裏ひよこ日記　金曜日の朝

最近のパリの朝は早い。そして日が沈むのが大変遅いのでまだ夕方みたいな雰囲気なのに
夜9時とかだったりする。なのでちょっと頭が混乱する。え？今何時？と。

フレッドはいつも通りに起きたらしくシャワーを浴びて、バシッとスーツを着て、エプロンをつけて朝食の支度までしてくれて呼びに来てくれたんだが、まだ残業のつかれとか昨日のアイツのせいでなかなか頭が覚めない。

どーしてこの人朝からシャキシャキ動けるんだろ…何だこの体力差。

ひよこ。朝ごはんできてるぞ。

おはようございました。

？？は？

先にたべてていいよ。会社いくんでしょ？

ああ。

起き上がろうとしたが体が重い。

今日は家の掃除をしなくてはならないのだ。
何だけど兎にも角にも眠いし怠い。

しばらくしてもわたしが食卓に現れないため二度寝したのかと思われたのかベッドルームにフレデリック大先生はやってきた。

寝てるのか？

起きてます。

朝食たべるんだろ？

食べる気はあるんだけど…なんかうまく起き上がれません。

最初意味がわからなかったようだが、直後にハッと気付いた顔をした大先生は
いや、その、ほんとごめん。とわたしに詫びた。

そっちに朝食運ぶからちょっとまってて。

オレンジジュースとコーヒーとタルティーヌと半熟卵と小さめなサラダをトレイにいれて運んできてくれた。

ありがと。

…支度しなくていいの？

まだ時間ある。

今日何時くらいに帰ってくるの？

多分１５時くらいには。早く片付けばもっと前には出れるかな。

掃除洗濯窓拭き、バスルーム、ゲストルームのベッドメイキング、それから買い出ししてから下拵えと花屋で花を見繕って、パティスリーで予約したケーキを受け取るっていう行事が控えとるんよ。

…ああ。

アナイスとアレックスたちのサプライズ婚約祝いでしょ？
やっぱり綺麗にしときたいじゃない？…でも、わたし今起き上がれる気がしない…

ここぞとばかりにチクチクチクチク言ってやった

…いや、ほんとごめん。

だからめっちゃ巻きで仕事して秒で帰ってきてくれるんよね？

もちろんです。奥さま。

叱られてしゅんとしてうなだれた尻尾があるかのように見えてしまう大型犬ワンコの様相を醸し出すフレッドの様子になんとなく可笑しみを感じてしまう。

ほんと早く帰ってきてもらえると助かる。することがいっぱいあるから手分けしないと。

午前中に片付けて正午に出れるようにするから。

うん。

わたしもう少し寝ていいかな？

もちろん！ゆっくりして。

オレ絶対急いで帰ってくるから！！

うん。

何故かひよこが笑いだした。

もう出る時間じゃない？

あ。そうだ。行かないと。

行ってらっしゃい。こんなところから言うのお行儀よくないけど。

いや、構わないよ。ありがとう。行ってきます。

…やべー…ひよこ起きれなくした…。

会社に向かう車の中で苦笑いしながらも裏腹に心は満ち足りまくっておりなおかつ体が激軽だった。

とにかく今日は昼までに仕事を片付けて帰らないとひよこの機嫌を損ねるわけにはいかない。

なんかそういう出来事がいちいち新鮮ですごくワクワクしてしまう自分もいる。

オレ嫁に主導権握られるタイプだ。
という考えに至るとおかしくなって一人で笑いがこぼれてくる。

そういうのも悪くないなって思えたりなんかして。