★《続・読書余論》三上綾子著『匪賊と共に――チチハル脱出記』昭和31年刊


 こんかいの《続・読書余論》は、小説です。満州や北朝鮮を知るにはどうしても匪賊を知らなければいけない。その入り口の教材として、こういう小説なら、イメージを把握しやすいかもしれません。

 もちろん、これをノンフィクションだと思ってはいけない。満州国には匪賊は存在しなかったからです。日本軍がどのように匪賊を討滅したかについては、「おまけ」をごらんください。対ゲリラ戦の参考にもできるでしょう。

 昭和30年代、40年代の古本では、ノンフィクションなのかフィクションなのか分からない作品におめにかかることがあります。
 この作品の出だしの三分の一には、じっさいに満州から引き揚げてきた人でないと書けそうにはない生々しさ(パターンを裏切る意外性)があります。しかし後半の三分の二にさしかかりますれば、定型パターンがやや鼻につき、だんだんと作り話だとバレてしまいます。

 この作者、これだけ手馴れた書き手ながら、他の作品はありません。雑誌記事すらも。まちがいなく、プロの大衆小説の先生が、変名を使って一発当てた企画でしょう。ただし、取材はちゃんとしている。引揚者の見聞が骨子になっている。そこは珍重すべきです。

 ついでに「匪賊」のキーワードでひっかかった、30点強の資料摘録を《旧・読書余論》から引っ張り出して、おまけにつけることにいたしました。中には『朝鮮警察官殉職史』『太田伍長の陣中日記』『支那に在りて思ふ』『戦跡を顧みて 第一巻』『従軍五十日』『戰線餘白』『軍務局長の賭け』『最後の参謀総長 梅津美治郎』『秘録 土肥原賢二』『水滸伝と支那民族』『元帥上原勇作傳』『匪賊――中国の民乱』『現代支那論』や防研史料等が含まれています。かなりのボリュームです。今回の単価は良心的であるとご納得がいただけましょう。

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