さ。各国は防御装甲の効率化のために傾斜させるなどという努力をしたがそんなもの関係ないのである。とにかく分厚い装甲を積めばそれが正義なのである。
甲板の装甲の厚さも150mmを超え、常識的な戦艦と殴り合う上では十分すぎる。
航空機からの魚雷攻撃を前提としているため水雷防御にも配慮がなされ、防御に関しても穴がない。
そして火力であるが、第一次大戦時の戦艦によく使われていた381mm、15インチ砲が使われている。それだけ聞くと旧式の砲に聞こえるかもしれないが、貫徹力を増すために砲弾を重くしたSHS(Super Heavy Shell)を採用し、貫徹力では40cm砲に負けずとも劣らない。そして何よりイギリス海軍が使い慣れた砲であるという信頼性の高さが光る。
副兵装に関しても第二次世界大戦の戦訓から対空砲としても使える両用砲の装備のみに留めることで人員とスペースの節約に役立っている。
そして当たり前だがレーダーの装備も充実。
とにかく徹底して第二次世界大戦の戦訓を盛り込んだ船なのである。
戦術機動力の高さだけでなく、航海性能を高めたことで戦略機動力も向上し、防御も穴がなく、火力は40cm砲装備の船とも互角である。
この徹底した穴のなさがヴァンガードの素晴らしさである。戦艦とは何と言ってもバランス。何かがかたよっているとそれは戦艦として不十分な船となり、そこが穴となる。その性能のバランスをかなりの高次元でまとめ上げたのがヴァンガードなのである。
しかし第二次世界大戦が始まってから今更そんな戦艦を作る意味があったのか、である。戦艦など作らずに空母や飛行機を作れという指摘もあるだろう。そこで第二次世界大戦の背景を見ていこう。
大西洋でイギリスが戦っていたのは独伊であったがドイツ海軍はハリボテ戦艦ビスマルクを喪い、ビスマルク級のティルピッツはイギリスを恐れてフィヨルドに逃げ込んだままでてこなくなってしまった。ドイツ海軍は大型軍艦の喪失を恐れ積極的な活動をしなくなった。
イタリア海軍にはヴィットリオ・ヴィネト級という厄介な戦艦がいたもののそもそもイタリア自体が死に体となっており、もはや敵ではない。
そう、ヴァンガードが見ていた相手、それは太平洋、特に怪物戦艦大和だったのである。
戦艦を叩くなら戦艦。いくら空母が強くなろうとも、空母数隻で襲い掛からねば戦艦など沈まない。それならば戦艦には戦艦をぶつけた方がまだ確実にダメージは与えられる。
ビスマルクが沈んだ時を思い出してしてほしい。フッドを沈められたイギリス海軍であったがビスマルクも確実にダメージを受けており、その手負いのビスマルクをイギリス海軍は戦艦数隻で袋叩きにして沈めてみせたのである。
当時米英が予想していた戦艦大和とは40cm砲搭載の戦艦であった。だからこそヴァンガードは40cm砲に適した攻防能力を高い速力にパッケージして出されたのだ。
イギリスには戦艦など腐る程ある。だからこそ作れた船でもあるし、だからこそここまでのバランスにまとめ上げることができたと言える。
来たる戦艦大和との決戦においてその先陣を切って砲撃戦を挑むのはヴァンガードだったのだ。
もちろん沈められれば痛い。しかし元はと言えば実現不可能な建艦計画の戦艦の余りパーツと在庫が余っていた旧式の大砲を組み合わせた船である。沈んだところでそう痛くもない。リサイクル戦艦で新型戦艦を食い止められるならコスパ最高といったところだろう。
戦艦はその国の代表としてメディアへの露出もなされるがそもそもヴァンガードはそういった目的は期待されていない。国の誇りとなるべき戦艦は他にたくさんいる。だからこそ性能が一番。
そんな徹底的な割り切りと明確な目的意識があったからこそはっきりとその性能が際立ち、かつ大和が高次元で完成された船であったからこそ、そのライバルたるヴァンガードも圧倒的なバランスで完成された。
戦艦とは最強の船であるべきだが、その最強の定義というのは実に曖昧。だからこそその定義がはっきりしなかったために駄作に終わった戦艦がいかに多いことか。そういう点でイギリスは戦艦の建造に慣れているからこそ全ての戦艦の目的がはっきりとしてわかりやすく、常に及第点を叩き出す。
そんなイギリスの100点回答がこのヴァンガードであったのだと。
しかしヴァンガードが完成したのはなんと1946年。戦争はとっくに終わってしまっていた。それでも英国海軍の本国艦隊旗艦として長らくその任についていたし、お召し艦として使われたりもした、そんな不思議な戦艦ヴァンガードなのでした。
と、いうわけでヴァンガードの良さについて熱く語ってしまいました。イギリス戦艦というのはどうしても影が薄くなりがちなんですが、正直どの船も重い白いので是非調べて見てほしいですね。
この文章を読んでヴァンガード好きが増えてくれることを願います。
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