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アウトロードハンター(外道狩り)第八話

(5)騒ぎ乱して静けさ保つ その2



 巨大なナメクジの様な形の突入装置が、地面に接地すると同時に先端が開き、八十名近くの刃物を手にした男達がジャガーノートの前で展開し始めた。

「ほらな、燻し出されて出てきたぜ」
 楽しそうに騒が嗤うと急に保の方に振り向き、真顔になって言った。
「いくぞ保、ウオークライだ!」
 騒が一歩前に出ると、保達三人が横一列に並んだ
「一人一言好きな言葉を叫んで突撃だ!」
 そう言うと、騒は思いっきり息を吸い込んだ後
叫んだ。
「セーックス!」
 騒の叫びに合わせ、保達は同時に抜刀した。
「ドッラッーーーグ!」
 甲高い乱の叫びに合わせ、全員が構えた。

 保は左八相に構え、騒は斗浪の刃が背に隠れる程の右脇構え、乱は右手に2丁持ちにした対之鬼包丁を両手の逆手持ちに変えた。

 最後の言葉はもう判っている。
 保は大きく息を吸い込むと、最後の言葉を絶叫した。
「ROCK’N’ROLL!」
 それを合図に保達は、弾かれる様にジャガーノートに向かって走り出した。

 前方に展開していた五人の男の内一人が躊躇無く走り込んでくる保達に怯え、銃を構えたが、すかさず隣にいた男に殴り倒されるのが見えた
「馬鹿野郎!俺達まで火達磨にする気か?」
 手前にいる連中との距離15m。
 そんな怒鳴り声が保にも聞こえた。
 確かにガソリン臭がこの辺りまで漂っている。
「いーこと思いついた!」
 そう言ってにっこり笑うと、乱は一人飛び出て手前にいた五人の男達に斬り込んでいった。
 斬り込んできた乱の鬼包丁を避ける為、男の一人が刀を上げた。
 その刀に向かって乱が、左の神無刃(かむじん)を打ち付け、横に閃らせると同時に叫んだ。
「火炎剣オーロラプラズマ返し!」
 飛び散った火花が炎に変わり、あっという間に五人の男を飲み込んだ。
 焔に包まれた男達は、地面を転げ回る間も無く、バックスピンさせた乱の右刀 御神鎚(みかづち)により事切れていた。
 乱は後ろに転がり炎を避け、立ち上がった。
「やりーっ!」眉を吊り上げ、口元に嗤いを浮かべて乱が言う。
「乱、なんかそれ、卑怯っぽいぞ……」
 保は乱をたしなめたが、あろうことか鬼包丁を握ったまま左の中指を突き立て、あかんべーっとピンクの舌を突き出した。
 若い娘が、はしたない。
 だが、効果は絶大だった。松明と化した五人の姿を見て、残りの連中の足が完全に止まった 。

《ガソリンを浴びてている者は、急いで地面を転がれ》
 ジャガーノートのスピーカーからオジャルカの声が響いた。
 オジャルカの声に交戦のタイミング失い、ガソリンで濡れてない者は立ち尽くし、残り半数は地面に転がり必死になって砂にガソリンを吸わせていた。
 少し離れて消し炭と化した五人が燻りつづけている。
『のんびりとした修羅場』そんな言葉が、保の頭に浮かんだ。

《猿力保!全て貴様の仕業か‼︎岩村はどうした?あの男もお前とつるでいるのか⁉︎》
 オジャルカの声が保に刺さる。
「オジャルカ E カーライルだな?残念だが俺は単なる駒にすぎん!それにな、誰があんなゲス野郎と組むもんか」
 言葉を句切り、地面に唾を吐き捨て続けた。
「岩村なら俺が斬った。これでお前らと取引しようって奴はもういない」
 保がブリッジを見据えて言った。

 突入リフトが降り、剥き出しになったジャガーノートの甲板に人影が表れた。
 遠目にも判る、金髪の女と拘束された男だ。
「我々の計画を邪魔する者は、全てこうなる」
 そう叫ぶと、オジャルカは腰に付けた大剣を抜き出し、抜き付け動作で拘束された男の首を刎ねた。
 早い、しかも手にしているのはフランベルジュ・ツバイハンダーだった。
 刀身が焔の様に蛇行し、大鍔の前にも握りと小さな鍔が付いた大剣だ。刃全体がうねっているので斬りつけた時、より深手を相手に与える。そんな剣を使い縛られた男の首を一挙動で刎ねた。
 転がり落ちた首を追うかの様にワンテンポ置いて男の体がゆっくりと地面に墜ちて逝った。
 保は騒の言葉を思い出した。
『あの男が騒の言っていたスリーパーか……』

 地上の部下が歓喜の雄叫びを上げた。
『まずい!今のでこいつらの士気が揚がってきた』
 儀式めいた公開処刑は、彼等にとって功を奏していた。
「猿力保。次はお前達だ。これより全員総掛かりで、こいつらを殺せ、こいつらの首を掲げてあの街を攻め落とす。戦闘開始だ!」
 よく通るオジャルカの声が響きわたった。
 先程の松明で怯えていた連中の目付きが、完全に変わった。
  狂気に駆られたスズメバチの大群さながらに、あの死の羽音の様な雄叫びを挙げ、八十名近い連中がいっきに襲いかかって来た。

 騒と乱、二人と目が合う、にっこりと嗤うと保達三人は奴等の中に躍り込んだ。
「きやがれー」
 騒が雄叫びを上げながら大群を切り崩していった

 保達三人は完全にシンクロしていた。
 離れながらも、互いの背後をそれぞれが目の端に捕らえている。
『三位一体剣』子供の頃から叩き込まれた集団で戦う際の基本的な合戦兵法だ。
 保が目の前の男の刀の棟をいなして落とし、崩れた所を平突きで仕留める。
 騒の目線が保の背後に閃った。迷うことなく保は、禍流魔を背に回し振り向きざまに袈裟に斬りつけた。
 断末魔の叫びと伴に鮮血が飛び散った。背後からの襲撃者は、敢え無く倒れた。
 今度は保が乱の背後から槍で突きかけてくる男に気付いた。
 保の視線を読み取り、乱は左の神無刃を親指を支点にして瞬時に逆手持ちに返し、右側に振り返りながら右手の御神鎚の護拳の背部で、突きかけてきた槍の穂先を十手の様にからめ、そのままの動きで身体を回し、からめた穂先で手前にいた男の喉を貫いた。
 そして槍で突きかけた男には左の神無刃をフックする様に右頸動脈に叩き込んだ
 乱の視線が騒へと閃る。
 騒は斗浪を右手持ちにし、目の前の男の刃をかわしながら左頸動脈を切り裂き、同時に左手にて流れる動作で抜いた麗聞を背後に閃らせ後ろの男の首を飛ばした。

 それから後は、走る、切る、刺す。
 閃る、斬る、KILL!
 KILL!切る、斬る、KILL‼︎

 かなりの時間、斬り続けた。
 残りはざっと二十五名。乱の動きに余裕が無くなってきた。

 そんな時、あの二人が降りてきた。
「貴様ら、よくも我が同胞を……」
 屍を踏み越えながら金髪に色あせた赤いバンダナを巻いた黒衣の女が、震える声で言った。
「猿力保、再びあいまみえようぞ!」
 古くさい言い回しをする、保より妙な名をした男が言った。
「騒、俺の客だ。すまんが雑魚の相手を頼む」
 その言葉に騒がすかさず保の背後に回る。

 互作・フォン・アルベルトの碧い眼を見ながら、保は禍流磨を足元の砂山に深く突き立てゆっくりと抜き出し、取り出したバンダナで刃を拭いバンダナを捨てた。
「なかなかやるもんだな」その動作を見た碧眼の男が嗤った。
 砂山に突き入れる事で、刀に付いた血や脂を落とすと同時に刃に細かい傷を付け斬撃の際に刃が滑りにくくするのだ。
 昔から心得のある武士の庭にはこうした砂山が置かれていた。
 その事をG.F.アルベルトも知っている様だった。


「あんたには、私の相手をしてもらおうか?」
 オジャルカがフランベルジュ・ツバイハンダーを抜いて切っ先を乱に突き付けた
「女の子同士で何して遊ぶ?」肩で息をしながら、乱が嗤った。

「てめーら全員、俺が相手してやる」
 二十五名の男達を前に、騒が大見得を切る。
 左半身になり、右腕を顔の前にまわし、斗浪の柄を上にして左肩から背に這わせ、左腕は交差させる様に馬手差しの麗聞の柄を握っている。左肩の鎧袖がギラリと光る。
 二十五名の男達が一斉に襲いかかって来た。
 騒の口元に不敵な笑みがこぼれ、二つの刃(やいば)が煌めいた。

「今度は逃がしはせんぞ!」
 G.F.アルベルトが御津貞を真っ二つにしたあの剣の様な大槍を構えて、保の前に立ちはだかった
「へっ、この前とは違うぜ」
 禍流磨を正眼に構え、碧眼の男に対峙する。
「W.29境警隊員 猿力保よ、いざ勝負!エインヘリヤル副将 互作・フォン・アルベルト。再び参る」
 独特な間をつくりだし、相変わらず時代錯誤な名乗りを挙げた。
『だがな……』保は、にやりと嗤って言った。
「違うな、俺はもう境警隊員じゃないぜ」
「何と?」
 保の言葉にG.F.アルベルトが反応した。
「ハンター……、アウトロードハンター猿力保だ!」
 アウトロードを専門に狩る連中。
 同じ様に忌み嫌われ、その狩るべき相手と同じ名で呼ばれるか、或いは単にハンターとだけ呼ばれる存在。
『それが今の俺達だ……』
 自嘲しているのでは無い、吹っ切れた様な迷いのない心境だった。
「貴様も儂等と同じ外道者か!これはいい、丁重に葬ってやる」
 G.F.アルベルトが余裕の笑みを浮かべて槍を繰り出してきた。
 禍流磨の反りに這わせ、それらを軽く捌いてゆく
 今の保にはG.F.アルベルトの動き全てが読めていた。
「きっ、貴様わずかの間にここまで……」
 一旦大きく跳んで後ろに退がり、間合いを開けてG.F.アルベルトが言った。
「だから言ったろ!この前とは違うって、騙したみたいで悪いな。なんならハンデ付けようか?」余裕の笑みを相手に返す。
「それにはおよばん」
 そう言いながらG.F.アルベルトは駆けだし一直線に大槍を突きかけてきた。
 実に単純で馬鹿正直な一撃。
 保は正眼から体を左に捻り、切っ先を時計回りに廻し、槍の穂先を絡めながら左腕を上げ、繰り出された穂先を捌く。
 右肩の前で逆さに立てた禍流磨の鎬の上を槍の穂先が閃り抜けた。
 すかさず捻った身体を解くように左水平で、姿勢の崩れたG.F.アルベルトの首をなぎ払った。

 これで終わった……そう思った時だった。
 突然、保の後頭部に衝撃が閃った。
 一瞬何が起こったか判らず、気が付くと禍流磨は飛ばされ、槍の穂先が保の身体の前に迫っていた。
 反射的に後ろに反りながら、右脚で相手の右手首を蹴り出し、そのまま後ろに転がり、G.F.アルベルトとの距離をとった。

 G.F.アルベルトの右手から槍が飛んだが、すぐに彼の手元に戻ってきた。
 最早それは槍ではなかった。
 大槍の柄(え)が中間から二つに分かれ、その間に1m程の長さの鎖が渡っていた。

 やっと状況が解ってきた……。保の左水平を読んでいたG.F.アルベルトは柄を外し仕込んでいた鎖で禍流磨を絡め、体を廻しバックフィストか、バックエルボを保に叩き込んだ後、剣と化した槍の穂先で突きかけて来たのだ。

 衝撃で鞘も飛ばされていた。

 G.F.アルベルトは脚を広げ、腰を落とした左半身になり、左手に石突きを上にした片方の柄を持ち、間に渡った鎖を張り、右手には剣と化した槍の穂先を握っている。
 禍流磨は、G.F.アルベルトの後ろに転がっていた。
「よもや、卑怯等とは云うまいな?」
 碧眼の男がニヤリと嗤う。
「無論だ!」
『武人として奴は正しい。俺が甘かっただけだ』
 油断していた自分を戒めた。

 保は右半身に構え、軽く右手を突き出して言った
「SHALL WE FIGHT?」
「YES PLEASE」

 この冗談に応え、G.F.アルベルトが唇に笑みを浮かべて仕掛けてきた。
 これで前回のセーブ箇所から再開だ。


「どうした嬢ちゃん?息切れか?」
 様子見に二、三手仕掛けたオジャルカが一旦距離を置いて乱に言った
「ラマーズ法の練習よ!」
 とは応えたものの、今の乱にほとんど余力は残っていなかった。
 対之鬼包丁も今では重い枷となっている。
 保も騒も今は目の前の相手で精一杯だった。
「さて、そろそろ本気で行こうかね」
 刃物の眼を持つ女がツバイハンダーを脇に構え、ゆっくりと間合いを詰める。
 乱は対之鬼包丁を逆手持ちにした。柄に這わせた両の人差し指の先で鋭く尖ったクラッシャースパイクが光る。
「シャッ!」
 蛇の様なかけ声で黒衣の女が赤いジャケットの女に斬りかかる。
 鈍い金属音がして左の神無刃がそれを止める。すかさず右に返してきたツバイハンダーを今度は右の御神鎚で受ける。鈍い金属音が段々と早くなってゆく
「ハァ……ハァ……」
 徐々に腕が上がらなくなってゆく自分に苛つきながらも乱は勝機を窺っていた。
 少しずつガードが流されてゆく。
 ガンッという音と共に左のガードが弾かれた。
 そこにつけ込み追撃の左袈裟が襲いかかる……。
 乱はこれを誘っていた。
 右腕を下から交差させる様に跳ね上げ、蛇行した刃を受けて、そのまま右腕を廻し刃を絡め、左足を踏み込みながら左の神無刃を瞬時に逆手から順手に返し、がら空きになったオジャルカの肝臓めがけ斬り込んだ。
「小娘が!」
 絡め取られた切っ先を回転方向に素早く先に廻して逃れ、切っ先を下にしたツバイハンダーで、右脇腹に迫る神無刃を受けた後、連撃の御神鎚をすかさず上に挙げたツバイハンダーの柄(つか)で受けた。
 意匠を凝らした柄頭が、乱の眼前にあった。
「⁉︎」突然、その柄の先から吹き出した液体が乱の顔を襲った。
 その直後、強烈な刺激と窒息感が乱を包み込んだ
 咳き込みながら涙、鼻水、汗、唾液をまき散らせ、乱は地面を転げ廻った 。
「どうした嬢ちゃん?催涙ガスは初めてか?」
 フランベルジュツバイハンダーの柄頭をポケットから取り出したハンカチで拭きながら、それとは知らぬオジャルカが同い年の乱に言った。
「お遊びは終わりだ。消えな」
 ハンカチを投げ捨てると、口元にに残忍な笑みを浮かべ振り上げたツバイハンダーを地面を転がり続ける乱に向かって振り下ろした。

 コツンという音がして打ち降ろされるツバイハンダーの軌跡が、突然柄元に突き出された緋塗りの鞘によって止められた。
「ふつつかな妹に替わり私が御相手します」
いつの間にかオジャルカの横に、緋塗りの小太刀を持った静が表れた。 


「先程の勢いはどうした?ハンター」
 G.F.アルベルトが次々と剣でしかけてくる。
 鎖でつながれているが、振り回してくる程馬鹿じゃなかった。
「素手だとスロースターターでね!」
 もう少し気の利いたセリフで決めたかった保だが、G.F.アルベルトの太刀筋を躱しながらでは、それくらいしか出てこなかった。
 その間にも碧眼の男が次々と仕掛けてくる。

『奴の動きを読もうとするな!』
『考えるんじゃない!感じろ!』
『奴を取り込み一つになるんだ……』
 激しい動きの中、ゆっくりとした呼吸に変えた。
『一つになる……』辺り全てを包み込んだ。

 保は突き出してくる刃を流し、右の外腕で剣を持つ手を遮り、左手で相手の右肘を軽く押さえ、スイッチした右膝を姿勢の崩れたG.F.アルベルトの右膝上、大腿四頭筋に打ち下ろす様に叩き込んだ。
『ヨシッ』
 一瞬の間を置いてG.F.アルベルトが右膝をついた。
 苦痛に顔を歪めながら、碧眼の男は左手に持った柄を地面に突き立て、即座に右の剣を外に振り出した。
 保は剣を持つ手を右の前蹴りで飛ばした後、右膝を付いてしゃがんでいるG.F.アルベルトの後頭部に左のミドルキックを叩き込んだ。
 前のめりにG.F.アルベルトが転がった。
『ヨシッ、ヨシッ、いける』
 立ち上がろうとしている相手に走り込み、喉元を蹴り込んで終わらせるつもりだったが G.F.アルベルトもその動きを読んでいた。
 走り込んで来る保に対し左腕を振り出し、鎖付きの剣を打ち廻して辺りを薙ぎ払ってきた。
切っ先が保の膝頭5㎜手前を閃り抜けていった。

 保の動きが止まると、G.F.アルベルトがゆっくりと立ち上がった。
 砂にまみれ黒い戦闘服はおろか、顔まで白く粉を吹いている。
 口元は切れ、赤黒くなっていた。
「いい顔になったじゃないか!」
 禍流磨はまだ、G.F.アルベルトの後ろに転がったままだ。
『さっさと取りに行くべきだった……』
「ぬかせ。若造が、貴様は殺す!」
 地面に血混じりの唾を吐き捨て、奇妙な剣を槍の姿に戻し再び構えた。

 一瞬の間をおいてG.F.アルベルトが動き出した。
 今度は慎重に来るかと思ったが、次々と繰り出してきた。
 だが先程の剣の時よりかなり早い。
 保は体捌きと足捌きで、なんとか凌いでゆく。
 そろそろ槍の動きに眼が慣れてきた。
 奇声と伴に渾身の勢いで突き込んできた槍の穂先をかわし、G.F.アルベルトの右後ろを獲った。
 右手で槍の付け根を制し、左手を槍の柄に添え、蹴り込もうとした時、碧眼の男が嗤った。
「馬鹿が、また引っかかりおったわ」
 G.F.アルベルトは保の眼が槍の動きに慣れるのを待っていたのだ
 槍の柄が再び二つに分かれ、保の左腕と首は伸びた鎖に絡められた。
 G.F.アルベルトが背後から強烈な力で首にくい込んだ鎖を締め上げる。 右の肘打ちを避ける為、右膝を保の背中に押し付け、体を離している。 後ろに引かれ、保は座った状態にされた。
 窒息を防ぐ為、絡められた左腕と首に巻き付いた鎖の間に、右手を割り込ませようとするが、うまくゆかない。
 保の目の前が暗くなっていく。
 口から泡が吹き出す。
 失禁しそうだ。
『私達もズボンの中に垂れ流す事がありますから……』
 何時だったか?どこかで誰かに言った様な気がする。
 G.F.アルベルトが何か呪いの言葉を吐いているが、何を言っているか解らなかった。
 失神寸前に落ちた保の右手がズボンのポケットの端に触れた。
『⁉︎』最後の力を振り絞り、左腕を力任せに引いた
 ほんの僅かだが、鎖が緩んだ。
『勝機だ!』
 保はポケットの端から抜き出したタクティカルフォルダーの刃を親指で素早く起こし、G.F.アルベルトの右大腿部を深く突き刺した。

「〆ゞ∞§★*ー>」
 この世の物とは思えない様な叫び声が聞こえ、鎖が完全に緩んだ。
 保は左手で緩んだ鎖を外し、渾身の力で引きつけ、右肘を近付いたG.F.アルベルトの体に打ち込んだ。
「グハッ!」
 妙なあえぎ声を出しG.F.アルベルトが倒れだしたが、倒れながらも左手に握った剣で保を襲ってきた。
 保は手にしたナイフでなんとか受けたが刃の付け根のセンターピンがへし折れた。
 左手で切っ先を体から離し、折れたナイフをG.F.アルベルトの顔に投げ付けると同時に、右のサイドキックを叩き込んで体を蹴り離し、禍流磨に向かって駆け出した。
 振り返る余裕は無いが、G.F.アルベルトが背後に迫ってくるのがよく解る。
 保の全身に鳥肌が立っている。
 G.F.アルベルトの殺気が針となって保の体を刺しているのだ。
 縛めは解けたが、脳の中で赤信号が激しく点滅し、酸素不足の警報が鳴り響いている。
 猛禽類が獲物を捕らえる様に、保の右手が地面に転がる禍流磨の柄(つか)を捉えた。
 瞳に狂気を宿し、口の端を吊り上げ、下から上に刀を引き上げ、体を翻し振り向きざま上段から右袈裟に追ってきたG.F.アルベルトを斬り倒した。
 残心……。
 一瞬の間をおいて鮮血が飛び散った。
 そのまま後ろにG.F.アルベルトが崩れ墜ちた。

「・・見事だ・鎖ごと儂の・・体を断ち斬ると・はな……」
 断ち斬られた鎖を体の上にたらせ、仰向けに倒れているG.F.アルベルトを見下ろした。
 潮が引いてゆく様に、徐々に狂気が保の体から去ってゆく。 
「あんたの事は憶えておくよ……」
 聞こえたかどうかは解らないが、事切れたG.F.アルベルトの口元には満足そうな笑みが浮かんでいた。


 保はG.F.アルベルトの死を確認し、飛んでいった鞘を拾った。
 そして酸素不足でズキズキ痛む頭を上げた時、転げ回る乱の姿が目に映った。
「乱!」
 すかさず保は乱に向かって駆け出そうとしたが、オジャルカの横からゆっくりと近付いて行く静に気付いた。
 恐らくオジャルカは静の存在にまったく気付いていないだろう。
【陽炎(かげろう)】ゆらぎの高等歩法だ。
 相手の心を読み、意識の隙間を突いて気配を消し、正対した相手にさえ知覚されずに接近、移動する。
 聖眼使いにしか出来ない技だと、寝物語に静が語っていたのを思い出した。


 乱に向かって打ち下ろされたツバイハンダーを 
静が小太刀の鞘で止めた。
「ふつつかな妹に替わり私が御相手致します」
 そう言いながら、さりげなく静が乱を背後に隠す
 地平近くまで落ちかけた夕日が、静の白装束を赤く染め上げた。

「乱、大丈夫か?」
 やっとの事で保は乱の元に辿り着き、倒れ込んでいる乱を抱き起こした。
「タモッちゃん……眼が、眼が痛いよー」
 涙と鼻水で、砂だらけになった乱が泣きながら抱きついてきた。
 保はアサルトベストのポケットから0.75Lの水筒を出し顔にかけてやった。
「大丈夫だ、すぐよくなる」
 眼の周りに集中的に水をかけ、バンダナで優しく拭ってやる。
 メイクが落ちて化粧っ気の無くなった乱の顔は子供の頃の顔に戻っていた。
 場違いは解っているが、その顔に懐かしさと同時に照れ臭さを感じ、保が顔を上げた。
 その目線の先では、騒が両羽根を広げた様な形をとり、両手に持った斗浪と麗聞で最後の二人を斬り倒した処だった。


 オジャルカは突然隣に現れた静に驚愕し目を見開いて後すざりしながら言った。
「なっ、貴様……何者だ!」
 距離をとり、フランベルジュ・ツバイハンダーを構えた。
「申し遅れました。この作戦の総指揮を務めております、天響印流六代目宗家、天響印 静と申します」
 聖眼発動時の抑揚のない無感情の声で静が応える
 その一言を聞いたオジャルカの表情が今までに無い程、凶悪なものに豹変した。
「貴様が、首謀者か!お前だけは斬り刻んで殺してやる……。だが、その前に一つだけ答えろ!何故、我々の計画を邪魔した」
「我が婚約者(いいなづけ)保さんを最強の男にする為です」
 平然と静が言い放った。
「そんな事……たった、そんな事の為だけに我が同胞を殺し、我々の計画を頓挫させたのか!」
 爆発寸前のオジャルカが言った。
「ええ、小手調べとして丁度良い戦力でしたし、何よりこの街は、私と保さんの故郷(ふるさと)ですもの」
 そう言って、静が保の方に振り返った。と同時にオジャルカが猛然と斬りかかってきた。
「静!」
 保が思わず叫びはしたものの、何も心配はいらなかった。

 避ける動作というよりは自然に一歩下がる形で静はオジャルカの初太刀を外した
 端から見ると偶然に外れた様にしか見えない。
 オジャルカは即座に縦斬りの初太刀から横に振りに変化させようとしたが、またも小太刀の鞘で柄元を制された。

「貴様どういうつもりだ!何故抜かない?」
「抜くまでもありませんから」
 聖眼のまま、静がオジャルカに口元だけで笑いかけた。
「ふざけるな!」
 オジャルカはツバイハンダーを脇構えに戻し、さりげなく柄頭を静の顔に向けた
「死ね!」
 催涙ガスを発射させると同時に脇構えから袈裟切り上げに斬りつけた。
「?」オジャルカの眼前から静の姿が消えていた。
 霧となったガスが空しく地面に吸い込まれただけだった。
「小細工は効きませんよ」
 真後ろから聞こえた声に驚いて、オジャルカが振り返った先には、相変わらず無表情な静が立っていた。
「貴様……、いったい何なんだ……」
 初めて体験する動きに、蒼ざめた顔でオジャルカが呟くように言った。
「愛する人の為だけに生きる、只の女です」
 顔色を変えず、きっぱりと言い切った。


「保、乱の具合はどうだ?」
 二十五人を斬り倒し、夕日と返り血で赤く染まった黒革のロングコートをばたつかせながら騒が駆け込んできた。
「あっ騒ちゃん、騒ちゃん、もう大丈夫だよ」
 まだ充血した目で乱がニッコリと笑う。
「たぶんCNガスだ、心配無い」
 微かに残っていたリンゴの花の様な臭いは、保にとって憶えがある。
 境警に入隊したての頃、暴徒鎮圧訓練時に何度もくらったクロルアセトフェノンの匂いだ。
「そうか、これで終わったな、姉様の方は心配いらない。遊んでいるだけだ」
 騒の言葉通り、静はオジャルカの攻撃をひらひらとかわしているだけだ。 保の心の隅にある、オジャルカを殺したくないという気持ちを汲んでいる様だった。
『完璧だ』その動きを見るにつけ、保の腕には先程とは違う鳥肌が立っていた。
『俺はこの女と戦わなければならないのか……』
 戦慄に似た、何かが保の背を閃り抜けた。

 その時、銃声と伴に保の右手から1m程離れた地面の一部が跳ねた。
「スナイパーだっ」
 そう叫んで伏せながら、銃声の方向に注意を向けると、100m程離れた砂の起伏の間を走ってゆく男が見えた。
「見つけた」
「保、幕を張ったら走れ」
 騒は伏せながら、乱のジャケットの背中に手を入れていた。
「あった」
 そこから円筒形の物体を取り出し、伏せたまま前方に投げ、地面に落ちる前にサイホルスターから抜き出した銀色の巨大なオートマチック【閃電】で撃ち抜いた。
 前回のスモークスタングレネードよりは小さな爆発音だったが、今度は煙の量が桁違いだった。
 200m四方を たちどころにどす黒い煙が包み込んだ。


 突然たちこめた漆黒の闇が二人を包み込んだ。
 刃物の眼を持つ女はその闇に溶け込み、聖眼使いはその白い姿を浮き上がらせた。
 刃物の眼を持つ女が、その白い影に向かって大上段から渾身の一撃を放った。
 その動きに合わせ、静の小太刀が一閃した。
 剣風が、二人の周囲の闇を切り裂いた。

 斬り込んだ瞬間、オジャルカは今までにない奇妙な手応えを感じていた。
 周囲の闇が晴れると、振り下ろした筈のツバイハンダーが、今握っている柄を残して切り落とされ、刀身が地面に転がっていた。
 気が付くと、喉元に小太刀の切っ先が突き付けられていた。
 刃面一面に流水に浮かぶ桜の花びらの様な刃紋が広がっている。
『あっ、可愛い刀』
 今の状況にそぐわない現実逃避に似た思いがオジャルカの頭をよぎっていった。
 その時、額のバンダナが真ん中からはらりと切れ落ち、現実に立ち返った。
「これで見逃してあげます。お逃げなさい」
 左手に鞘を握り、右手で小太刀の切っ先を突き付けたままの静が、抑揚のない声で言った。
「どういうつもりだ?」
 喉元の切っ先から眼を離し、静と眼が合う。
 一点の穢れも無い澄んだ瞳に引き込まれて身体が動かず、そう言うのが精一杯だった。
「あなたは、死んだ仲間の分まで生きるのです。あなたの父親が何故、わざわざ部下全員に日本人名を付けたのか、何の為に彼等が死んだかを考えなさい」
「……」オジャルカには返す言葉が無かった。
「その上で改心し、新しい生き方を見つけるも良し。再び兵を率いて、私や保さんを付け狙うも良し。後はあなた次第です……」
そう言うと静は煙の中に消えていった。

「畜生……必ず、必ずお前達を殺してやるからな!」
 一人残されたオジャルカは再び立ちこめてきた煙の中で泣きながら絶叫した。 


 保は爆発と同時に、今しがた見えた男に向かって走り出した。
 煙が視界を奪い、砂の起伏と辺りに散らばる屍に足を取られながらも、男が行きそうな方向へ迂回しながら走り続けた。
『素人同然だ』
 男はスナイパーとして致命的な三つのミスを犯している。
 一つ目は、西日に向かって仕掛けてきた事。
 二つ目は、姿を曝した事。
 三つ目は、初弾を外した事だ。
 そんな事を思いながら走っている保は二度転んだ
 そして、三度目に転んで顔を上げた時、砂の小山の影に寝ころぶ男の背中が見えた。
 保は走るのを止め、ストーキング(忍び歩き)で背後からゆっくりと近付いた。

「糞っ、あの女……今度こそ仕留めてやる!はやく晴れやがれっ」
 男は保に背を向け、いらついた様子で銃身を左右に振りながら、煙の中の保達を捜していた。
「フリーズ!」
 背後から男の左首に禍流磨の切っ先を突き付けた。男は全く予想してなかったらしくビクッと身体を振るわせた後、言われた通り凍り付いた「銃を降ろせ!」
 右手を伸ばす形で、男が体から離したライフルを見て思わず叫んだ。
「てめー、俺の銃じゃねーか」
 禍流磨を左手に持ち替え、もぎ取る様に保はLANSを取り返した。
「この野郎!サイトに触ってないだろうな?」
 保はリアサイトに付けているナイフで彫った傷跡を確認しながら男を睨め付けた
 40過ぎのやけに貧相な男だった。
「い、いえ触っていません。車にあった銃をそのまま持って来たんです……」
 今にも殺さんばかりの保の勢いに気押されて、弱々しく男が答えた。
 その姿に何となく興が削がれた。
「もういい!さっさと何処へでも行きやがれ」

 禍流磨を納刀して背に戻し、装弾数を確認後、LANSのグリップを握り、保が男に背を向け、帰ろうとした時だった。
「ちくしょう!いつもいつも俺ばっかり、のけ者にしやがって」
 男が突然、意味不明の事を叫びながら立ち上がり、腰のホルスターからオートマチックを抜き出した。
 即座に振り返りながら保は、LANSのトリガーを引いた。
 7.62㎜の高性能弾(一発1000円也)が男の眉間を貫き、脳漿を散らせながら男が崩れ落ちた。
「馬鹿な奴だ……」
『これ以上、無駄な殺生はしたくないな』
 そう思いながら男の死体を確認した処、手にしていた銃にはハンマーが無かった
 何かに斬られた様に切断面が光っている。
『本当に馬鹿な奴だ。自分の武器の状態を確認してないとは……』
 そのハンマーが、乱によって斬り落とされていた事など保には知る由もなかった


「騒、ありゃ、一体何なんだ?」
 煙も晴れ、元の場所に戻りながら空になったスモークグレネードを指さして保が騒に聞いた。
「ああ、あれか。万が一、あのデカブツと撃ち合いになった場合に備えて、戦車用のスモークチャフディスチャージャーを用意してたんだ」
 沈黙したままのジャガーノートを指差し、ニヤニヤ笑って騒が答えた。
「お疲れさま、保さん」
 静は乱の側に座って乱の様子を窺っていたが保が戻ると小走りで近付いてきた。
「静、オジャルカは?」
 辺りは死体だらけだが、女の死体が無いのに気付いて聞いてみた。
「すいません、逃げられてしまいました」
 聖眼のまま、口元で笑って静が答えた。
『逃げられたんじゃなく、逃がしたんだ』
 保には判っていた。静が自分の気持ちを汲んでくれた事を。
『再び襲って来ればそれも良し。これで良かったんだ』
「ありがとう。静」
「いえ、未来の妻として主人を立てるのは当然の事ですわ」

 愛おしい。目の前にいる白装束に紅襷の女を保は抱き寄せた。
戦いの前後には、ひどく心が乾く。
 静がいなければ、その乾きが癒せずに自分が砂の上に転がる死体の一つになっていただろうと思う。
『だが俺は、いつかこいつを倒さなければならない。愛する証を立てる為に……』

「タモッちゃん、ずるいよー姉様ばっかりー」
 乱に邪魔されなければ、そのまま静を押し倒しかねない保だった。
「すまん。騒、乱、ありがとう」
 そう言うと四人で顔を見合わせ笑った。

 その頃には完全に日が落ち、月明かりが優しく辺りを照らしていた。
 月明かりに照らされたジャガーノートは、まるで死んだ巨象の様だった。

 その時、城壁の上に設置された投光器が一斉に点けられ、保達の周囲が真昼に戻った。
 城塞の正門が開き、中から大勢の人々が歓声を挙げながら走り込んできた。

 今度は、大楯もシールド付きのヘルメットも要らなかった……。


          ⚫️


「やっぱり行くのか……」
 一週間後。朝靄に包まれ、閑散とした第三ゲートの前で大沢が言った。
「ああ、色々ありがとうな」
 後で准将から聞いた話だが、大沢は一人出ていく保を民衆から守るよう提言したり、国発手形を楯に静に支援する事を止められていた鴻上准将に対し
「何で援軍を出さないのか?」
 と噛みつかんばかりの勢いで、直談判に行ってくれていたのだ。

「パレードの方は出なくてよかったのか?」
 悪戯っぽく大沢が聞いてきた。
「あの連中の間を歩くなんて二度と御免だね」
 午後からあるパレードに引き出され、正門から大々的に見送られて保がこの街を出てゆく様に、どこかの馬鹿が企画していたらしいが、それを知った保本人が、
「誰が出るもんか」と言い張った。
 そんな訳で朝早く夜逃げ同然に、この裏口ともいえる第三ゲートから出て行く事になったのだ。
「そう言うと思ったよ」大沢が笑う。
「それにもう挨拶は済ましてある」
 あの時リンチにあった食堂のおばちゃんとバイト君には、こっそりと別れは済ませた。
『二人とも軽傷で良かった』
 あの日以来、おばちゃんの食堂は大繁盛し、バイト君は今度、店長として店をまかされるらしい。
(伴に保丼、タモツピザ等という、恥ずかしくも商魂たくましいネーミングの商品のお陰の様だが)

 心残りは御里千鶴が同僚と共に亡くなった事になり、市長の岩村が病死にされた事だ。
 『そうする事で全て丸く収まる』
 市境警備隊上層部と市議会の面々に丸め込まれた自分にまだ折り合いがついていなかった。

「あれもお前が手配してくれたんだろ?」
 そんな考えを振り払い、保は後ろを指差した。
 そこには武装を外したEーLAVがあった。
 助手席に騒、後部座席に乱が乗って、こっちを見ている。
 静は昨日、親衛隊ともいえる特殊部隊に守られ、ヘリでセンターシティーに戻って行った。
「なんて事ないさ。あれはジャガーノートと伴に処分された事になっている、お前が乗ってた車だ」
 そこまで笑っていたが、急に真顔になって大沢が続けた。
「准将から聞いたぞ、今度の騒ぎは全てあの女の筋書き通りだった訳だが」
あの女とは静の事を言っているのだろう。
「だから?」
「お前いいのか?お前は結局あの女の手の平で踊らされていたに過ぎないんだぞ」
 出来の悪い生徒を諭す教師の様に大沢が言った。
「なに気にもならんさ静の手の上でならジグでもサンバでも喜んで踊ってやるさ」
 それを聞いた大沢が笑った。
「お前らしいよ……。じゃあ行きな」
「ああ、そろそろ連れも痺れを切らしてる頃だ」
 そう言ってコクピットに乗り込み、EーLAVを起動させた。

 第三ゲートが開き、第7部隊所属の10代後半位の若い入市管理官が出市手続きにやって来た。大沢もその後ろに付いて立っている。
 EーLAVのウインドウを降ろし、管理官がセンサーで三人分の国発手形を確認した。
 若い管理官は手続きを終えると、尊敬の眼差しを向け敬礼して言った

「中尉殿。これからの御活躍、期待しております」

 除隊した今となってはどうでも良かったが、あの後、保は中尉に特進していた。
「ありがとう」
 その眼差しに少し照れ臭さを感じながら保が敬礼を返す。
 その保のぎこちない敬礼と表情を見た大沢が声を殺して後ろで笑っていた。

 その後若い管理官は助手席の騒と、後部座席に座っている乱を窺いながら期待に満ちた目で聞いた。
「失礼は承知しておりますが、あなた方の御名前も是非とも、お教え願えませんか?」

 騒と乱は、顔を見合わせニヤリと嗤って応えた。

「メタルゴッド!」

「パンクエンジェル!」

 保は若い管理官の後ろにいる大沢にニヤリと嗤いかけて言った。

「憶えておきな、スラッシュキングだ!」

― そして俺達は荒野に向かって走り出した ―

       FIN by:諸島 不死彦  

番外編 AIイラストによるキャラクター紹介
https://note.com/1911archangel/n/n233bd6d2794d

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