マガジンのカバー画像

青空文庫

33
青空文庫で読める作品を紹介しています。
運営しているクリエイター

#海外文学のススメ

本が私を育ててくれた 【読書エッセイ】

 母は他人の意見に流されやすい人だったので、子どもの頃、誰かが言っていたという理由で、自分には合わないことをあれこれやらされたものです。いつかひとこと言いたいと思いつつ、言ったことがないのは、「流されてくれて良かった!」と思うことがいくつかあるからです。  その一つが、祖母の家の近所にあった本屋さんのアドバイス。その本屋さんのアドバイスに従って、季節ごとに本を買ってくれたのです。今でもたまに話題になるようなロングセラー本が多かったのですが、どれも夢中で読みました。  母は本を

2024年5月読書記録 ポストモダン、太宰、女太宰、文フリ

鴻巣友希子『文学は予言する』(新潮選書) 鴻巣さんの文章は新聞や雑誌などでよく拝読していて、自分とは考え方が近い方だと思っています。ただ、考え方が近い分、著作を読むと共感や同意が溢れてしまいそうで、読むのをためらっていました。ノンフィクションの場合、心地よい読書が自分のためになるのかどうかわからない、批判したくなる文章の方が自分の思考を深めるのに役立つのではないかなどと思っていたからです。しかし、実際に読んでみると、当然ですが、鴻巣さんと私とでは教養や知識量がかけ離れている

2024年4月読書記録 川端、太宰、ドストエフスキー

マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』(東京創元社・酒寄進一訳)  ドイツミステリーの翻訳者として有名な酒寄進一さんが編集した短編集です。日常に忍び寄る不安や孤独、悲しみ。それらの感情が引き起こす出来事を淡々と描く物語が多いです。リアリズムのまま幕を閉じる話もあれば、薄い壁を越えて、非現実の世界に向かう話もあります。  村上春樹さんの短編には、女性が主人公の作品もいくつかありますが、それと似た雰囲気の作品がこの短編集にはいくつかありました。女性の不穏な気分が世界

2024年3月 読書記録 川端、太宰、モリスン&マッカーシー

3月は海外文学を2冊、日本の作家では川端康成・牧野信一・太宰治の小説を読みました。 トニ・モリスン『ジャズ』(大社淑子訳・早川epi文庫)  モリスンの小説は、これまでに初期に書かれた『ソロモンの歌』と『ビラヴド』を読んだのですが、この二作に比べて『ジャズ』はとても読みやすかったです。タイトル通りに、リズム感のある音楽的・詩的な文章が続くので、休日に一気読みできました。読者を選ぶ小説だとは思いますが。愛についの小説なんですね。欠落を抱えた者や自分を見失った者が他者とのつな

2024年2月読書記録 川端、太宰、アメリカ

オルハン・パムク『雪』(宮下遼訳・ハヤカワepi文庫)  パムクはトルコの作家でノーベル文学賞受賞者です。  ノーベル文学賞をとった作家には去年のヨン・フォッセのように難解な作風の人もいますが、カズオ・イシグロのように読みやすい作家も少なくないです。パムクは、読みやすいタイプの作家だと思います。ミステリー的な要素や恋愛要素もある話なんですね。途中ちょっと中だるみがありますが、導入部とラスト三分の一ほどは続きが気になって一気読みしました(文学作品なので、すべての謎が解き明かさ

2024年1月読書記録 クンデラ、太宰、紫式部

 1月の読了本は6冊。川端康成の『山の音』については別途感想を書く予定です。 廣野由美子『批評理論入門「フランケンシュタイン」解剖講義』・『小説読解入門「ミドルマーチ」教養講義』(中公新書)  十九世紀の英国女性作家二人の小説『フランケンシュタイン』と『ミドルマーチ』を題材にして、小説をどう読めばいいか解説する新書です。  noteで書いている読書感想文の参考にしたいと考えて読んでみました。自分でも実践している読み方もありましたが、より深くより幅広い読み方を教えてもらえま

2023年11月読書記録 青空文庫で読む海外文学など

 脚本家の山田太一さんが亡くなりました。  山田さんのドラマで、リアルタイムで観たのは『ふぞろいの林檎たち』の3と4だけなのですが、林檎の1・2や『男たちの旅路』を再放送等で観て、とても感動しました。ふぞろい〜のテーマは今に通じるものがありますし、男たちの方は、鶴田浩二さんが何ともかっこ良く……。  また、大河ドラマ『獅子の時代』の脚本を高校時代に読んだことが、大学で日本史を学ぶ契機の一つになりました。  私にとっては、忘れがたい芸術家の一人です。  再放送やストリーミングで

2023年8月読書記録 17世紀のメタフィクション、子規の弟子

 今月は村上春樹さんの小説をまとめ読みしました。『ダンス・ダンス・ダンス』〜『アフターダーク』までの長編と、初期短編集『カンガルー日和』『回転木馬のデッド・ヒート』。これで長編は全部、短編も八割ぐらい読んだかな。村上さんの作品の感想は、また別に書く予定です。  それ以外では、三つの作品を読みました。 セルバンテス『ドン・キホーテ 前篇』(牛島信明訳 岩波文庫)  『源氏物語』を読むたび、千年以上前の作品なのに、これほど共感できるなんてと意外の念に打たれます。  海外の作品

『星の王子さま』

 お盆も、我が家はほぼ通常モード。旅行代わりに、帝国ホテルで『星の王子さま』アフタヌーンティーを食べました。  基本、感動系の物語は苦手なはずなのに、いくつか例外があって、例えば映画の『ショーシャンクの空に』なんて、好きすぎて海岸で最後のシーンを再現してしまったほどです(夫が船の修理をするアンディ、息子が鞄を持ったレッド役)。  サン=テグジュペリ作の小説『星の王子さま』も大好きな小説です。  色んな解釈ができる物語ですが、十代の頃読んだ説明が心に沁みついています。『星の

2023年7月 読書記録 血の呪縛、毒親

プルースト『失われた時を求めて7 ソドムとゴモラ2』(井上究一郎訳・グーテンベルク21)  村上春樹さんの小説『1Q84』の主人公を真似て、寝る前に20ページずつ読んでいる作品です。去年9月の読書記録に第1巻の感想を書いたのに、あと3巻も残っている…。  ソドムとゴモラは聖書に出てくる都市の名前で、住民が同性愛行為を行ったために、神の怒りにふれて滅ぼされたとされます。  同性愛者だったプルーストが、同性愛を否定するような表現を使わなければならないことに、時代の制約を感じます

2023年6月 読書記録 余計者、プロ文、堀辰雄

遅くなりましたが、先月読んだ本のまとめです。 高橋睦郎『漢詩百首 日本語を豊かに』(中公新書)  森鷗外の小説がきっかけで、江戸時代後期の文人画家、蠣崎波響が夫の先祖と知りました。文人画家というだけに、波響は漢詩を作るのも好きで、しかも、波響の漢詩に北大の教授が注釈をつけた本が出版されているんですね(絶版ですが、Amazonにありました)。いつか読んでみたいけど、漢詩の素養がなさすぎる。ーーということで、入門書になりそうなこの新書を読んでみました。  学生時代、漢文が苦手

2023年4月 読書記録 白樺派、芥川の親友たち

プルースト『失われた時を求めて5 ゲルマントのほう2』(井上究一郎訳・グーテンベルク21)  光文社版の翻訳が途中でとまっているので、グーテンベルク21版で読むことにしました。多分、学生時代に読んだ訳。明治生まれの人の訳は避けたいと思っているのだけど(できれば戦後生まれの人がいいけど、そうも言っていられない)、この訳は悪くない。貴族の(フランスでは廃止されているが、旧王族を含めて爵位で呼ばれている)サロンでの会話が延々と描写されます。軽薄で偽善に満ちたサロンの様子はよくわか

2023年3月 読書記録 殉死、最後の武士、耽美派

山本博文『殉死の構造』(角川新書)  殉死について、歴史学者が読み解く新書。森鷗外の『阿部一族』を読んだ時に気になっていた作品です。  主君が亡くなった時に、家来が後を追って死ぬ殉死。武士道と結び付けられがちですが、実際に行われていたのは短い期間なんですよね。最初の例は1607年に松平忠吉(徳川家康の四男)が死んだ時、1663年には口頭で殉死禁止令が出され、68年には家来が殉死したという理由で、奥平氏が石高を減らされています。『阿部一族』の元ネタになった『阿部茶事談』は殉死

2023年1月 読書記録 ポピュリズム、カフカ、カフェーの女給

筒井清忠『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』(中公新書)  ポピュリズムの概念は理解できるのですが、どこまでが「国民の声を聞く」でどこからが「ポピュリズム」になるのか家族に訊かれても、答えられない。ーーということで、戦前のポピュリズムを分析しているこの新書を読んでみました。しかし、日本史専修出身とは思えないほど昭和史に疎い私にとっては良い復習になったものの、現状の理解にはつながりませんでした。家族には、「『オール・ザ・キングスメン』を観て考えてみよう。ショーン・ペン主