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青空文庫

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青空文庫で読める作品を紹介しています。
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#ツルゲーネフ

本が私を育ててくれた 【読書エッセイ】

 母は他人の意見に流されやすい人だったので、子どもの頃、誰かが言っていたという理由で、自分には合わないことをあれこれやらされたものです。いつかひとこと言いたいと思いつつ、言ったことがないのは、「流されてくれて良かった!」と思うことがいくつかあるからです。  その一つが、祖母の家の近所にあった本屋さんのアドバイス。その本屋さんのアドバイスに従って、季節ごとに本を買ってくれたのです。今でもたまに話題になるようなロングセラー本が多かったのですが、どれも夢中で読みました。  母は本を

2023年3月 読書記録 殉死、最後の武士、耽美派

山本博文『殉死の構造』(角川新書)  殉死について、歴史学者が読み解く新書。森鷗外の『阿部一族』を読んだ時に気になっていた作品です。  主君が亡くなった時に、家来が後を追って死ぬ殉死。武士道と結び付けられがちですが、実際に行われていたのは短い期間なんですよね。最初の例は1607年に松平忠吉(徳川家康の四男)が死んだ時、1663年には口頭で殉死禁止令が出され、68年には家来が殉死したという理由で、奥平氏が石高を減らされています。『阿部一族』の元ネタになった『阿部茶事談』は殉死

自己嫌悪とリストラ 二葉亭四迷『浮雲』 【青空文庫を読む】

 学校で習った戦前の文学史、最初に出てくるのは、戯作者・仮名垣魯文の『西洋道中膝栗毛』、坪内逍遥『当世書生気質』、そして二葉亭四迷の『浮雲』という感じでしょうか。  青空文庫には、仮名垣魯文や坪内逍遥の小説はないので、今回は、二葉亭四迷の『浮雲』を取り上げます。  二葉亭四迷といえば、「自己嫌悪に陥って、自分をくたばって仕舞えと罵ったことから、ペンネームを二葉亭四迷にした」というエピソードが有名です。自己嫌悪の叫びをペンネームにするなんて…。『余が半生の懺悔』という随筆を読