説明を諦めない、主治医ですから。

以下、低心機能、難聴で身寄りのない患者に対する、私の手紙です。これまで誰にも介入されなかったようで、初診時から極めて心機能の悪い症例です。いつも、家族宛て、本人宛に書きます。大体において「すごい、よくやるよ。」と、いささか揶揄されている空気を感じますが。本当は、皆でやりたいこと、やるべきことだと思いますが、なかなか、どうして。なので偏った内容では無いかどうか、家人に聞いてみたりします。初めて公開します。忌憚ないご意見をお願いします。

「〇〇さんへ

あなたの病気の名前は、心不全(しんふぜん)です。

 心不全は、心臓の動きが悪くなって血液がうまくカラダの中を流れなくなる病気です。血液の中には酸素が入っているので、うまく流れなくなると息切れを感じたりします。うまく流れなくなると、からだのアチコチにたまりやすくなるので足がむくんだり、胸に水がたまったりします。これを、何回もくり返すと〇〇さんの寿命が縮まってしまう病気です。何とか治療して悪くならないようにしないといけません。
 心臓は〇〇さんが生まれた時から、毎日休むことなく動き続けていて、寿命がきたら止まるようになっています。ゆっくりと動かなくなっていきます。骨が弱くなって腰が曲がったり、目が悪くなったり、耳が聞こえにくくなったり、髪の毛が白くなったり。カラダは歳をとると弱くなっていきます。心臓も同じです。ですが、病気が原因で動きが悪くなって止まってしまう人がいます。病気が原因で動きが悪くなった状態を心不全と言います。〇〇さんの心臓が、まさにその心不全です。〇〇さんの心臓は、お歳だけではなく心臓を動かす筋肉に問題があって少しずつ弱って来ているようです。初めて外来で診察して以来、いくつか調べて来ましたが、すでに心臓の筋肉が全体的に傷んでいて、動きがすごく悪くなっていました。それよりも悪くなっています。そして、元の元気な心臓に戻りそうにありません。
 心不全の治療は、リハビリをしながら、おクスリを飲んだり、食べ物を減らしたり、いくつも守らないといけないことがあります。辛いですが、胸がドキドキしたり息が苦しくなったり、救急車で病院に来なくてもいいようにするためには、とても大切なことです。これまで何回も入院をしているので、〇〇さんの心臓はもう長持ちしないかも知れません。今以上に長持ちさせるためには、これからも今以上に辛い治療に我慢していかないといけません。それでも長持ちできないかも知れませんが、我慢してやってみないとわかりません。
 〇〇さんは91歳です。日本の女性の平均寿命は89歳です。ずいぶんと長く生きて来られました。すごいことだと思います。ただ、悪くなった心臓の動きは元には戻りません。また、これからの〇〇さんの人生、その悪くなった心臓とともに、あと何年あるかはわかりません。なので、どんな風に生きていきたいか考えて欲しいと思います。「もう好きにさせて欲しい」と思っているかも知れません。もしそう考えていたら教えてください。もう少し楽な治療を相談しましょう。だけど、もっと頑張って、もっともっと長生きしたい、どんな方法を使っても長生きしたいと思うのなら多くの我慢をしないといけませんが、その場合も教えてください。どんなことが必要かお話しします。

主治医 ▲△より」


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