見出し画像

2024/09/08 映画(きみの色)・サイト・アニメ

映画(きみの色)

きみの色、見た! めちゃくちゃ良かった……が、作品の持つ空気感に対して、つい「これから何が起こるんだろう」と"物語の強烈さ"を構えて見てしまったところがあるかもしれない。驚くぐらいに、穏やかな映画だった。そこがちゃんとわかった上で、もう一度見てみたい気持ちがある。

美しい色彩と繊細な日常の芝居によって丁寧に形作られていったアニメーションだなという感じがあって。地味とか……この言葉はあんまり適さないかな、静謐……というのもちょっと違って、もっとふわりとした落ち着いた暖かさがある。パンフレットのインタビューを読むと《calm》という言葉が使われていたが、このあたりが適切かもしれない。
終わりを目の前にしつつも折り重なる3人の時間の尊さみたいなものは、ある種の永遠を描く日常系みたいなものとはまたちょっと違うんだけど。でもこの時間の感じにあるものって、そういうものの美しさだよなと思ったりする。
日常の所作の細かさの追求だと山田監督の『リズと青い鳥』とかを思い出すけど、あの冷たく張り詰めていて、学校というフィールドを鳥かごのようにして作られたある種の鬼気迫るような雰囲気に比べると、やっぱり『きみの色』はもっとナチュラルでのびやかだ。画用紙の上に水彩絵の具をぽとりと落とすとじわりと色が広がるような、優し気な鮮やかさに満ちていた。

登場人物の抱えている悩みはどれも小さなもの……というのもよくないんだけど、等身大な感じで。誰しもこういう感じの悩みに覚えがあるものなんじゃないかと思う。それによってすべてが崩れるわけじゃないんだけど、ずっと心のどこかに引っかかって、普段の生活に少しだけ影を落とし続けているみたいな、そんな悩み。しかも、僕ら大人はもうちょっと気楽かもしんないけど、今まさに世界を広げていかなくてはいけないみたいな、少年少女にとっては避けられないことでもあって。それをふっと吐き出す、あるいは寄り添うものとして、音楽がある。
そう、音楽の良さって、非日常の提供もあるけれども、(僕にとっては)生活に寄り添うものだったよな、と思う。自分としては、世界にカマしてやるとか、誰かに届けるとか、そういう大それたものよりも、すっとそこにあって、それによってすうっと息をすることできる、それが音楽の良さだと思ってたんだよなと、改めてそう思ったかもしれない。生活のアニメーションの上に、音楽がある。音楽ファンらしさを見せていた山田尚子監督の手がけた音楽のかたちは、すごくいいなと思えるものだった。

挿入歌もいいよな。『反省文〜善きもの美しきもの真実なるもの〜』はめちゃくちゃ『Blue Monday』みたいなNEW WAVE風。あんなに穏やかなルイくんの内に秘めたロックのアツさみたいなものを感じさせる。めちゃくちゃNew Orderっぽい曲でキーボード一本指奏法の披露はNew Orderのファンとしてめちゃくちゃウケてしまった。そのあたりの高校生がちょっと音楽やってみましたみたいな、インディー感・アマチュア感に満ち溢れた感じもすごくいい。New Orderの一本指奏法ほんとにいいのでこれだけ覚えて帰ってほしい。あとキーボード一本指で弾いてるスティーブン・モリスは正確無比なビート作りが持ち味の実はめちゃくちゃすげえドラマーってことも覚えてほしい……。

『あるく』はAmbientな感じで始まって、ゆっくりと心境を吐露するような歌なんだけど、最後に轟音のギターノイズで終わるところがすごくクールで、きみちゃんの言葉にならない気持ちがあふれてるみたいで、食らったなぁ。

そして『水金地火木土天アーメン』はめちゃくちゃ強烈なポップチューンで、ちょっとオリエンテルな香りもするかわいらしいポップロックって感じで。ちょっと相対性理論っぽいよなと思ったら実際ギターの方が参加してるらしくてウケちゃった。この曲って本当に良くて、ポップ・ソングの力なんですよね。思わず踊りだしちゃうみたいな楽し気な感じがあって、お堅いシスターの先生型が踊っちゃうみたいな映像もすごくハッピーで、美しくて涙が出ちゃったな。
そう、ポップ・ソングって力があるんですよ。ほかの曲もそうなんだけど。3人の抱えてる悩みって本当に個人的なもので、それ単体ではドラマにならないぐらいのものかもしれない(それをドラマにしてるのがこの映画のいいとこでもあるんだけどね)でも音楽にすると、みんなに伝わるんですよね。『水金地火木土天アーメン』なんてもともとすごく個人的なハッピーを曲にしたものでさ、トツ子のちょっと浮いてる感じってずっとあって、トツ子の見てる世界って人に伝わってないんだけど、でも音楽にすると人に伝わるんだよな、ハッピーがさ。これって、すごく美しくて、幸福なことだよ。
音楽って誰しもが自分勝手に自分の中の幻想に浸れるんだけど、でもなぜかその場にいる人たちでつながってるみたいな"錯覚"もあって、その音楽のマジックっていうかな、僕はそういうのがすごく好きで。その魔法が表現されてる映画だったよね。
配信音楽が主体になって、個々で音楽を聞く時代が加速していて。ライブハウスとかクラブとか、そういう身体性を伴う音楽ってちょっと前時代的なのかもしれないけれど。でも僕の思う音楽ってやっぱこれなんだよなと、感じてしまった次第です。トツ子が太陽に手のひらを掲げて自らの赤さに気がつくシーンも身体性のシーンで。美しかった。

ところで、作中で使われてた『Born Slippy Nuxx』といえば『Trainspotting』のことをみんな思い出すと思うんだけど。『Trainspotting』の『Born Slippy Nuxx』ってめちゃくちゃ魅力的で、この映画ってマジでどうしようもない若者が、うぉ~これからは全部うまく行くかもしんねぇ!!! って高揚感のあるエンディングのシーンで『Born Slippy Nuxx』がかかるんだけど(この後結局うまくいかないよなぁ……の『T2 Trainspotting』もね、いいんだけど)この無敵な感じがパジャマパーティで使われるっていうの、結構好きだなぁ。
『Trainspotting』とも少し関連して。音楽と鮮やかな色彩でドラッグを連想するのもあるんだけど、やっぱりこの『きみの色』を直でドラッグに結び付けるのはちょっと違うかなと自分的には思っていて。やっぱそういうドラッグ・カルチャーではない、令和の若者のフィルムでもあったよなと思うので。だからフレーバーとしてLSDっぽさはロックファンとしては笑顔になっちゃうポイントだけど、でも『きみの色』ってサイケではないんだよなぁ。内的世界の感じはちょっとサイケかもしれないけどね。なんの話だっけ……。

曲の話を続けたい。エンディングテーマのMr.Childrenの『in the pocket』いい曲だよね。これこそもう無茶苦茶にポップ・ソングで。この映画にミスチルって本当にマッチしてるの? って意見が結構あって、それもわからなくはないんだけど。自分はこのミスチル結構いいと思ったんだよね。
というのも、このミスチルの曲によってグッとカメラが引いて、映画が小さなフィルムからグッと自分たち観客ひとりひとりのところに降りてきた感じがするっていうか。さっきも言ったけど、『水金地火木土天アーメン』のシーンみたいな、ポップ・ソングの普遍的な「伝わる力」に結構食らったから、それってこの映画の大切なところだと思うんだよね。
その点ミスチルって本当にすごくて。僕はピロウズのファンで、『ストレンジカメレオン』ってめちゃくちゃいい曲があるんだけど。ピロウズのオリジナルの『ストレンジカメレオン』ってなんかめちゃくちゃ内省的な感じがして、僕みたいなひねくれたやつが「これって、アタシだけの曲だ……」って思っちゃうみたいな、そういう内側に向けたパワーがあるんだけど。でもミスチルの『ストレンジカメレオン』を聞くと「ああ、もしかしてみんな"出来損ないのカメレオン"だったのかもしれない」って思うんだよね。これってミスチルが超ビッグなポップ・グループっていう背景もあるとは思うんだけど、この普遍的にしちゃう力ってミスチルのマジックだよなと思ってて。だからこの映画がインディー感のある曲じゃなくて「みんながわかるようないいポップソング」で終わるの、これだなぁって思ったんだよね。音楽のパワーがあるんだよ。
一緒に映画見たやつがミスチルのファンで話を聞いてたんだけど。「この前のアルバムがハチャメチャに尖ってたんだけど、『in the pocket』がすごくストレートないい曲で、このリリースの流れもよかったんだよね」みたいなことを言ってて、なるほどなぁと思ったりした。ポップ・ソングなんですよね。そんなことを考えた映画でした。よかったな。

これちゃんと人に伝わる感想になってるかな? 全然自信ないけど……まぁそれも、僕の"色"ってことで。なんか音楽の作品に食らった時、ほんとうに驚くぐらいいつも同じ話してる気もするけど……。ともあれ、よろしくお願いします。

サイト

久々に更新した。お盆の内容でやっと勢いで書き上げた……。

アニメ

神之塔10、なれなれ10、Vでん10。

神之塔が萌之塔と化しててアツいな~。やっぱり俺ってコテコテの萌えが大好きで……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?