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【感想?レビュー?】ファミレスを享受せよ 淡い世界と淡い思い出

こんにちは、なるぼぼです。

最近Twitterでちょこちょこ見かけていた「ファミレスを享受せよ」
スクショも見たのですが、淡い黄色と青によって描かれたイラストがツボに。
一気にクリアまで遊んでみました。

いや、非常にいいゲームだった。
今回は魅力を語りつつ、ストーリーの感想なんかも入れていこうと思います。
一部ネタバレになるのでご注意を。
フリーゲームになるので、ネタバレNGな方は一度プレイしてからの読破をおススメします。
それでは早速行きましょう。

1.同じ色の私たち

さて、まずはビジュアルの話から。
本作は、基本的にイラスト調に描かれているのですが、色味がほぼ変化しないという特徴があります。

本作のあらすじは、ムーンパレスというファミレスに閉じ込められて、同じ境遇の数人と時間を過ごすというものになっています。
出られない空間、という特殊性を表すためか、世界は常に青・黄・黒の色味のみで表現されています。
これが美しい。
アメリカのビールにある「ブルームーン」なんかの色味と同じなんですけど、月の名を示すような淡い色味が静かな時間を演出してくれます。

また、キャラクターにおいても同じ色味が扱われているので、強烈なイメージ付けがなされないという所も面白いです。
本作には王様みたいな超癖の強いキャラも出てくるんですけど、色味の影響か「あ、なんかそこにいたんだ」みたいな自然な雰囲気がにじみ出ています。
凄く自然にその人がいるのが馴染むんですよね。
不思議なことです。

そして独特なイラストもとってもいい。
細い線が繊細に世界を描いているように、静かに雰囲気を醸し出しています。
夜の雰囲気と言えば青と黒、と思いがちですが、月の黄色が前面に出ているというのも、中々面白い所です。
繊細なタッチだからこそ、この黄色が映えるんでしょうね。
めちゃくちゃ良い。
このイラストだけでもツボです。やろう。

2.静かに、無限の時を過ごす

さて、本作のあらましと共に、やれることをご紹介。

先ほども紹介しましたが、本作のあらすじは、ファミレスにいた主人公がいつの間にか別のファミレス「ムーンパレス」に移動していて、出られなくなっているというものです。
出られなくなった主人公は、そこにいる数人の人々と談笑しながら、時間を消費していきます。

まぁ当然出られないので、プレイヤーとしては「脱出しなきゃ!」と思い、主人公も同様のことを考えているんですけど、元からいた数人の住人は諦観しています。
「ファミレスを享受せよ」というタイトルも、脱出を諦めたキャラクターが諦観を促すために言うセリフの一部というのが、なんともキャッチーで不思議に感じます。
タイトルもセリフの使い方も、悲壮的ではあるんですけど芸術性すら感じますよね…。

基本的に諦観しているからこそ、本作の話が進む基準は「雑談」になっています。
ちょっと行動するシーンはあるんですけど、基本的にはファミレス内にいる人と会話する、それだけのゲームです。
でも、この会話の中にある文章が、どうにも知的で面白いのだから素晴らしい。
彼らの身の上話も千差万別でもちろん面白いのですが、たわいのない話であったり、歴史的な話や哲学的な話、果ては空想上の話まで、色々なことを話してくれます。

身の上話は確かに地に足を付けたようなものなんですけど、彼らが冗談のように言う雑談は、どこか宙を浮いているような不思議な感覚があって自然と惹きこまれていきます。
印象的だったのがセロニカが雑談で話してくれる「サブドワーフ」
不思議な空間だからこそ、そしてセロニカの人となりだからこそこの話が出てくるんだろうなぁ、というような感覚があります。
内容は皆さんの手で探して味わってみてください。

とはいえ、脱出しなければゲームは進みません。
雑談以外にも、ポイント&クリックで謎を解きながら進めて行くのが本作の進行方法です。
オールドな謎解きにはなりますが、それでもキャラとの会話が大半を占めているので、不思議と古臭い感じはしませんでした。

3.永久を過ごすからこそ、仲良くなれる(ネタバレ注意!)

さて、本作は静かに悠久とも言える時間を過ごすわけですが、それは実際に経験するところとなりました。

主人公は王に信頼されることでとある箱を貰います。
その箱の数字を解くわけですが、もちろんヒントも何もなく…。
仕方がないので総当たりで開けます。

とはいえコードは16ケタ。
異常な数です。
でも、ファミレスの時間は悠久。
セロニカの行動によって死が禁じられていることがわかっているので、無限に鍵を開ける試行機会があるのです。
主人公は無限に挑戦をします。

その際の文章で、100年や200年ではない、とてつもない期間が流れていることが分かります。
セロニカの「200年かけてTRPGを作りましたよ!」は、時間の流れを示す良いサインになっていました。
こうして、かなりの時間をかけて、主人公は鍵を開けることに成功します。

この体験、プレイヤーからすると5分程度放置するってだけのシーンなのですが、所々に出てくる住人のセリフが印象的なんですよね。
200年かけて作りました!もそうですけど、時々彼らはこっちに声をかけてきてくれるんです。
王も挑戦してくれてありがとうと伝えてくれるし、ガラスパンも度々声をかけてくれます。
そうした声があることで、悠久の時間にいることを知覚させるだけでなく、彼らがそばで見守ってくれていることにも気づくことができました。

このシーンの何が凄いのか。
それは、この瞬間で僕が彼らに「信頼」という感情を持ったということです。
ゲーム上では、僕と彼らとは知り合って少しの期間しか流れていません。
例え100万年がゲーム内で経とうとも、30分程度の現実の時間ではプレイヤーには印象が残らないでしょう。
しかし、このゲームは「主人公が頑張る時間=何もしない時間」とすることで、プレイヤーの「待つ退屈な時間」が「悠久の時」のように感じられるようになりました。
そのため、プレイヤーは主人公と同じように時間を過ごした感覚に陥るだけでなく、そこで一緒に待ってくれたメンバー、住人にも強い信頼感を抱くようになるのです。
実際、僕はプレイ後に「みんな待っててくれたんだな…」と思いました。

時間の流れを意識させるように、そのタイミングで「お久しぶりです」と話しかけられるのもとても良いです。
これのおかげで時間をより体感できるようになるほか、見守ってたことを住人も言ってくれるので、彼らに深い感謝を覚えます。
そして、強い信頼感を持つようになりました。
こうした仕掛けは、意図したところなのかどうかわかりませんが、見事だと思いました。

4.真実(ネタバレ注意!)

さて、そこまで話を進めると、箱の中のストローと「月の涙」で「クライン」という人物と会話ができるようになります。
そして、彼女の口から「王を普通の人間にしてやってくれ」という言葉と、それを行う方法を教えてくれます。

でも、結局それだけではクラインは一人きりでした。
王は普通の生活を取り戻しますが、彼女は普通の人になったままで、クラインのことも忘れて生きていくことになります。

このゲームはマルチエンディングで、分岐の条件は「とある人物にとあるものを渡す」というものでした。
しかも、誰に何を渡せばいいのかを知るためには、ドリンクを使い過去の記憶を見る必要があったのです。
特定のドリンクを飲むことで、その人の過去を見ることができます。
そこには衝撃の真実が映っていました。

特に衝撃的だったのはセロニカの過去。
彼の中にあるクラインへの思いは深かったんでしょうね。
彼にしかできないことだからこそ、クラインにああやって接するほかなかった。
とても虚しい事件です。
そしてその顛末が王に関わっていたこと、セロニカの忠告を聞かずにあの行動を冷静に自分の意思で起こしたこと、そうしたことに対してセロニカは断罪をしなければならなかったこと、全てが悲しいことです。
だからこそ、王の過去を聞いて、王の意思を聞いてあげる必要があった。
そしてセロニカの過去を知って、彼の決断を聞く必要があった。

また、ガラスパンの過去も不思議なものでした。
彼女の中にある存在というものがムーンパレスの影響によって出てきたのかは謎ですが、彼女にとってのラテラは非常に大事な存在で、忘れられないものだったんでしょうね。
セロニカの質問に首を横に振った彼女の思いというものは、僕でも何となくわかった気がします。

そして、最後のエンディングに出てきた二人の姿を見て、とてもやさしい気持ちになりました。
本当に良かったな、と思います。
彼にとっても彼女にとってもあの結末が救われる者だったんじゃないかな、と思うんです。
最後にガラスパンが言った「まぁ、ずっと孤独よりはマシなんじゃないかな?」というセリフには、本当に温かみが溢れていました。

薄い信頼関係でも、時間の中で得た深い信頼関係でも、どこか静かに、ゆっくりとエンディングを迎えていくあの雰囲気が、僕は凄い好きです。
もちろん途中で出てきた彼らの過去は驚くべきものですが、それでも「みんな色々な思いがあってこうなったんだ」と感じて、真実を伝えてあげることで前に進んでいくというのは、なんとも奇怪でありながら良いものだなぁと思いました。
最後までおちゃらけてたし。
そういったキャラクターとのどこか緩い関係性は、このゲームでしか味わえないものだと思います。
そして、その緩い関係性が続いたからこそ、あの優しく終わるエンディングが演出できたのかな、と思いました。
本当にいいゲームでした。

5.終わりに

いかがでしたでしょうか。

プレイ時間30分!は大嘘でしたし、ゲームの中では悠久の時を過ごしたわけですから、プレイ時間なんて信用するもんじゃないですね。
とはいえ、あの淡い空間の中で過ごした何万年もの思い出は、僕の心の中で静かに残り続けるのでしょう。
本当に、優しくていいゲームです。

さて、次回ですが相も変わらず未定です。
アドベンチャーゲームしたいけど、実はアクションもしたいという感覚。
「Hi-Fi Rush」とかやりたいですね。できるかな…?
まぁ書きたいときにまた書きます。
気長にお待ちください~。

それではまた次回。
さよなら~。


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