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読書感想文

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海外文学や現代文学の感想文。
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#川端康成

2024年4月読書記録 川端、太宰、ドストエフスキー

マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』(東京創元社・酒寄進一訳)  ドイツミステリーの翻訳者として有名な酒寄進一さんが編集した短編集です。日常に忍び寄る不安や孤独、悲しみ。それらの感情が引き起こす出来事を淡々と描く物語が多いです。リアリズムのまま幕を閉じる話もあれば、薄い壁を越えて、非現実の世界に向かう話もあります。  村上春樹さんの短編には、女性が主人公の作品もいくつかありますが、それと似た雰囲気の作品がこの短編集にはいくつかありました。女性の不穏な気分が世界

2024年3月 読書記録 川端、太宰、モリスン&マッカーシー

3月は海外文学を2冊、日本の作家では川端康成・牧野信一・太宰治の小説を読みました。 トニ・モリスン『ジャズ』(大社淑子訳・早川epi文庫)  モリスンの小説は、これまでに初期に書かれた『ソロモンの歌』と『ビラヴド』を読んだのですが、この二作に比べて『ジャズ』はとても読みやすかったです。タイトル通りに、リズム感のある音楽的・詩的な文章が続くので、休日に一気読みできました。読者を選ぶ小説だとは思いますが。愛についの小説なんですね。欠落を抱えた者や自分を見失った者が他者とのつな

2024年2月読書記録 川端、太宰、アメリカ

オルハン・パムク『雪』(宮下遼訳・ハヤカワepi文庫)  パムクはトルコの作家でノーベル文学賞受賞者です。  ノーベル文学賞をとった作家には去年のヨン・フォッセのように難解な作風の人もいますが、カズオ・イシグロのように読みやすい作家も少なくないです。パムクは、読みやすいタイプの作家だと思います。ミステリー的な要素や恋愛要素もある話なんですね。途中ちょっと中だるみがありますが、導入部とラスト三分の一ほどは続きが気になって一気読みしました(文学作品なので、すべての謎が解き明かさ

【読書感想文】 川端康成『山の音』

 川端康成の小説を初めて読んだのは小五か小六の時です。当時は、中学受験界にSAPIX(大手の塾です)が参入する前だったので、受験勉強用のメソッドが確立されていなかったんですね。国語は漢字や熟語・慣用句などを暗記して、あとはひたすら名作と言われるものを読むだけでした(私は暗記が嫌いだったので、本を読むだけでしたが)。  川端は『伊豆の踊り子』と『雪国』を読んだはずです。『古都』も読んだかも。小学生には早すぎる内容ですよね。自分や自分の親に似た人たちの話を読むだけでは世界が広がら

2023年11月読書記録 志賀直哉と川端康成など

 今週の初めに、一泊二日で日光に行ってきました(写真は田母沢御用邸の紅葉です)。ツイッターでフォローしている方々が旅先にも本を持参なさっていて。素敵な習慣だなーと思って、Kindle端末を持って行ったのですが、旅館のストリーミングにあった映画『ザ・フラッシュ』を観てしまったので、Kindleを立ち上げる暇はなし。  『ザ・フラッシュ』もよかったですけどね。主役のエズラ・ミラーがうまい。エズラは『少年は残酷な弓を射る』の息子役も忘れがたいですし、『ウォールフラワー』もよくある青

川端康成『みずうみ』 【読書感想文】

 私が中学受験をした時には、日本人のノーベル文学賞受賞者といえば川端康成しかいなかったので、『伊豆の踊り子』が必読図書でした。  確かに小学生でも読める作品でしたが、あまり印象に残りませんでした。  関東在住の友人たちは、この本を読んで天城峠に行ったりしたようですが、関西人の私にとっては、伊豆なんて、全くなじみのない場所ですし。  その後、中学生の時に『雪国』と『古都』を読みましたが、私には縁のない作家だという気持ちが強くなっただけでした。日本的な美しく繊細な世界なんて興味