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青空文庫

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2023年4月の記事一覧

今月今夜のこの月を 尾崎紅葉『金色夜叉』 【青空文庫を読む】

 昔、母が祖母を連れて東京に遊びに来ることになった時、途中で熱海に一泊すると言うんですね。  今の熱海は高級旅館やレジャー施設もできて、魅力的な温泉街になっていますが、その頃は何となくうらぶれ感がありました(ウィキによると、熱海市を訪れる観光客が増加に転じたのは、ここ十年ほどのことらしい)。途中で寄るなら、伊豆の方がいいのにと勧めると、母の答えは「おばあちゃんが、寛一お宮の像を見たがってんねん」。  寛一お宮? その時、彼らが『金色夜叉』の登場人物だと知っていたのか、どうか

2023年3月 読書記録 殉死、最後の武士、耽美派

山本博文『殉死の構造』(角川新書)  殉死について、歴史学者が読み解く新書。森鷗外の『阿部一族』を読んだ時に気になっていた作品です。  主君が亡くなった時に、家来が後を追って死ぬ殉死。武士道と結び付けられがちですが、実際に行われていたのは短い期間なんですよね。最初の例は1607年に松平忠吉(徳川家康の四男)が死んだ時、1663年には口頭で殉死禁止令が出され、68年には家来が殉死したという理由で、奥平氏が石高を減らされています。『阿部一族』の元ネタになった『阿部茶事談』は殉死