記憶の欠片の物語 11
ベンチに項垂れて頭を掻きむしってこの先どうしようみたいな空気漂わせてるあいつをうっかり見つけてしまい、こっちがバツがわるい。
ああ…やっぱりそうなるよな
雨も降りそうな天気になってきたし。
さっき迄晴れてたのに。ロンドンはグレーの世界。
声かけたら家連れて帰るハメになるぞ?
いいのか?
自問自答したけど目の前に困りきったやつがいるのにどうしたって見過ごせない。
ノブレス・オブリージュ…
関わった以上は決めないと。できるのかな?この俺に。
あーもういいや!考えるのめんどくさい。
…お前なにしてんの?
ビクッとしてあいつがこっちを向いた
…あ。
何その荷物。
…いや、その。あはは…
空笑いしてるが追いつめられた感じ
帰るぞ
ベンチ迄歩いてトランクを持った。
行くぞ
あ、あ、うん。
タウンハウス迄ふたりとも無言だった。
自宅に帰り着くとトマスが出迎えてくれた。
あいつと荷物を見てトマスはあいつに
いらっしゃいませ。の代わりにおかえりなさいませ。といった。
あいつはは?て顔した。
トマスがおかえりなさいませといったから
もうそういう事だな。
次の下宿先を見つけるか、うちに居候するかゆっくり決めたらいいさ。幸い部屋もあるし飯も食えるし、シーツも毎日洗濯されるし、硬いベッドで寝なくていいし。悪くないとおもうけどな。
あ、あ
現実いくとこないならしばらくここにいたら?
ぼく、あの、その…
追い出されたんだろ?家賃滞納して。
あ、うん。
恥ずかしいのか顔が真っ赤になってる
おまえんちの両親知ってんのか?
…いや、まだ知らない
家どこだっけ?
えっとどこそこ。
事情書いて知らせないと。
やんわりとした事情だよ。適当でいいさ。
うん。
トマス、悪いけど手紙書くから届けてくれない?2通2箇所。
はい。かしこまりました。
お前あの下宿の家賃いくらだよ?
食事代と合わせて○○くらいかな?
わかった。
それ毎月うちに入れろ。できるか?本は山ほどあるから買わなくていいから払えるだろ?
うん。
しばらくここにいていいから。身の振り方考えろ。
ありがとう。恩にきるよ。ほんとに。
…その瞬間から15年以上一緒に暮らすなんて誰が予想しただろう。
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