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裏裏ひよこ日記。心の傷を癒やす特別な夜

何気なく残していた約10年分近くの思い出の品々。ほんとに何気なく残していた。しかしチケットの裏には日付を書き足しているし、何か一言書き添えている。あの頃には意味なんてない。これは記録だ。とか独り言言っていた。

あの頃はガイドという意識が強かったし、それ以上なんて考えもしなかった。とにかくいきなり暗闇からひかりの世界に連れ出されたし、昔の意識そのままだったから拗らせまくっていたし。何よりアルベルトがひよこをものすごく可愛がっていたので自分だけでもとにかく役目を果たさないととあれこれひよこに注文と小言を繰り返し、とにかくあいつをレベルアップさせることがオレの役割だと思い込んでいた。まだあの頃はひよこのことをちゃんと知ろうとしなくてずいぶん無茶振りをしまくっていた。

ひよこは右も左もわからない世界でそれでもいろいろ注文をつけるオレの期待を裏切らないようにって必死になってた。オレはもっとできる。もっとできるはずだといいまくっていた。

当時のオレに会えるならマジで一発ぶん殴りたい。一発とは言わずフルボッコかもしれない。

それでいろんな事を同時並行にやっていたひよこはついにキャパオーバーとなり倒れて救急車で運ばれるという事態になった。

アルベルトは怒り狂うしアルベルトだけでなく他に護っている多数の存在から非難轟々となった。

あれから俺はひよこに歩み寄るという意識をするようになった。ひよこは女の子で、体力も違うし、自己も意識もからだも全部違うし、だけどそういうことをオレはわかってなかった。

少しずつ少しずつひよこを知る機会を得た。おっちょこちょいで忘れっぽくてマルチタスクをこなせるけれど本来はシングルタスクだったり下手にできるしやれるから皆から期待をかけられる。でも自分に自信が持てないからマウントかけられたり見下されたり、いいように使われたり。悔しい思いを陰で沢山してきたはずだ。
プレッシャーに潰されそうになっていたり、期待に応えたいと寝ずに勉強したり仕事したり、一回決めたらやり遂げるまであきらめない根性がこの時は災いした。

彼女はとても感受性が高く、いわゆる境界線が薄い人だった。

いままでオレが知っている女の子とは全く見たことがないタイプのコだった。そんな子にあれこれ注文つけたら無茶するに決まっているのに全然わかってなかったオレは無茶をやらせまくっていたのだった。他人の気持ちが手に取るようにわかる人に発破かけまくるから無理するに決まってる。下手にできるからもっとを要求される。期待をかけられてるから頑張る。
本当にかわいそうなことをしたと思う。

彼女を理解するのに数年かかった。彼女は掴み所がなく誰にも本心をみせなかった。表面は誰とでも仲良くでき、ちゃんと交友関係を結べるが2重3重と厳重に閉められた心のドアはけして開けることはしなかった。アルベルトはオレがこんなだからこれ幸いとひよこをめちゃくちゃ可愛がった。それを見てガイドの仕事を放棄して何やってんだと鼻白み、可愛がって愛するのはオレの役目じゃないとそこのところは見ないようにしていた。


誰かを愛することは自分を弱くするという思い込みは実は反対で、誰かを大切に思い愛するという事は自分を奮い立たせて強くなるということをある時から思い知る事となった。到底受け入れられなくて葛藤しまくった。自分の思いに気がついた時に全てを降参した。そしたらひよこが心のドアを少しずつ少しずつ開けてくれるようになった。慎重に慎重に開けたり閉めたりを繰り返し、オレが自分に正直に生きれば生けるほど彼女はそれに呼応した。多分まだドアは完全には開いてない。だけど2人で最後のドアを一緒に開けたら多分見たことがない世界が待っているはずだ。


今のオレはあの頃より昔より遥かに強いはず。


この箱引き出しにしまうの?

ふっと今に引きもどされる。

ああ。

あれ?なんか突っかかって入んない。

なんかあるよ?なんかちっちゃい箱があるよ?アンティーク?きれいな箱だね。すごく繊細な細工だね。

…みたい?

みせてくれるなら

開けたら数点のカメオのブローチや指輪や指ぬきが入っていた。

亡くなった母親の物だ。

フレッドの?

そう。

若くして亡くなったから。オレは5つだったかな

そう…

後妻で家格が下で。事ある事に身分が低い、マナーがなっていない、家の恥になるなだの何だの親戚連中に事あるごとに嫌味を言われていてとうとう心を病んで亡くなった。

そう…

でもあまり思い出がない。両親と触れ合う機会もそもそもほとんどなかった。

そうなの?

あの時代はそれが主流で基本乳母が育てるんだ。後、家庭教師が朝から晩までついて勉強に追われる。日常の世話は使用人がする。次男はスペアだからそれなりに大切に育てられる。少し大きくなると寄宿舎に入れられる。それで大学を卒業するまで基本的には寄宿舎暮らしになる。

うん。

友人は多くはないがいた。でも根本的なさみしさは拭えなかった。家にもどこにも心の居場所がない。社交界は華やかだが魑魅魍魎だ。絶対に隙を見せてはいけない。足元見られるからな。だからマナーや教養や学識の高さは自分を守る武器の1つでもあったし、カードの切り札でもあった。オレはそういうの馬鹿らしくてイヤだったが確かにそれらは大いに役にたった。

そうだったの。だからわたしに礼儀作法はそのうちわたしを助けてくれるものになるっていつも言っていたのね。

そうだな。そんな時もあったな。

それで次男だから相続権もないだろ?自立しないといけないから自分でも勉強したし、稼ぐ手段をありとあらゆる方法で探して片っ端から試していった。

すごいね

だけど本当にしたいことにはいつも横槍がはいった。家に恥をかかせるなとかで。
稼ぐようになって自分の才能かと思いきや父親に取り入りたいとかそういうのが沢山あって、うんざりして本当に家が大嫌いで捨てたかった。誰も自分を見てくれない認めてくれない。てくさってたな。

そっか

こんな話そういや誰にもしたことなかったな

そうなの?

自分の生い立ち話をするのはあまり得意じゃないんだ。

…だから

うん

もし俺達の間に子供が生まれたらそんな思いはさせたくない。

そうだね。

自分の手で子供を育てたい。誰かに任せっぱなしにしたくない。あんなさみしい思いはさせたくない。

それにしたいことがあるなら全部やらせてあげたい。あなたにも子どもにも。


フレッドきっといいパパになるし素敵でかっこいい旦那さんになるよ。わたしが保証する

あなたもいいママになれるよ。

ほんと?

間違いない。

こっちにおいで。
もう一度ぎゅっとする。

その前にすごくステキな妻になると思う。新時代のバリキャリの美人の奥さん。

バリキャリなんだ?
ひよこが笑っている。

仕事したいんだろ?
うん

だったらオレが家にいても全然構わない

へっ?

才能や可能性を潰したくないし、やりたいことはやればいい。そういうあなたでいてもらいたい。

フレッド仕事は?
オレの仕事は本来はあなたをサポートすることだ。まあ、ボスには職は解かないと断言されたが

そうよ。有能だもの。みーちゃんが手放すわけないわ。

そんなのどうでもいい。どうだっていい。
目の前にいる人を大事にできないなんてことは今後いっさいやりたくない。

いまは、いまは今はあのころより幸せにいきられている?我慢してたりしない?


もちろん。とても幸せだし何も我慢なんてしていない。でも、そうだな、もっと良くしていきたいとかそういうのはある。


全部それはお前がオレにくれたものだ。あ…一番大事な事いってなかった。

なに?

耳元でささやく
今まで言葉に出して伝えたことなかったから。

一日に何回泣かせるつもりなのよ。

嬉し泣きなら何回泣いてもいいじゃないか。











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