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読書感想文

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海外文学や現代文学の感想文。
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#プルースト

プルースト『失われた時を求めて』を読む 後篇

 これは、鹿島茂さんの『「失われた時を求めて」の完読を求めて 「スワンの家の方へ」精読』という本の冒頭部です。タイトルからもわかるように、プルーストの大長編『失われた時を求めて』を完読するための第一歩として、第1篇の「スワン家の方へ」を鹿島さんが細かく解説して下さっています。  『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』を再読し、次になに読もう? と探していた時にこの本に出会いました。『失われた時を求めて』が挫折しやすい作品なのは知っていたので、解説書から読むのもありかなと思っ

プルースト『失われた時を求めて』を読む 前編

 プルーストの『失われた時を求めて』を読み終えました。  去年の9月の読書記録に『失われた時を求めて』(光文社版)の1巻を読み終えたと書いてあるので、1年と4ヶ月ほどかかったことになります。 大長編を読む楽しみ  いやー、長かった。『失われた時を求めて』光文社版は途中までしか出ていないのですが(なので、途中からはグーテンベルク21版を読みました)、岩波文庫版は14巻、集英社版は13巻。大長編ですよね。  フォローしている楠本栞さんが『なが〜い小説を読む醍醐味』という記事を

2023年10月読書記録 海外文学篇 二十世紀の二巨匠など

 どこも人手不足なのか、夫の転勤先の部屋も決めてから一ヶ月近く入居できませんでした(室内清掃等の人手がないらしい)。ということで、いまだにバタバタしています。でも、落ち着くまで私の仕事はお休み、それに転勤先の家にはパソコンやテレビがないので、ゆっくり読書ができました(向こうとこっちを行ったり来たりの生活です)。今回は、先月読んだ本のうち、海外の小説について書いてみます。 トニ・モリスン『ビラヴド』(吉田廸子訳・早川epi文庫)  南北戦争前後が舞台。奴隷だったアフリカ系の

2023年9月 読書記録 村上さんのエッセイ集、デルフト眺望など

 9月は、宮本百合子の超鈍器本『道標』に取り組んでいたので、他の作品をあまり読めませんでした。10月初旬にようやく読み終えたのですが、『カラマーゾフの兄弟』や『戦争と平和』に並ぶ長さだった気がします。青空文庫って分量がわからないので、気楽に読み始めてしまうんですよね…。 村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』(新潮文庫)  ジャズの基本を知りたくて、読んだ作品。ですが、村上さんがジャズを通して人生を語った作品としても読めますね。55人のジャズ・ミュージシャンとその音楽につ

2023年7月 読書記録 血の呪縛、毒親

プルースト『失われた時を求めて7 ソドムとゴモラ2』(井上究一郎訳・グーテンベルク21)  村上春樹さんの小説『1Q84』の主人公を真似て、寝る前に20ページずつ読んでいる作品です。去年9月の読書記録に第1巻の感想を書いたのに、あと3巻も残っている…。  ソドムとゴモラは聖書に出てくる都市の名前で、住民が同性愛行為を行ったために、神の怒りにふれて滅ぼされたとされます。  同性愛者だったプルーストが、同性愛を否定するような表現を使わなければならないことに、時代の制約を感じます

2023年5月読書記録 海外文学・歴史篇 ロシアのアネクドート、フランスの国民作家

 今月は青空文庫の作品を多めに読んだので、読書記録を二回に分けます。 網野善彦『海と列島の中世』(講談社学術文庫)  歴史学者である網野善彦先生の講演をまとめた本。  ネットで網野先生の名前を検索すると、まず出てくるのが『もののけ姫』との関係です。『もののけ姫』の世界観は、網野先生の歴史観に基づくものなんですね(宮崎駿監督と対談もなさっています)。  先生の歴史観を一言でまとめると、「日本には、農民以外の庶民も大勢いたのだ」ということになるかと思います。中世や近世の庶民と

2023年4月 読書記録 白樺派、芥川の親友たち

プルースト『失われた時を求めて5 ゲルマントのほう2』(井上究一郎訳・グーテンベルク21)  光文社版の翻訳が途中でとまっているので、グーテンベルク21版で読むことにしました。多分、学生時代に読んだ訳。明治生まれの人の訳は避けたいと思っているのだけど(できれば戦後生まれの人がいいけど、そうも言っていられない)、この訳は悪くない。貴族の(フランスでは廃止されているが、旧王族を含めて爵位で呼ばれている)サロンでの会話が延々と描写されます。軽薄で偽善に満ちたサロンの様子はよくわか

江戸時代の交換日記、ドレフュス事件 2023年2月 読書記録 【読書感想文】

 2月は村上春樹さんの初期長編を読み進めながら、合間に徳田秋声&谷崎潤一郎の小説を読みました。これらの作品については個別に取り上げる予定なので、ここでは、気分転換用の新書と寝る前に20ページずつ読んでいる『失われた時を求めて』について書きます。 揖斐高『江戸漢詩の情景 風雅と日常』(岩波新書)  森鷗外の史伝小説の影響で江戸時代の漢詩に興味を持ったので、入門書を読んでみました。江戸期に書かれた漢詩から、様々なアプローチで文人(≒教養人)たちの生活を解説する新書でした。

2023年1月 読書記録 ポピュリズム、カフカ、カフェーの女給

筒井清忠『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』(中公新書)  ポピュリズムの概念は理解できるのですが、どこまでが「国民の声を聞く」でどこからが「ポピュリズム」になるのか家族に訊かれても、答えられない。ーーということで、戦前のポピュリズムを分析しているこの新書を読んでみました。しかし、日本史専修出身とは思えないほど昭和史に疎い私にとっては良い復習になったものの、現状の理解にはつながりませんでした。家族には、「『オール・ザ・キングスメン』を観て考えてみよう。ショーン・ペン主

2022年12月 読書記録

 あけましておめでとうございます。今日は、会社の人たちと伝通院に初詣に行ってきました。  伝通院は、徳川家康の母親・於大の方の菩提寺です。今年の大河ドラマ『どうする家康』では松嶋菜々子さんが於大を演じるようですが、時代の波に翻弄されながらも、息子・家康の天下取りに大きな役割を果たした女性ですよね。伝通院周辺には、他にも徳川家ゆかりの女性の菩提寺がいくつかあるので、いつかまとめて紹介したいです。  さて、去年の12月は、青空文庫から五作品とそれ以外の三冊を読みました。 塩野

2022年10月 読書記録 娘が見た太宰治、青空文庫など

 noteで紹介するために、本腰入れて青空文庫の作品を読み始めました。10月に読んだのは7作品。そのうちの2作品をここで取り上げます(残りは後日、個別に感想を書く予定です)。 島崎藤村『桜の実の熟する時』   島崎藤村は、村上春樹さんが選ぶ国民作家リストに名前が挙がっていたので、代表作以外も読んでみたのですが……この小説、『破戒』で有名になる前の習作? と思いながら読んだのに、実は中期の作品。その割に、まとまりがなく冗長でした。『夜明け前』も二度挫折しているので、藤村の文

2022年9月 読書記録

プルースト『失われた時を求めて』 第一篇「スワン家のほうへ」(光文社古典新訳文庫)  森鷗外同様、プルーストも今年没後百年を迎えた作家です。学生時代に読み流しただけなので、再読したいと思いつつも、文庫本で十数冊というボリュームのある作品ですから、ためらいもあり…。  そんな時、村上春樹さんの『1Q84』に、プルーストを一日二十ページずつ、丁寧に読むと書いてあるのを見て、「これなら、できるかな?」と思い、真似することに決めました。今、第一篇を読み終えたところですが、この読み方