雪のように恨は降りつみ。そして我々は(#4)

7月にひとり、その次の2月にはもうひとり。あの子の家から、あの子のことを食い物にしていた奴らを追い出して、わたしはあの子を守ったつもりでいました。

細い針のようだった雨は、夜半過ぎ、土砂降りに変りつつあった。
室内のじとりと重い空気は依然として冷たく、私はさっきから背筋を震わせている。赤っぽい電灯がたったひとつの部屋は暗く、ぬめりとした壁のモルタルを不気味に照らしている。

わたしが暴力に訴えるなどと思わなかった奴らが、油断していたのが幸運だっただけです。だというのに、わたしは、自分に力があると思い込んでしまった。世界と戦える、そんな壮大な勘違いを、あの頃のわたしはしていたのでしょうね。ただ―――どうしてもその勘違いを、あの子と、わたしの大事な兄弟であるあの子と、共有したかったのかも知れません。わたしが掴み取るはずの栄光ならば、どうにかあの子も一緒に、と。貧しさや、生き辛さ、差別や、他の誰かに蔑まれる怒りや憎しみから、一緒に解放されたかったのです。行き着く先に希望があると信じて疑わなかったからこそ、わたしひとりでは嫌でした。あの子を、同じ肌の色のあの子たちを置いていくのは。

結果として、それは失敗に終わりました。わたしは、わたしの不始末をあらゆる方面から責められ、罵倒され、ついには敗けてしまった。

この話をするとき、Jの頬は涙で濡れる。墨を溶いたような色の涙が、頬と鼻筋を黒く染め上げながら流れ落ちてゆく。Jのシャツは黒い染みで薄汚れて見えるが、それはJが、おそろしいほどの長い年月、黒い涙をこぼし続けたせいなのだろう。

遠くから2匹目の虫が歩いてくるのを見ながら、私はJに問いかけた。
あなたは本当に、ご兄弟に暴力を振るわれたのですか?

Jはしばらく俯いて、何かを考え込んでいるようだった。墨色の涙が、ぼたり、ぼたりと滴り落ち、シャツの胸元を黒く濡らす。

わかりません。

やがて、Jは小さな声で呟いた。



(続く)

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