ひよこ日記。ロンドン、タウンハウス⑦ 木曜日のフレッド
タウンハウスにフレッドがかえって来ているので使用人の皆様はピリピリである。
フレッドは使用人の方々を見てないようできっちりみているタイプらしい。
玄関も門扉も階段もなにもかもピカピカに磨きたてられている。月曜日にわたしが来たときもすごく綺麗だっだけど、木曜日のそれは更にすごかった。
屋敷の主人としてはそんくらいのほうがいいのかもしれない。
てか、あの人昔々はほんとどんな人だったんだろう?
部屋に戻って荷物を置いたら同じタイミングでマギーさんがノックしてきた。どうぞと言うと
マギーさんからひよこさま。着替えの準備を始めましょうと。
ちょっとごはん食べに行くくらいだから特に着替えいらないかと。
なにをおっしゃいます。フレデリックさまからおいいつけです。
はい?
今日行くレストランはジャケット着用不可欠のイギリス最古のレストランでございます。
は?
ですから普段着では入店不可でございます。
え、う?あ、ちょっと…服…そんなの持ってきてたかな?どーしよう。研修用の感じの服しかトランクに入れてきてない!!どうしよう、買いにいかないと。
ご心配に及びません。
?
フレデリック様がひよこ様のお洋服を持って来られました。
そうなの?
はい。ご確認なさいますか?
はい…
クローゼットを開けるとよく着てる見慣れたワンピースやジャケット、シャツにスカート、靴。
これは?
それはフレデリックさまが
黒のイブニングドレス、クラッチバッグに、ハイヒール
会食もございますし。
ん?ん?は?
出ろという事か…
それと見慣れない洋服何着もある
あの…見たことない洋服があるんですが。
先程フレデリック様がご購入されてこられた品々でございます。
…?!
しかし。たすかる。正直間違いないセンス。
マギーさん。その最古のレストランになにを着ていけばいいかわたしはさっぱりわかりません。
私におまかせを。
お願いします。
その前に下に残したふたりはジャケット着用の店とか知らないはずだ…どーすんの?
着替え前に下に行ってきます!
すぐにお戻りを。
はい
階下の居間におりていくと
ギヨームとカイが引きつった笑顔をしていた。
行きたいっていっただろ?
椅子に座ってゆったりとした動作で紅茶を啜るフレッド
言いました。
バッキバキに緊張した感じのふたり
ならバシッと決めてくるんだな。
19世紀のアンティークの家具に囲まれた部屋の中にフレッドはドハマリしていた。
ギヨームは困り顔でカイは面白がっている
ジャケット…スチームあてないとまずいな
てか、ジャケット…研修に着てきたスーツしかないんですけど…。
取りにかえってこい。
送り迎えさせるから
は、はい…
あ、ひよ!おまえ、待ったぞー。
おまたせしました。
トマスさんが怪訝な顔をする。
トマスさん。私の学友で親友で会社の同僚です。フレッドの友人でもあります。
そうですか。わかりました
なに、どれがNGワードなの?
小さい声でギヨームがカイにヒソヒソいってる
ひよ。おまえ。だろ。間違いなく
ま、そういうことになるな。
ここがどこだかわかるな?
…
わ…
カイとギヨームが目配せしてきた
ごめんね
いや。気にすんな
ふたりはスーツに着替えるべく一旦ギヨームのおばあさまの家に戻った。
あんな言い方しなくてもいいじゃない。
何がだ
言い方きつすぎるわよ?
知らん。
は?
礼儀作法教えただけだ。
ふぁー
それより、クローゼットみたか?
みた。
ありがとうございます。
然るべき場所に然るべき服装で、然るべき言葉遣いで話す。当たり前のことだ。
そうですね。
庭にでませんこと?
ふたりにしてくださる?
お前たちはついてこなくていい。
庭にでる。チラチラ雪が降ってる
風邪ひくぞ?
いいのよ。
なんだよ。
にっこり笑ってガスっとやってやった。
いってーな
あのな…
家のことはわかったわよ。だけど私の大切なお友達にあんな言い方しないで。
泣くな。
泣いてない
鼻が赤いぞ?
うるさい
すまなかった。
フレッドが払いきれないくらい3人で食べてやるんだから!
フレッドはクツクツ笑ってまたもや髪をくしゃくしゃにした。
お前といると楽でいいや。
だけどそれだけじゃだめなんだ。
くしゃくしゃ
一個上のステージに行く時はしんどいも込みなんだ。わかってくれ。
くしゃくしゃがやんだ。
ふわん。とホワイトムスクとラベンダーの香りが背後からする。
押し上げる方だって楽じゃないんだ。
わかってるよ。
どうせ損な役回り押し付けられたんでしょ?
片割れだから。
…
冷える。中に入ろう。風邪をひかせたくない。
うん
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