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1928年の結髪

1928年の美容研究号より、美容家マリー・ルイズ先生が勧める結髪を紹介したいと思います。日本髪、洋髪のアドバイスが書かれていますが、ここでは洋髪のみを取り上げ、昔ながらの長い言い回しは避け分かりやすく端的にまとめることにします。

著名な美容家であるマリー・ルイズについて少しだけ触れておくことにします。本名を相原美禰といい、アイルランド人の父と日本人の母の間に1875年麹町で生まれました。10代で渡仏し、フランスの近代美容を日本に広めた功労者です。帰国後、1913年に美容院「巴里院」を開業し主に上流階級の女性たちに支持されながら、ヘアピース「ルイズ髷」の開発や女性の自立支援として美容術を指導するなど活動を展開していきました。また婦人雑誌にて、結髪、洋装の仕方のアドバイスも行っています。

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以前載せたことがありますが、1927年の婦人グラフに掲載された「巴里美粧院」の広告。


1928年の装い

本題に入る前に、結髪だけでは当時をイメージしづらいと思うので、この頃の装いがどんな様子だったか画像を載せておきます。1920年代らしいモダンな着物に、髪のボリューに差はありますが全員耳隠しです。

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マリー・ルヰズ(マリー・ルヰズ化粧院)による結髪指南

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婦人の髪型は化粧よりもその人の美しさを表すものです。髪の結い方一つで顔が生きもすれば死にもし、美しくもなれば醜くもなり、上品にもなれば下品にもなります。髪をただ単に頭だけのものとして考えるのは、大きな間違いです。自分の顔や姿には、どう結んだら釣り合うか、どんな髪型が似合うかを第一に考えなければなりません。流行も流行として見なければなりませんが、どんな流行の髪型も先程述べた心持ちで取り入れるならば、必ず自分のものとすることができるでしょう。

そこで顔形によって考察しなければならぬ根本の注意を伝授致します。


顔の大きい人

背が高くて大きい顔の方なら、全体的に釣り合いが取れています。背が低い方だと、顔のパーツが男性的で頬骨も出ている人が多くいます。その欠点を補うためには、髪型で優しく見せる工夫が必要です。

顔を髪で覆える耳隠しがお勧めです。ウェーブをかける時は強くかけず、なだらかなウェーブにし顔を被せるようこじんまりした形にまとめましょう。


顔の小さい人

毛量があり生え際が濃い方多いです。こういう場合はシンプルに仕上げるのが無難でしょう。

七三の耳隠しは入れ髪を用いない方が良いです。前髪は後ろに流し膨らみをつけるように結ぶと、多少顔が大きく美しく見えます。ウェーブは全体的にかけず、アクセント程度に付けるようにしましょう。


首の長い人

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顎骨が張っている方が多くいらっしゃいます。その欠点を隠すには、耳から首筋へふっくらさせてるように仕上げることです。

割とどんな髪型でも似合います。去年(1927年)鏑木清方先生の『築地明石町』のように、髪のボリュームを上へ持っていく夜会巻にするのも引き立ちます。また、逝去された九条武子婦人のように、耳から襟へ膨らみをつけて結ぶのもお勧めです。着物をお召になるならば、どちらの髪型でも衣紋は抜かないようにして下さい。


首の短い人

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断髪も、断髪式の髪型も禁物です。オールバックも似合いません。若い方は図のように中根を取って、髱をつけ、髷を真ん中でまとめます。髷は上に広がるタイプの末広巻にすると首元がスッキリして見えます。着物をお召になる時は衣紋を抜きましょう。


額の広い人

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今の洋髪は額の広い方が似合います。画像のロイズ・モーラン嬢のように前髪を真中で分け、耳元にウェーブをかける髪型も可愛らしいです。マーセルウェーブで額を狭く見えることも可能ですし、個性的な形を作っても面白く仕上げることでできます。


額の狭い人

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前髪を高くしない方が良いですが、額へ被せるのも禁物です。工夫で欠点を隠さない方が無難かもしれません。角張った額なら、その部分だけ鏝を使用して、画像右のように額に毛を被せることもできます。

目鼻立ちの整った、彫りの深い輪郭の美しい方でしたら、画像中央のグレーター・ガルモー嬢のように、生え際の後れ毛だけをカールさせるのも現代的で面白いです。

色白の優しい顔立ちの方なら、水谷八重子さんのような結び方も良いと思います。


顔の長い人

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洋髪よりも日本髪の方が似合います。

洋髪で七三にすると一層顔が長く見えるので避けた方が良いです。図のように前髪を真ん中から分け、耳の下あたりを膨らませるようにウェーブをかけて下の方で髪をまとめましょう。そうすることで顎が短く見え、長い顔が目立たなくなります。


顔の短い人

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額の狭い方と共通するところがあります。

顔の長い方と反対に、真ん中から分けることは禁物です。一束の耳隠し(後ろで一束に結んでおいて、耳のところだけ、適宜に引っ張って膨らみをつける)にしましょう。通常の耳隠しにするならば、耳元のボリュームを減らし、図のように小さくまとめると良いです。


巾着頭の人

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現代人には分かりづらい巾着頭。単純に巾着袋のような形であるのでしょうが、頭の鉢が小さめで下膨れな形でしょうか。おかめを思い浮かべると分かりやすいかもしれません。

七三、オールバック、断髪はお勧めできません。図のように、前側を少し膨らませ、耳の後ろの方に少し入れ毛を使用すると頭の形が目立たず整います。


まとめ

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顔の形は十人十種ですからご自身の顔の形を見定め、長所を活かし短所を工夫で隠す必要があります。以上の勧めを実行して頂ければ、どういう顔の方にもきっとよく似合うお髪が見つかります。


美容号は結髪だけでなく、顔の大きさによる化粧法など美容で欠点を補う方法が幾つも紹介されています。国会図書館デジタルで検索すると、戦前の美容本が数多くヒットします。著者のアドバイスや方法はそれぞれ異なりますが、結果的に共通しているのは「自分の長所と短所を理解し、好みよりも自分を引き立てる装い・化粧・結髪をすること」です。頭では理解できても、自分を引き立てる方法を見つけるには時間と苦労を要します。私は昔の着物や化粧に興味を持つまで、こういったことを考慮したことがありませんでした。今でも自分に似合うもので、しかもその時の気持ちに合致している装いをするのに苦労することが多いですが、戦前の書籍を参考にしながら徐々に楽しめるようになりました。まだまだですが・・。

またの機会に顔型による化粧法や、もう少し詳細に指南された結髪法を取上げてみたいです。