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戦前醤油差し・復刻醤油差しとソース差し

取り置きをお願いしていた醤油差しを受け取りに、下北沢のあんてぃかーゆさんへ出かけてきました。お店へ伺う度に気になっていた商品です。

プレスガラスの醤油差し

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浅葱色のような綺麗な青系に、桜のエンボスが素敵。ちなみに、色は透明もあり、サイズは大小あります。私が購入したのは大(高さ12cm、底7.5cm)です。値段は9,800円。汚れ、欠けなし汚れなし大変良好な状態。

この醤油差しは、ネット通販をしている骨董屋さんや骨董市でも時たま見かけます。かなりの珍品というわけではありませんが、出回る数は多くないと思います。戦前の醤油差しは意匠を凝らした物が多く、ノベルティでも面白い形が沢山あります。私が欲しいのは醤油樽の形をしているもの↓ヤフオクでも人気がある、いつも高値で取り引きされています。

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齊藤 晴子, 井上 曉子 2016年『美しい和のガラス』誠文堂新光社 p.131


プレスガラスとは

購入した醤油差しは、プレスガラスという製法で作られています。
明治十九年創業 洋灯玻璃器商「日本橋瀧澤本店」さんの説明が分かりやすいので、こちらから引用させて頂きました。

レスガラス(型押しガラス)は、ガラス容器の形を内側に型取った凹型と凸型を用い、凹型に溶けたガラス種を入れ、凸型で押して形成するガラス製造方法です。また、ガラス製法には、うつわづくりの基本となる「吹きガラス」があります。「吹きガラス」には、どのように形を整えるかの違いで「 宙吹きガラス」と「 型吹きガラス」の2種類がありますが、基本的にはどちらも同じ製法です。しかしプレスガラス(型押しガラス)は、型吹きガラスに比べてより鮮明に型の模様を写し取ることが可能であり、厚くて丈夫で大量生産に向いています。

明治・大正・昭和初期につくられたプレスガラスのうつわの中でも、プレスプレートは当時の文化を刻み込んでしまっている遊び心があるものです。例えば、戦勝記念や肖像を刻印することは、明らかに西洋の模写なのですが、何を刻し、何をアピ-ルしたかを知ることは、その時代の気風を知ることになります。およそ300種とも400種とも言われる文様の面白さも見逃すことが出来ません。模様では、網目模様・手毬模様やリンゴハ-ト模様などがあり、形も通常の円形のほか、楕円形や四角いものもあります。また、レ-ス皿と呼ばれるものや襞の付いたものもあります。大きさも小型なものから大きなものまで様々です。従来日本には存在しなかったこのプレスプレートは、西洋の影響を受け模造から始まった各種のデザインは日本独特の花鳥風月を取り入れ見事にデザイン化されている職人の技量や感覚の豊かさには、目を見張るものがあります。プレスプレートは、明治・大正・昭和初期の息吹を伝えるガラスの便りと言えます。

日本橋瀧澤本店さんのサイトには、ガラスやお店の歴史など古写真も掲載されているので、勉強になり楽しく閲覧できます。

醤油差しは人気のアイテムで出回る数も限られている昨今、値段も高めのようです。珍品となると吃驚するような値段で売られていたりします。2年程前、和ガラスの収集はしていませんでしたが、醤油差しだけ欲しくなり手頃な値段のものを探していました。そんな中で見つけたのが、廣田硝子さんの復刻の醤油差し。Twitterに投稿してみると、思いの外バズったので吃驚しました。春頃にTwitterを退会したので証拠はありませんけど…案外昔の醤油差しを良いと感じる人は多いのかもしれません。


廣田硝子の復刻醤油差し

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明治32年創業の廣田硝子さんの復刻醤油差しです。2年前に購入して以来、我が家で活躍中!蓋はすり口ガラスで補充もしやすく、液垂れもしません。写真を撮るために、口の部分を綺麗に洗っています。復刻には何種類か形があります。ちなみにこれは亀甲です。商品ページの説明によると、木版のカタログを元に復刻したとのこと。値段も2,200円とリーズナブルなので、気軽に入手できる一品です。オンラインストアでも購入できます。


昭和初期のソース瓶

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以前あんてぃかーゆさんで購入したプレスガラスのソース差しです。値段は7,800円くらいでした。私のガラス収集はこのソース差しから始まってしまった気がします。それまで和ガラスに手を出すのはやめておこう…と決めていましたが、何故か実用を兼ねてソース差しが欲しくなってしまったのです。しかし未だに使用していません。

ソースは、明治時代に登場した新しい調味料でした。そのソースを入れるために作られた容器です。醤油差しと同様に、こちらも凝った面白い意匠が沢山あります。昔はソースを使う食事は洋食と分類されており、お好み焼きなども洋食として認識されていたそうです。私の中で印象的なのは、昭和初期の阪急百貨店の食堂です。ここの食堂では、手頃な値段でソーライスが食べ放題だったとか。ソーライスとは白ご飯にソースをかけた食べ物です。安価でお腹いっぱい食べられる洋食として人気だったとか。


蓋の形状

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ガラスの駒のように見えますね。戦前の醤油差しとソース差しの蓋は、ねじ式に作られています。開けるのに一手間かかりますが、蓋上部のちょっとした意匠も可愛いです。復刻版はすり口ガラスなので、こんな感じです。


和ガラスの本

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ガラスを収集するのはちょっと…と思っていた頃に購入した本です。美しい和のガラス(誠文堂新光社 1,980円)。入手しやすく気軽に楽しめます。氷コップ、ソーダコップ、アイスクリームコップ、みつ豆鉢、リキュールグラス、時計、文具におもちゃまで、戦前のガラス製品が網羅されており、ガラスの技法も紹介されています。


終わりに

昔のガラスは、歪だったり、シワ、寄り、気泡が入っていたりと、現在では不良品扱いされてしまいそうですが、当時の手作りの良さと魅力が充分にあります。私はガラスに惹かれる度、川越骨董市に出店している女性店主の話を思い出してしまうのです。その方は、自身をガラスに取り憑かれた女と自称されており、ガラスで散財してスッカラカンになった、ガラスの魅力は危険…なんてボヤいておられました。その方のお店には確かにコレクターが好きそうなガラスばかり並んでいたので、ご自身のコレクションを出品しているのかなぁ〜なんて感じました。私もいつかそんな日が来るのかもしれません。